13. 『捜索』に出発
始まりの場所が分かっても事の仔細まで把握出来てるわけじゃない。後は現地に行ってみて自分で探す。
けど、『砂場』?
昨夜の現場から少し離れてるな……何でだ?
「妾に聞かんでも、争いの後を辿れば場所位分かるじゃろうに。物ぐさな奴じゃなぁ」
「森の損傷はある程度の時間ですぐに戻ってしまう様に作ったのはユグさんだろ?」
昨日なら辿る事も出来たんだろうけど。
森の植物はユグさんの力の影響か、修復力と言うか生命力と言うか、兎に角成長がめちゃくちゃ早い。
俺と黒オーガが戦ったあの場も、もう殆ど元通りになっているだろう。
「リリーナの準備は出来た?」
「あ、はい。これ、凄く軽いのに凄く丈夫なんです!」
リリーナが纏っているのは、軽そうな鋼の胸当て、その下に見慣れない戦闘衣を。
ぱっと見、そんなに丈夫そうに見えないんだけど……
「それ~、王都でガドガが試作した物で、繊維に魔法を織り込んで作ったんですって~!だからそこらの鎧なんかより確実に守ってくれるわよ~」
流石です、ガドガさん。
《ガドガ・フリソス》
エルさんの旦那で、王都でもその腕前が称えられ、王宮のお抱えとなるほどの凄腕の鍛冶師。
俺の『月詠』を打って鍛え上げてくれたのもこの人。
鍛鉄・装飾など、創作者と呼ばれるのはほぼ鉱人種が占めている中で、妖精種で唯一鉱人種も認めた凄腕の創作者なんだ。
製造は勿論の事、発想も一目置かれリリーナが着ている様な戦闘衣のアイデアもポンポン出してくる才人である。
ガドガさんが作った物なら、うん、信頼しかないな。
「なら安心だ」
さて。
話も聞けたしリリーナの準備も出来たし、期せずしてユグさんにも会えた。
予定してた通り、この後は森に置き去られた彼女の荷物を回収に行こう。じゃあ━━
「ねぇ」
「何だ?」
つかつか俺の前まで歩いて来たのはティア、何だけど……あれ、恰好変わってない?さっきまでは家で寛ぐ感じの格好だったんだけど……今は、革鎧を着け、拳には俺達と森に入る時に着けている拳皮。
森の中にでも行くんだろうか……?
「アタシも行くわ」
あ、やっぱり。
幾ら慣れているとは言え、部屋着でうろちょろ出来る程この森も安全じゃないからな。怪我なんてしないように装備を整えるのは当たり前か。
「何処まで行くんだ?」
「アタシもついて行くって言ってんのよ」
あ〜、なるほど。俺達に着いて……え?
「……何で?」
「……な、何でだって良いでしょ!?ほら、さっさと行くわよ!」
えぇ。俺何で今怒られたの。しかも妙に顔赤いんだけど。だ、大丈夫?風邪?
「うふふ、そうね〜?負けてられないものね~」
「そ、そういうんじゃないし!ただ暇だから行くだけだし!勘違いしないでよね!」
師匠に向けて噛み付いたと思ったら、また俺に怒って来た。意味が全く分からん。
「来てもらえる分には助かる。心強いよ」
「!……ふん、別に、ホントに……暇なだけだし」
戦力が増えればそれだけ危険も減る。森の魔物ならまだしも正体不明な化物が来る可能性がある今は、素直にこの申し出は有難いよ。
「じゃあ~、荷物を回収したらまた此処に戻って皆でご飯でも食べましょう!なんならそのままお泊りでも構わないわよ~?」
……え。いや有難い申し出……なんですが。
エルさんのご飯は美味しいですし、シロとリリーナがお世話になる分には全く問題はない。
なら、2人は任せて俺は帰……。
辞退する腹を決めたと同時に、グイっと俺の袖を引く何かの力が加わった。
「くろも……?」
「いや、泊まりたいならシロとリリーナで。迎えには来る……」
「……くろも?」
その自分を「谷に突き落とすの?」みたいな目は止めて欲しい。俺は獅子じゃないぞ?
何か失態や失言をした場合、フォローをする人間が必要な訳で。それがシロの場合は俺ってだけで。
「何人も泊まるなんて師匠の家に迷惑だろ?」
「別に家は構わないわよ~?何ならちょっとくらいの間違いなら目を瞑るし~?」
どんな間違いが起きるって言うんですか!?
「それに、大人数の食事なんてちょっと久々でワクワクしちゃうわ~。勿論、皆には手伝って貰うけどね~?」
正直、人数変わる位なら食事の手間はそれ程変わらないが大食漢が二人いるし……手伝う事も構わないが……出来れば……
「あの、でしたら食事だけで俺は━━」
「帰る、なんて言わないわよね~?」
速攻で意見を却下された。
だってさ、俺だって男なんだよ?母は娘の身を心配してとか、若い男女が同じ屋根の下で寝るなんてとか考えないの?
リリーナが来てからと言うもの、俺だって無駄に緊張してるし仮面外せないし割りと色々我慢して……
「帰るなんて言・わ・な・い・わよね~?」
「……分かりました」
無理だ。
どんな理由や理屈を捏ねようとこの笑顔で脅されたら頷かざるを得ない。
「えっと」
「……と、言う訳で今日はエルさんの家に泊めて貰える事になったから」
「ご、ご迷惑でなければ私、何でもやります!」
「あら、じゃあいっぱいお願いしちゃおうかしら~」
リリーナも何だか緊張しつつも喜んでいるみたいだし、エルさんはエルさんで嬉しそうだし。
俺が我慢すれば済む問題か。せめてガドガさんが居ればなぁ。
「で?行くの?行かないの?」
さっきとは打って変わって落ち着いたティアが……?落ち着いた、のか?何か顔赤いし、何故ニヤついているんだ?
「何か妙にソワソワしてないか?」
「ししししてる訳ないでしょ!?行くならさっさと行きたいのよ!」
「あぁ、……そうだな。そろそろ行くか」
森に行くのがそんなに嬉しいのか?いつでも、それこそ好きな時に行けるだろうに。
それはともかく。
「じゃあ行こう。準備は出来てるんだよね?」
「はい!」
「いつでも……いける」
「こっちは良いって言ってるでしょ」
「それじゃ、まぁ……行ってきます」
「はい、いってらっしゃい~」
「……クロ坊」
先程までの子供っぽい雰囲気が一切ない、《神霊》ユグドラシルが俺の名前を呼んだ。
「……何かの予感がする、あまり良い方ではない。油断はするなよ」
そう言って俺に何かを投げて来た。
小さな袋……その中には三種の『種』が入っている。流石。
「元から油断出来る人間じゃない。ありがとう、ユグさん」
放られた袋を少し掲げ、帯袋にしまう。
ユグドラシルの悪い予感、当たらない方が良いんだけど……気を引き締めて行こう。




