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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜


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5-②-8.強者の『片鱗』


 

 「待て!!」



 周りに出来た人垣を掻き分け、1人の男が進み出た。

 金色の髪を全て後ろに流し、身長はドラーク三兄弟よりやや低いが見るからに鍛えた筋肉は引き締まっている。

 自分を信じる眼差しは熱く、優しい中にも厳しさを宿している。

 「偉丈夫」と呼べる男がドラーク三兄弟を指差し、よく通る声で叱咤した。


 「自分の実力に自信を持つのは良い。男なのにAランクまで伸し上がったのも悪くない。祭に参加し、兄弟と酒を呑むのも当然。……だが!女の誘い方が最低だ!!」

 「なんだ、てめえは?」

 「何か文句あんのか?!」

 「大いにある!別の世界で男は女を守る存在だそうだ。そうでなくとも新たな命を産み出すのは女。その女に力自慢の男が群がって……挙句武器を取るなど情けないったらありゃしない!お前らの漢が廃るぞ!!」

 「……そこまで言ったんだ。今お前が死んでも、文句ないな!?」


 ドラーク三兄弟と呼ばれた内、一番上でチームリーダーをしていた男が背中の剣を抜き自分達を罵る男に斬り掛かった。

 その場にいたプレディカ達4人以外は喧嘩を止めに入った男の死を予見した。

 ……しかし。


 「なっ」

 「俺等、男は……何かを守るのにいつだって命掛けだろう?」


 真っ向から、片手……しかも指で摘む様に剣を止めた偉丈夫。

 仮にもAランクの男の力も存在も恐れず……迫った刃を指で止める。力量が高く度胸がなければ、こんな神業めいた芸当は出来ない。

 だがこの男は、然もそれが出来て当然と言う態度である。

 偉丈夫の男が剣を摘まんだ指に力を入れると、氷に罅が入る様な音が響き、やがてドラーグ長男の刃が粉々に砕け散った。


 「す、素手で鋼で出来た剣を……?」

 「本当に人間か!?」


 相手の挑発と取ったドラーグ三兄弟の残り2人がプレディカ達から視線を離し━━


 「この野郎!」

 「あのー、先に喧嘩を吹っ掛けたウチらから目を離すのはどうかと思うんですけど」

 「は!?がっ━━!!」


 既に懐に入ったメリッサとスレイに鳩尾を拳で貫かれ意識を刈り取られた。


 「品性や知性が残念なら実力も残念だねぇ」

 「あっちは……」


 形は同じAランクである筈のスレイが倒した2人の男をガッカリした様な声を出し、メリッサが激しさを増してきたドラーグ長男と偉丈夫の戦いに目を遣った。

 壊れた剣を捨てドラーグ長男が拳を握り偉丈夫を殴り付けるが、一切の傷が付かないどころか殴った拳が目に見えて腫れて行く。


 「どうしたどうした!その程度か!?」

 「コ、コイツっ!!」

 「そら!次は俺の番━━」

 「武芸を競う祭ならこの手の輩が増えるのは理解出来るが━━」


 ヒートアップしてきた男2人の喧嘩に横槍を入れたのは突如割って入って来たプレディカ。


 「流石に店に迷惑だ」

 

