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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜


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5-①-1.幻の『素材』を求めて



 「……と、言う訳で……冒険者登録をして武芸祭で活躍して来てくれないか?クロ」

 「無理です」


 ━━何故、俺はガドガさんからこんな話を持ち出されているのだろうか。



 事の始まりは凡そ1時間前に遡る。



 ケセドとの戦いが終わり俺の狼(子犬)化が解けてから2日後に、ガドガさんとエルさんは帰って来た。ティアを残してこれだけの時間家を空けていた理由も勿論気になったが……俺とティアがまずした事は


 「本当にすみません」

 「ごめんなさい」


 ……平謝り……。

 俺は大剣『月詠』に、ティアは籠手『ウェスタ』に相当の負担を掛けてしまった事を、じいちゃんの世界で謝る時にしたらしい作法「土下座」をしながらガドガさんに報告した。

 勿論『人狼種(ワー・ウルフ)』達やネズル・ハミの襲撃、ケセドと言う大物との大規模戦闘の出来事を事細かに全員(俺・シロ・ティア・リリーナ・セリエ)から説明はさせて頂いた上で。

 俺達の言い訳、いや本当に必要だったから武器を酷使してしまったんだけど……それを聞き終えたガドガさんは……


 

 「必要だったからと言うのは伝わったから、もう頭を上げておくれ」



 と、苦笑気味に語り掛けてくれた。

 ガ、ガドガさぁぁぁん!!!


 「クロもティアも、勿論皆も。僕達が作る武器防具は使用する人を守るのが仕事だ。君達が僕が作った武器(子供達)に敬意を払ってくれている事は分かっているから……例え折れたり壊したりしても君達自身を守る為にした行為にとやかく言う気はないさ」


 なんて……なんて人間が出来た人なんだ!?

 『偽りの感情(ペルソナ)』を着けていなければ感動して涙を流していたかも知れない。だが、ガドガさんの作ってくれた『月詠』に何度も命を助けられているからこそ、使用する物としてのけじめは必要だと思う。


 「それでもガドガさんにちゃんと謝る必要があると思いました。産みの親である貴方には」

 「パパ……ホントにごめんなさい」

 「分かった。君達の謝意は受け取ったから」


 頭を下げた俺とティアの前にはそれぞれの武器がある。俺が出来うる事をして磨き上げたとは言え目に見えて疲弊している『月詠』と、至る所に罅が入ってしまった『ウェスタ』。その他、リリーナの『咲耶』にセリエの『ナイト』、シロが使う『グレイプニル』も並んでいる。

 それぞれの状態を手に取り、矯めつ眇めつ確かめた。


 「『グレイプニル』は武器ではないから傷付いてはいないみたいだね。磨耗状態から使用頻度が高いのはそれだけ相手の強さが高い戦闘が続いてるって所かな。熱量消費をもう少し抑えられないか試してみよう」

 「……おねがい……する」


 『グレイプニル』を使用したシロは確かに強い。だがそれだけシロから熱量(カロリー)を使うから非常食が切れたら一気に形勢がひっくり返る心配があるのは否めない。ガドガさんも俺と同じ考えに至った様で更に改良を加えてくれるらしい。


 「『ナイト』は問題なさそうだ。刃もしっかり磨がれているし、魔法を取り込む機能もちゃんと機能してるみたいだね。セリエさんの強力な魔法を反映出来る様に内蔵した魔石の等級をあげてみようか」

 「是非。私の国でも『ナイト』は興味と羨望を集めている様ですよ?研究対象にと整備に手を挙げるものが後を絶たないくらいです」

 「整備はともかく、研究対象は勘弁してもらいたい所だね」


 流石ガドガさん。

 セレジェイラ王国お抱えの鍛冶師が作った武器はオルタンシア帝国でも注目を集めているらしい。研究したとしてもガドガさんの技術は複雑な作り過ぎて盗まれる心配はないだろう。鉄を打ち、武具を作ると一口で言ってもこの人が作る物は、何故か他が真似出来ない。


 「リリーナは『咲耶』の正しい使い方を理解してくれたんだね。この子が『もっと強く、リリーナの力になれる様に』って言ってるよ」

 「そんなそんな!助けて貰ってるのはいつもこっちです!?……でも、そう思って貰えてるなら……私自身も努力しなくちゃ」

 「……良い関係になってる様で嬉しいよ」


 『咲耶』は『月詠』と並ぶガドガさん自慢の逸品だと言っていた。使い手が居ないままじいちゃんの倉庫の肥やしにならないで本当に良かった。

 『優れた武具は使い手を選ぶ』とは聞いたけど、リリーナが『咲耶』を、『咲耶』がリリーナを選んだって事は相思相愛な関係になれたんだろう。これから先、もっと強くなりそうだな。


 「『ウェスタ』は……ふふ。僕の想像以上にティアが強くなっていたんだね、魔法に武器が追い付いていない。この子に付いた傷はティアの成長を表してるんだから気にしなくて良いよ?むしろ……強度も耐性も一から見直せて嬉しいくらいだ」

 「そ、そうなの?」

 「あぁ、だから武器を気にして加減をするなんて事はしないでくれて良い。壊したら僕が更に強く直してあげるから」

 「……分かった。でも壊し掛けた事はごめんなさい、ありがとうパパ」


 ティア自身の成長に『ウェスタ』の強化。

 この二つの要素が更に進化した時、どれ程のモノになるのか……。目の前でほのぼのした親子の会話を繰り広げているのとは裏腹に俺は……ちょっと先の事を思い戦々恐々としちゃったんだけど。


 「で……問題は『月詠』だ」

 「え?」


 …………え!?

