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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜


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4-39.反撃の『狼煙』


 「アンタ……その耳と尻尾は何なの!?」

 「分からん」


 ティアが先ず俺の容姿に突っ込んで来た!?

 本当に悪いけど俺もよく分からん。目覚めた時には着いていた……としか言えないんだよ。


 「もう大丈夫なんですか?!」

 「あぁ、皆のお陰で助かった」


 いの一番で俺の身体を心配してくれる。

 優しさが染みるなぁ。だが言葉通り、体に空けられた穴も塞がってるしもう大丈夫。手当をしてくれた事、しっかり聞いてるよ……リリーナ。

 

 「……以前の時と似た様な事が起こったのでしょうか?」

 「恐らくとしか……」


 セリエは前の戦いで俺の変化を見ているからな。

 謎の変化はこれで三度目。代償は怖いが……これで戦える。



 『誰かと思えば……大人しく死んでおけば良いものを』



 俺に吹っ飛ばされたケセドの声が響きその存在が健在である事を知らしめる。身体はまだ目視出来ないが、奴の戦意は衰えていない。

 『マジック・ポーション』は疎か、『ウーンド』も尽き『スタミナ』も残り僅か。

 俺に出来る事は……皆が繋げてくれた戦いを引き継ぐ事だけ。


 「後は任せろ。シロ、リリーナ、皆を頼む」

 「……はい!!」

 「……まかさ……れた」


 もうセリエとティアは戦えない。

 この場にいる『救済の戦士団(ヘイズルーン)』や人狼種(ワー・ウルフ)達も悪いが戦力外。

 余力が残ってるシロとリリーナに此処を任せ、ケセドを飛ばした方へと歩み出す。


 「……あの、姿は……」

 「……父祖……ガルム?!」


 後ろからフレッドやサガの言葉が聞こえるが……この姿はガルムと呼ばれる人狼の姿では……ない。

 想像出来る事はあるが、それは後でも良いだろう。

 ゆっくりと……しかし確実に俺の元へと戻って来るケセドが見える。

 きっと、この攻防が俺達に取って最後になる……負ければ俺だけじゃない……後ろにいる仲間達や、ヘルバに居る人達の未来も閉ざす事になる。ケセドが何者だろうが、背後に誰が居ようが関係ない。

 俺の大事なものを傷付ける奴を……俺は絶対に許さない!!


 『まだ足らないのですか?随分と自罰的な方ですね』

 「これで最後だ」

 『お別れはきちんと済ませましたか?』

 「必要ない。消えるのは……お前だ、ケセド」


 背中に背負った『月詠』を抜き放ち、俺の正面まで降りて来たケセドと相対する。



 「行くぞ」



 言い放った直後、ケセドに向けて突貫する。

 ぐぅ!自分の身体とは思えない凄まじい走力?!まだこの速度に……力に、俺の体が慣れず振り回されている!?

 勢いそのままに振るう『月詠』の刃や繰り出す拳や蹴りを、ケセドが難なく避けていく。

 

 『ふふふ、先程より速いですが……捉えられない速さじゃありませんよ?』

 「……まだ体が慣れてない。だが」


 じいちゃんも……【最強】五百神灰慈も、この世界に来た時は自身の力の制御に悩んでいたと言っていた。そんなじいちゃんが取った手段は乱暴で……合理的。兎に角力を使って、体に、頭に、心に自身の力を覚えさせたそうだ。

 なら、俺がすることも決まってる。

 『月詠』を操る力は速度を増して行き、拳や蹴りを繰り出す回転が徐々に上がって来た。

 これなら……行ける!!


 「少しずつ馴染んできた」

 『は?』

 「【月輪】」


 『月詠』から『月輪』へ形態を変化させ、重力に引かれて地上に降り立つ前に、至近距離で投擲。

 生身の身体で放つ『月輪』よりも数段速い初速を出す俺の愛剣をケセドの目の前で放ち、しかし空に逃れられ外された。


 『唯一の武器を投げては丸腰ですね』

 「さっきまではな」


 後ろに行った『月輪』を視線で追って距離を測っているんだろうが、敵から目を離すのは悪手だろ?

 空から地へと降りる反動を利用して跳躍し、ケセドに肉薄。先程までは此処からの攻撃手段がなかったが今の俺には!?

 ケセド目掛けて、自身の攻撃を突き立てる。

 金属を抉る様な不快な音を立ててケセドの身体を傷付けたのは……。


 『━━爪?これは人狼種の』


 脇腹付近を大きく斬り裂いたのは俺の右爪から生えた『ウルフ・ネイル』。

 先程までと違い、俺自身の攻撃で奴の身体を傷付けられる。これなら!!


 「つぁ!!」


 両手に備わる爪の強度を更に強化!加えて両足にも『ウルフ・ネイル』を出して攻撃を繰り出す!

 握り込んだ拳を「打撃」とするなら、今の俺の両手両足から繰り出されているのは「斬撃」だ!どんな硬さの身体だろうが……貫き、切り刻んでみせる!!