 因縁を付けられた男の顎に先ず掌底。

 平衡感覚を失わせ止めとばかりに膝蹴りを食らわせ、無防備な背中に体重を乗せた肘鉄を叩き下ろす。


 「ごふっ?!」

 「……あれ?」


 崩れ落ちた男を点になった目で見る偉丈夫。

 終わってみればドラーグ三兄弟と言われた男達はプレディカ・スレイ・メリッサにいとも容易く鎮圧されていた。

 これは……余計なお世話だったと言う奴だろうか。


 「プレ姉ぇ!こいつらどーするー?」

 「祭を盛り上げるには剥いて吊るせば良いらしいが……やった所で盛り下がるだけか。縛って表に転がしとけば良い」

 「了!」


 店の従業員に縄を借り、男達を縛り上げ店の外に放り投げるメリッサとスレイ。

 散らかった机などを起こし、衛兵を呼んで来る様野次馬に指示を出すプレディカ。

 放心する偉丈夫に声を掛けたのは、優しき笑顔で礼を述べるニーナだった。


 「危ないところを助けて頂き、ありがとうございました」

 「いや、返って迷惑だったみたいだな」


 自分が入らなくても、プレディカ達なら容易く撃退出来ただろう事実を想像し居た堪れない気持ちになっていたが、そんな男にニーナが両手を組み神の啓示の様な言葉を掛ける。


 「そんな事はありません。貴方の善行は全て貴方の真っ直ぐな心から出ているもの。それを迷惑だなんて思いません」

 「だったら嬉しいね。どうだい?お互い嫌な事はパッと忘れて飲み直すってのは?勿論此処は奢るぜ?」


 苦笑から流れ出た言葉は所謂……ナンパだった。

 騒ぎが起きなければニーナ達に出会う事はなかった。が、こうして出会ってしまったのだから声を掛けなければ絶対に後悔する。彼の中の男が━━漢がその衝動を象った。

 面白がって見ているのは、縄で厳重に縛ったドラーグ三兄弟を表通りに捨てて帰って来たスレイとメリッサ。 


 「おっと、中々上手いタイミングで誘うっすねぇ。ちょっかい掛けて来た男から身を挺して助け、更に怒った動機は同じ男だったから。それだけでもちょっと男気を感じるっす!」

 「更にそれを盾にするんじゃなくて、得てして境遇が同じになってしまった女への慰めとしてってね。あれはニーナでも断り辛い……」

 「貴方のお申し出は大変嬉しく思いますが……後ろのお連れ様は宜しいのですか?」

 「連れ?」


 思い掛けない好感触の言葉に高まった期待。しかし、ニーナに促されて見た後ろに仁王立つのは……彼の仲間である(筈)の女。

 表情は無い。だが肌に突き刺さる威圧感は明らかに怒ってる。次いでに言えば周りの者からはその額に青筋まで立てている様に見えた。

 見目麗しく、普段着ていた鎧を脱ぎ簡素な服に身を包み、プレディカ達と同等かそれ以上の美貌を持つ彼女だったが、声を掛ける勇者は居ない。

 切れ長の眦を吊り上げ……ニコリ……いや、ニヤリと口角を上げて声を紡ぐ。



 「随分楽しそうだな?人間」

 「げっ!?リ、リン!?何でこんな所に?!」



 外に来た衛兵に事情を説明し、戻ったプレディカが目撃したのは2人が会話をし始めた時だった。

 気になったのは……腕を組んで冷笑を浮かべ、先程までの偉丈夫然とした男にリンと呼ばれた女が放った表現。


 「(……人間?)」


 只人と蔑んで呼ぶ亜人は少なからず存在する。

 だが、その言い方は自分以外の種族を認めていない……遥か上からの表現にプレディカは感じた。

 男とリンの会話は続く。


 「船で醜態を晒し、街に着いてからも寝てばかり。仕方がないと調達や手続きを我等がして帰ってみれば、既に元気に遊び回っていたとは……」

 「あ、いや……身体も回復したから食糧でも調達して来ようかと……」

 「言い訳はらしくないぞ?貴様は何も手に入れていない処か、硬派を気取ってナンパしているだけだからな?」

 「ぐっ!……ええい!!俺も漢だ!?煮るなり焼くなり━━」

 「好きにする。だが安心しろ、殺しはしない……欠員が出ると面倒だからな?」

 「あ、いや……やっぱり、待って!?いや~~~!!」


 痴話喧嘩……と、片付けるには男の様子がおかしい。

 逃げようとする男の襟首を掴み、ズルズルと店外に消えて行った一組の男女。

 あれは恋人同士と言うよりもどちらかと言えば修行を嫌がる弟子を師匠が捕まえた様な……そう、クロとエルの様な関係に見えた。


 「……何だったんだ?」


 辺りは徐々に争いなど何もなかったかの様に整然とした店内が戻り始めた所でプレディカの時間が……()()()()



 「あはは……何かごめんね?」

 「━━!!」


 