 た、確かに無茶な使い方はしてしまったとは思いますがそんなに深刻!?


 「あぁ、いや誤解をしないで貰いたいんだけどクロの使い方が悪いとかそう言う事ではないよ?」

 「……では……何が問題なんでしょう」


 あー!!ビックリした!?この中で飛び抜けて俺の使用が悪いのかと思ったわー!?

 その自覚があるだけに笑い事じゃ済まされないとは思ったけど、まさか……直せないとかそう言った問題?!


 「クロが通常通り使う分には何も問題はないんだ。『月輪』にしても『双月』にしても元から備えた変形には耐えられる。……だが、ニーズヘッグから与えられた力はまた別問題だ」

 「『月喰之牙』ですか?」

 「そう。この剣にある特殊な素材が使われているんだが━━」

 「魔装である『強欲』ですよね?」

 「なんだ知っていたのか」


 知ったのはつい最近……『偽りの感情(ペルソナ)』に『鑑定眼』と言う新たな機能が備わってからだけど。

 今重要なのはそこじゃないな。

 

 「正確には『強欲(マモン)』と呼ばれる七大罪禍を軸として、ルナタイトやミスリルで加工して出来上がったのが『月詠』だ。基本的に『強欲(マモン)』はどんな形や力でも取り込める。だからこそ形状も変化出来るし性質すら自らに付与して攻撃出来る。その特性を利用して『護符』や『石』を換装出来る様にしたんだけどね」

 

 ふむ。多分それぞれの鉱石に役割があったんだな……『ルナタイト』が形状変化のサポートで、『ミスリル』が属性付与のサポート。

 『強欲(マモン)』がどんな魔装だったかは分からないが、2つの鉱石を織り交ぜる事に寄って本来は持たない側面を見せる様になった……って事なんだろう。

 製作に立ち会った訳ではないから当時の苦労は想像するしかないが……今の所、拒否反応みたいなのは出てないって事は……『月詠』に生まれ変わった事は『強欲(マモン)』に取っては悪い事ではない気がする。


 「ただ……魔装、特に七大罪禍に取って相容れない存在がある」

 「……《竜》ですか」

 「そう。これまでの史実の中でも《魔王》が《竜》と契約したなんて話は聞いた事がない」

 「そんなにですか?本人達が話してる分にはあまり相性が悪いとは感じませんが」

 「確かに……お母様の口から《竜》が嫌いとは聞いたことがありませんね」

 「でも契約はしていないんじゃないかな?セリエさん」

 「そう言えば」


 《竜》と一口に言ってもニーズヘッグやファフニールの様な唯一種から、『ワイバーン』と呼ばれる飛龍や『ドレイク』と呼ばれる走竜等、魔物としての《竜》も居る。

 「契約」と呼ばれる自身の力を貸す行為が出来るのは恐らく知性を備えた唯一種のみ。

 現《魔王》である亜澄さんやディオサは自分の武器が《竜》と相性が悪いって言う事を知っているのだろうか?……あの2人の事だから知ってそうだな。


 「手を組む事はあっても契約はしない。《魔王》と《竜》の存在はそんなものさ……だからこそ、同じ武器に宿らせようとするなら仲介する物が必要だと思わないかい?」


 そんな存在があるならもっと広まっていても可笑しくないんじゃないかな。

 《魔王》と《竜》の仲違いを打ち消す何か。

 きっとガドガさんの事だから今ここで俺達が聞いても教えてくれないだろう。

 この人の教育は常に考えることを止めさせず、共に考えようとするものだ。ティアもシロも、俺もそうしてガドガさんから成長を促されてきた。だからこの答えは後々まで分からないだろう。

 それよりも俺が気になる……気にしてしまうのは。


 「『月詠』を打ち直すんですか?」


 今まで苦楽を共にして来た相棒が違う姿になってしまうのか?って事。

 性能が上がったり、『月詠』に形態の種類が増えるぐらいなら良いんだけど……一から打ち直して全く別物になってしまうのは……かなり寂しい。

 そんな俺の内側を見透かした様にガドガさんが微笑み俺の言葉を否定した。


 「鍛冶職人として自分の子供を大事に想って貰える事ほど嬉しい事はない。ありがとう、クロ。でもそこまで大掛かりな事はしないよ。それにこの子も今の姿が気に入ってる様だからね。今更姿形を変えたらヘソを曲げて自壊し兼ねない」


 まるで子供の頭に手を置くように、『月詠』の柄にガドガさんが触れた。

 ガドガさんが……世界一の鍛治師がそう言ってくれるなら、安心。……なんだけど自壊は流石に冗談、ですよね?


 「ただ……『月詠』を強化したくてもその材料がないんだ」

 「倉庫にある物なら持って来ますが」


 確か鉱物や宝石を纏めてあった場所が倉庫にあった筈。そこにある物なら幾らでも運搬するが……ガドガさんの表情は晴れない。


 「……いや、必要になるのはハイジさんでも持ってない。他でもない彼自身がそう言っていたから間違いないだろう」


 じいちゃんでも持っていない?気に入った物を何でも溜め込む蒐集癖があるあのじいちゃんが?そ、それってかなり入手難度が高い気が━━



 「……と、言う訳で……冒険者登録をして武芸祭で活躍して来てくれないか?クロ」

 「無理です」



 ◆◆◆◆◆◆

 

 と、そんな経緯があって今に至る。

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