 『!?この……』


 俺の爪撃に因ってケセドの体に無数の傷が着いていく。

 これが人や魔物なら出血で行動不能にする事も出来た筈が、その考えはケセドには当て嵌まらないらしいな。なら……動けなくなるまでバラバラにしてやる!

 人狼の力に俺の体が慣れ、攻撃速度がどんどん上がって行くのを感じるが……ケセドも両手両足を巧みに使い此方の攻撃を捌き始めた。戦いの中で学習、進化してるのか?!


 「俺にばかり気を取られていると真っ二つだぞ?」

 『……見縊(みくび)らないで頂きたいですね』

 「ぐっ!?」


 爪撃の隙間を縫って奴の蹴り上げが俺の顎を狙うが何とか腕で防御に成功するも、守った腕ごと蹴りの威力で空へと撥ね上げられた!

 空中で一回転し威力を殺してケセドを見れば……背後から迫る『月輪』を腕で俺の方へと弾き返した?!

 奴の腕を凝視すると、形状が円錐形に変わり『月輪』を弾いた箇所から煙が出ているのが見て取れる。俺へと戻って来た『月輪』を掴み地上に着地。

 ケセドが使っていた槍や盾が何処に行ったのか疑問だったが……。

 

 「……そうか。さっきまで使っていた槍と盾、取り込んだのか」

 『正解です。貴方を貫いたのもこの腕ですよ?再び、その胸に大きな穴を開けてあげましょう……今度は治癒も出来ないくらい大きな穴を』


 突撃槍(ランス)と円楯を取り込んだケセドの腕が、高速回転する槍へと変化する。

 しかも……両腕。ただ突くだけでも威力が高かった槍が殺傷力を高めて二本の凶器へと変わった。けど、負ける気はしない……負けられない!!


 「……俺を捉えられればな……【ガアアアアアア!!!】」


 放ったのは『プレッシャー・ハウリング』。

 この技能(スキル)は効果範囲に居る敵全ての憎悪(ヘイト)を此方に向けさせる為のもの……今の状況でケセドの前には俺一人しか立っていない為に効果がない……って事はない。

 技能を放ち、再度ケセドに迫る。


 『簡単です━━よ!!』


 俺との距離を一瞬で潰したケセドの回転槍と化した右腕が、寸分違わず俺の額を差し貫いた……と、思ったか?


 「こっちだ━━【月詠】!!」

 『なっ━━ぐっ!?』


 『月輪』からまた『月詠』に戻し、持てる力を注ぎ込んで大振りの打ち下ろしをケセドの背後から仕掛けた。だが貫いたのが俺の残像だったと理解したケセドは、攻撃姿勢のまま重心が前に行った状態にも関わらず無理矢理身体を反転させ、俺の一撃を防いだ。


 『幻?でも確かに貴方は前にいた筈……』

 「ネタばらしが必要か?」

 『小癪!』


 ケセドが攻撃を受けた感触を頼りに攻撃を繰り出すも、それも残像。

 技能である『プレッシャー・ハウリング』は紐解けば、敵性存在に己の存在を認識させるもの。残像を残せる速度があれば、その残像に俺の印象を強く残すだけの存在感を与えてくれる。

 速度と技能で創られた「(デコイ)」をふんだんに使い、ケセドを追い詰める!


 「まだまだ行くぞ!!」

 『この……調子に乗らないで頂けますか?!』

 「それも違う!」


 上と思えば下から、右と思えば左から。

 視覚に頼った索敵を利用し、剣閃と爪撃で奴の黄金の身体を切り刻んで行く。今まで此方の攻撃を余裕で受けて来たケセドが自覚しないうちに防戦一方になるのを垣間見た。

 身体のダメージは意味がないなら……精神的な揺さぶりを掛けてやる!!


 『……き、貴様!?』

 「化けの皮が剥がれ始めたぞ?」


 戦闘が始まってから変わる事がなかった口調が変わった。

 追い詰められた時に自分の本性が露呈する……コイツの存在、やはり何処か人間臭いな。

 攻防を繰り返す間、目の前の敵に言葉も研いで斬り付ける。


 『!?……人間にしてはやる様ですが』

 「取り繕うなよ」

 『……これが私ですが?』

 「なら言い方を変えよう。覚えたばかりの言葉を使っても威厳も何も感じない……違和感のある気持ち悪い喋り方をしてれば尚更な」

 『私のどこが!?ふざけた事を()かしてるとぶち殺しますよ!!』

 「この程度で保てない様なら最初から偽るなよ、鍍金人形(ガラクタ)

 『貴様ぁぁあああ!!』


 安い挑発に簡単に乗せられるのは心が成熟してない証拠か。このケセドと言う存在……魂が肉体を与えられたのは恐らく今回が初めてなんだろう。

 怒りを露わにしたケセドが右腕の回転数を更に上げ、最早掘削槍(ドリル)となり白熱した己の武器をガムシャラに振り回して突っ込んで来た。


 『神に唾吐いた事を後悔しながら死ね!?』

 「神だろうが何だろうが……お前こそ此処までの事をしたんだ━━」


 瞬間、さっき見たセリエやティアの傷、リリーナの怒り……シロの泣き顔が頭を過ぎる。

 自分の存在を暴かれ、否定され、貶されて……お前はさぞかし頭に来ているんだろう。

 ……だが……俺だって、頭に来てんだよ!!