 敵意はない。

 とは言え、自分の周囲に一定以上の警戒は張り巡らせていた。

 そんなプレディカの知覚にスルリと入り込んで来た声は……まだ幼さを感じる少女の声。


 「リンちゃんとベルデ君……あの2人、仲が悪い訳じゃないと思うんだけど……相性が悪いって言うかなんて言うか……」

 「いや、助けられたのはこっちだからな」


 偉丈夫……ベルデの名を初めて知ったが反応出来ず、すぐ横から声を掛けられてるのに相手の顔が見れない。

 努めて冷静を装ってはいるがプレディカの背中に一筋の冷たい汗が流れている。


 「……あの男に礼を伝えておいてくれ」


 リンとベルデと呼ばれた男女の仲間であろうと当たりを付け、言葉を選んで、慎重に声を出す。

 その結果。


 「うん!ベルデ君に言っとくね!ありがと!!」

 「は?」


 プレディカの手には黒金貨と呼ばれる……価値で言えば王都に一軒家が買える様な額になる硬貨が一枚握らされていた。


 「おい!この金は?!」

 「迷惑料~!お互いに頑張ろーね!?」


 驚きでバッと振り返り、去り際の少女を垣間見た。

 あどけない笑顔に亜麻色の髪を翻し、2人が去っていった方向に駆け出す少女。

 その姿が見えなく短い時間を、何も考えられずただ立ち尽くしていたプレディカ。


 「……ふふ」


 止まっていた時間が再び動き出すと、プレディカの額から汗が這い出た。

 思わず漏れた笑いと共に、渡された純金貨を握り締める。


 「プレ姉、早く飲み直そう……って凄い汗!?」

 「こ、黒金貨!?どうしたのソレ?!」


 戻った彼女に気付いたメリッサとスレイが、様子が可笑しく大金を手にしていたプレディカに驚きを示した。

 メリッサが差し出した布を受け取り、自身から出た汗を拭きながらプレディカが言う。


 「メリッサ……スレイ……今回の武芸祭、当たりだぞ」

 「当たりって……どういう事っすか?」

 「とんでもない化け物が隠れてる」

 「ば、化け物って……」

 「プレディカ……彼等の事?」


 離れた場所に居ても3人の会話を聞いていたニーナが、近付きながら問う。


 「あの男も強いが、そいつが恐れたあの女はもっと強い。今回の武芸祭は三人一組……最後の1人は……規格外だ」

 「そ、そんな奴居たっすか?」

 「……気付かなかった」

 「ちなみに……プレディカの所感は?」

 「得体の知れない分を足して……【最恐】級……ニーナが敬愛するエルシエル=フリソスと同程度かもな」


 プレディカが二度目の沈黙を作り出す。

 が、今回はそう長くは続かなかった。誰からともなく元居た席に座り、各々の酒杯に手を伸ばす。


 「って言われても」

 「もう出るしかないんすよねぇ」

 「ふふ。逃げればそれこそ【最恐】に叱られてしまいますからね」

 「……それは怖い」


 スレイとメリッサは諦めた表情を作り、ニーナは珍しく悪戯を楽しむ笑みを浮かべ、プレディカが苦笑した。

 先の騒ぎ、とりわけ無視出来ない強敵が居る事を頭に刻み、考えた方針を仲間に話す。


 「なら我々がすることは一つ、ティアとセリエの露払いだ。せめて万全の状態で戦って貰おう」

 「あはは!後はリリーナとシロ、大本命のニッグさんにも頑張って貰わないとね!」

 「良い意味での適材適所っすね?」

 「とは言え、私達も不甲斐ない姿は見せられませんが」

 「勿論だ。どんな強者が相手だろうと隙在らば……()る」

 「殺しは駄目ですからね?」


 話に花が咲いた4人が再び談笑に戻ると、店側から騒動のお詫びとドラーグ三兄弟を叩き出したお礼と言うことで真新しい酒と料理が円卓に並んだ。


 「そうと決まれば呑み直しっす!」

 「やれるとこまでやってやろうじゃん!!」

 「「おぉーー!!」」



 メリッサ、スレイがやる気を漲らせ杯を掲げると、プレディカ、ニーナもそれに倣いお互いの杯を打ち鳴らす。

 こうして、ヘルバ「大人組」の夜は更けていく。




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