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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜


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11. 『最恐』のお茶会


 フリソス家の居間に通され、目の前にお茶とお菓子が用意されもてなされた。

 こういうのは女性には敵いそうもない。

 大抵我が家で茶の準備をすると俺は台所で全てをやってしまう。

 この様に、テーブルにティーポットだったり、カップだったり。準備すらも楽しむ物だと言う空気にはどうしてもなれないんだよ。

 まして……菓子を常備しているのは流石の一言。

 これもエルさんが作ったんだろうなぁ。

 料理が上手く、じいちゃんが元居た世界の料理の「こんな味だった」と言う言葉をヒントにそれを作り上げてしまう位、熟練している。何を隠そう俺の料理の師匠もエルさんだ。

 ……料理の練習すら手を、いや拳を出してくるもんだから上手くならざるを得なかった。包丁の持ち方、材料の切り方、味付け一つ違っただけで【最恐】の拳が飛んで来て命の危険を何度も感じた。

 【最強】は助けてもくれなかった。……じいちゃんは若い時に冒険をしてる最中にあんな思いを、しかも尖った頃のエルさんに怖い思いをさせられていたのかと思うと気持ちは分からなくもないが━━助けて欲しかったけどなぁ?!


 「クロちゃん?何か考え事~?」

 「……いえ、相変わらずエルさんの手際と腕前に感心していただけです」

 「あらそう~?ありがとう。沢山あるから沢山食べてね~?」


 ……絶対にバレてた……エルさん?、素敵な笑顔が何故か怖いですよ!?


 「シロは相変わらず料理の一つも出来ないわけ?笑えるわね!」

 「てぃあは……だいどころ……はいれる……ように……なった?」

 「失礼過ぎでしょ!?アンタが食べてる林檎パイを用意したのアタシなんだから!」

 「……おさらを……?」

 「……用意した事には、変わりないでしょ」

 「す、凄いですね!私なんてキッチンに入れて貰えなくて……」


 リリーナはティアと同類なのか?ちなみにティアの料理は何でか謎な物が出来上がる。そして絶妙に不味い。それで一時期、台所立ち入り禁止令が出ていたんだが、今の会話から察するにそれは解除されたんだろうか。

 相変わらず料理はさせて貰えてないみたいだが。


 「さ、お茶も入ったしそろそろお話を聞かせて貰おうかな~?」


 リリーナに視線を送り、昨日の晩、黒オーガに襲われた経緯を説明して貰う。

 黒オーガと闘ったのは俺だし、先に話を聞いていた俺が捕捉をして二人でエルさんに説明する。

 シロとティアは空気を読んでかずっと黙ったままだ。

 いや、エルさんが何の合いの手も入れない事から、此処で口を挟むと後が怖いと思っている可能性は大きい。

 一通り、事の顛末……開始かも知れないが、エルさんの所感を聞いた。


 「……エルさんの感想を聞いても良いですか」

 「世の中〜、不思議な事もあるから何とも言えないわね~。用心をしておくに越した事はないって事位しか~今の所は言えないわ~」


 顎に指を添え、小首を傾げる師匠はそりゃあもう今までに不思議な事を体験したのだろうが、伝説の英雄を以てしても分からない事は分からない。


 「魔法の事なら~ハイジに聞くのが一番早かったんだけど~」

 「じいちゃんはもう居ないですからね……」

 「……え?…………じいちゃんって……え!?」

 「どうしたの?」


 リリーナが俺と師匠を交互に見て驚愕……あ、そうか。


 「あ、ああああの!く、クロさんのお祖父さんって!?」

 「?ハイジがどうかしたの?」

 「そういえば……言ってなかったか」

 「聞いてないです!ももももしかして?」


 エルシエル=フリソスの名を知っていれば、じいちゃんの名前も聞いた事があるものなのか?



 「じいちゃん……五百神灰慈は俺達の育ての親だ」

 「ええええええぇぇぇぇええええ?!」


 叫び、立ち上がり、目を見開き。

 そ、そんなリアクションするんだな。


 「さ、【最強】と言われ、多大で偉大な魔法を操る伝説の……《英雄》」


 んー、世間一般ではやはりそんな言われ方をしてるよねぇ。

 俺とシロの中では『じいちゃん』だし、エルさんに取ってみれば『仲間』、さも当然の様に話してしまっていたが認識の違いって時に怖いな。


 「ただの……へんたい」


 シロよ……それは少し厳し過ぎやしないか。【最強】の『変態』にしないでくれよ?じいちゃんの名誉的な意味でも。


 「亡くなった……んですか?」

 「あぁ。人生を全うして、良い笑顔でね」

 「……そう、ですか。あ、何か……すみません」

 「いや」


 そんなに気を遣わなくても良いんだけど、やはり優しい娘だな。

 重くなりそうな空気になるのが嫌で、逸れた話を無理矢理目の前へと持って来る。


 「話を戻そう。……で、用心しておきたくても俺達の家にはリリーナが使える様な防具がなくて」

 「そういう事なら~……ティアちゃん、見繕ってあげてくれる~?」

 「良いけど……サイズ的な問題ならアタシのも合わないと思うわよ」


 ティアが鋭い視線をリリーナ……の、胸に突き刺す。

 当のリリーナは良く意味が分かっていないらしく首を傾げる……うん、そうね。サイズは合わなそう。


 「私のも見て貰っても大丈夫だけど~、ガドガがこの前〜、王都から持ってきたアレ、着てみて貰って~?普段は……リリーナちゃんは軽めの装備かしら〜?盾とかは使わない感じね~。どちらかと言うと攻撃も受けると言うより流すって感じ〜?魔法がメインの支援・補助で属性は風に……光も持っているのかしら~」

 「え!?あ、はい!そう、なんですけど……何で……?!」


 驚くのも無理はないよ。

 さっきも冒険者って当ててたしね。

 エルさんは人の肉付きや骨格、歩き方立ち方座り方……その人を見るだけで、どの程度の強さか、普段の装備が何なのか、魔法の属性がなんなのか分かってしまう人なのだ。

 じいちゃんが魔法の専門家なら、エルさんは人体の専門家と言った所だろう。

 言葉にすると何か怖いな……人体の専門家。


 「なるべく~身体に負担が掛からない物が良さそうね~?」

 「アタシが見るのは良いけど……ママは?」

 「私はちょーーーっとだけクロちゃんにお話があるから~」


 え?……俺!?

 何か背後からドス黒いオーラが立ち上がり始めてるんですけど怖い怖い怖い!?俺なんかしましたかぁ!?


 「……じゃ……しろも……みる」

 「そうね!邪魔しちゃ悪いし皆で行きましょ!?」

 「あ、あの……クロさん?!」


 裏切りやがった!?シロもティアも、リリーナを引っ張って退室していった!

 この状態のエルさんと二人きりにしないでーーー!!



 「さて、ちょっとお話ししましょうか?クロちゃん?」



 笑顔が怖い!何?俺は一体何をやらかした!?

 最大限の警戒を本能が察知して、思わず椅子から立ち上がり臨戦態勢を取った。

 これから始まるのは試練か、指導か……殺戮か?!


 

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