 「絶対に許さない!!」



 寸前まで迫る掘削槍(ドリル)を、今までで最高速を出し出現させた5体の(デコイ)で撹乱。

 懐に入り込んだ俺は『月詠』を奴の胴体に向け一閃……硬質な身体に両断を防がれるが……力任せに吹っ飛ばした。


 「ガァアアアアアア!!」

 『このぉぉぉ!!』


 俺の攻撃で空に打ち上げられたケセドが空中で制止し、表情のない顔から殺意だけを俺に飛ばしてくる。


 『この身体はセフィロト様に与えて頂いたものだ!貴様如きに破れる代物ではない、更に!!』


 右腕だけかと思われた掘削槍が、左腕にも伝播し、威嚇する様に回転する。


 「……両腕か」

 『それだけではない!【聖典】【グローリーアーマー】!!』

 「鎧に……刃」


 唱え終わるとケセドの身体に出現したのは、ネズルが使った魔法で出来た攻防両面の役割を果たす刃鎧。つまり……俺を確実に殺す意思を持った身体を作り出したって所か。


 「アイツ!?俺の魔法を?!」

 『ふふふ、あはははははは!!これで私は攻撃・防御が完璧です!私に触れる事すら貴様には出来ない!』


 遠くでネズルの憤慨の声が聞こえるが……悪いがその魔法も、ケセド自慢の槍も叩き折る。


 「【グルルル】」

 『そんな瑣末な爪など圧し折って差し上げますよ!!』


 『ウルフ・ネイル』を新たに纏い直し準備が済むと同時に、身に付けた槍の穂先も鎧の刃も、全てを俺に向けてケセドが迫る。

 もう囮は要らない……真っ向から受けてやる!

 地面を蹴って、俺もケセドに跳び掛かった。

 初めに繰り出された左の掘削槍を右手に持った『月詠』で柔らかく受け流し、次に迫る右の掘削槍を紙一重で躱し槍の中程に左の爪を突き立て回転を止めた。


 『っ!?ならば!!』

 

 ケセドが槍に取り付いた俺ごと強引に腕を引き戻せば、そこにあるのは剣山めいた鎧の刃。

 それを足の爪で止め、腰の捻りを加えて圧し折った!


 「おっ……らぁ!」


 バキン!と儚い音を立て鎧の刃は砕け散り、刺さったままだった左爪を更に伸ばし……右の掘削槍を鋭い爪撃で断ち切る。


 『そんな……なぜ!?』

 「この程度では……俺の剣も爪も、心も折れん!」

 『これなら!!』


 引き戻した左腕の槍の回転が上がり発光。

 確殺の穂先が俺の頭目掛けて放たれた。

 右手に持った『月詠』を真上に投げ、両手に纏った『ウルフ・ネイル』で……力任せに掴み止める。


 「ガァァァアアアアアアアアア!!」

 『何だと!?』

 「【月輪】!」


 両腕に込めた力で最後の掘削槍を握り潰し、上空に放った『月詠』に指示を出して『月輪』へと切り替え━━自由になっている右脚を『月輪』の内側へと滑り込ませた。


 『!?足で……武器を!?』

 「はあぁぁぁっ!!」


 俺自身初めてやる足での『月輪』操作。

 右脚でケセドの左腕と左翼を、『月輪』が離れる前に左脚に入れ替え、返す刀で『月輪』を空へと向かって蹴り上げ、右腕と右翼を断ち切り、両手の爪で奴の身体を切り刻む。

 バラバラになって落下を始めたケセドを追い、俺自らも地上に着地。確か細切れになっても行動出来るんだよな、コイツ。

 だが、攻撃の要である腕は念入りに破壊した。

 空へと打ち放った『月輪』が俺の手の中に戻り、散り散りになったケセドの破片を警戒する。

 ここから奴がどう出るか。

 

 『……ふ、ふふふ。幾らこの身体を壊した所で直ぐに』

 「治るのは知ってるから早くしてくれないか?それとも、治るのにはまだ時間が足りないか?」

 『……!?』

 「俺達が壊す度にお前は蘇った。だが、瞬時に……とは行かなかったよな?それだけじゃなく、【聖典】とやらも連発させる気配はない。それらを再使用するには時間の制限がある。違うか?」

 『それを知った所で何になる!この身体が癒えれば直ぐにでも首を刎ねてやる!』


 駆け引きって奴を知らないらしい。

 自分の弱点を自分で暴露しては世話ないな。

 『帯袋(ポーチ)』から最後の『スタミナ・ポーション』を引き出し、栓を抜いて一気に飲んだ。


 「だったら早くしろ。こっちの回復は終わったぞ」

 『殺す!!』


 怒号と共に、まだ上半身の一部と片翼しか再生していないケセドが宙を舞い、魔方陣を展開?頭があれば使えるのか?!

 不味い!?



 『【聖典】【スクリーム・レイン】!!』




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