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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜


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4-14.招かれざる『異物』



 「GYURARARARA!!」



 見た目だけで此方の精神を削って来そうな個体……群体?が此方に向かって緩やかに迫って来ていた。

 あの姿は『魔物図鑑』で見た事あるぞ。

 全体の体長は二M前後とそんなにデカくはないが、複数の「ミミズ」が絡まり横幅がかなり広い。

 『イロウジョン・ワーム』。コイツの厄介な所は……一度獲物の匂いを覚えたら、例え地の果てまでも追って来るくらい貪欲なところだ。こんな気持ち悪い奴に追って来られたら夢見が相当悪い気がするな……呪いを撒いたのがこいつなら納得だわ!


 「……う、嘘でしょ、完全に撒いたと思ったのに……」

 「こ、こんな所まで追って来るなんて聞いてないぞ!?」


 獣人女と獣人男が声を出して畏れ戦くが……此奴等は駆け出しの冒険者なのか?『魔物図鑑』にもこの魔物には関わるなと説明書きがあるんだが……。ともかくあの魔物がヘルバに入るのは精神的に絶対嫌だ。なら━━俺がやることは決まってる。

 

 「……リリーナ」

 「はい!」

 「材料を置いてくから人数分の『解呪薬アンチカース・ポーション』を作って飲ませておいてくれ」

 「……分かりました」

 「エルさん、この場をお願いしても良いですか?」

 「任せておいて〜」

 「……取り敢えず、アタシは補助で良い?」

 「手伝ってくれるなら有難いが、無理しなくても良いぞ?」

 「……ででで出来るに決まってるでしょ?」


 あの、ティアさん?目が泳いで魔物を直視出来てませんよ?

 まぁこの魔物の特徴を把握すればその態度も頷ける。

 ・見た目がキモい。数十、数百のミミズが絡まった様な形を取っていて、目がない分、嗅覚器官が優れている。大事な事を繰り返すが見た目がキモい。

 ・再生・増殖能力。斬った端から回復し、中途半端な攻撃を受けるとその分増殖してくる。能力がキモい。

 ・『壊血の呪い』。獲物を確実に捕食する為の攻撃であり目印(マーキング)だ。覚えた血の匂いを途切れさせない為の呪いと言われ、逃げた者が途中で力尽きればその死体を貪ると言う悪趣味な魔物。行為がキモい。

 挙げた特徴の字面だけでも、生物の嫌悪するべき所を寄り集めて作られた魔物と言われれば素直に納得してしまいそうだもんなぁ。

 後の処置をリリーナ達に任せて、俺とティアが魔物に向かって駆け出した。

 改めて見ると……近づけば近づくほど歪な形になっているのが分かる。


 「あの個体、増殖して吸収したのか……相当デカくなってるな」


 増殖した分体が本体に絡み付き、縦の大きさは変わらないくせに横の大きさが恐らく……元の大きさの3倍位に膨れ上がってる。『魔物図鑑』に因れば絡み付く最大値は観測されてないが……長さは推定、十M行くか行かない位か?ちょっとした壁だな、ありゃ。

 俺とティアが並んで魔物に近付いてる最中、隣からチョンチョンと肩をつつかれ……


 「……アタシ、何スレバ良イ?」


 声が小さい上に言葉固いよ?!大丈夫かティア!?

 『イロウジョン・ワーム』には物理攻撃も魔法攻撃も効き辛い。体皮から分泌している特殊な体液のせいで狙いが逸れて魔法が通らず、通常攻撃は威力が激減し、共通して受けた攻撃の数だけ増殖するんだから手に負えない。大きさから考えて、あのネズルのパーティーとかなり交戦し、個体数を増やし、それを取り込んで追って来たんだろう。

 アイツの標的は村に居る5人の冒険者、なら先ずは━━

 

 「奴が俺に標的(ターゲット)を移したら『雷槍』を撃て」

 「……分かりマシタ」


 とうとう敬語になったー!!?

 ティアの精神衛生上、とっとと片付けた方が良さそうだ!!?

 方針を固め、一気に『イロウジョン・ワーム』との距離を詰め空中に飛び上がる。この魔物の移動速度は速くはないが獲物を認識した途端に此方への一斉攻撃が始まるらしいから注意が必要との事。

 対処方法は……一つ。

 圧倒的火力で燃やし尽くす!

 『帯袋』から抜き出したのは最近手に入れた二種類の道具。先ずは筒状になっている入れ物の蓋を外し、撒き散らした粉は風に乗って『イロウジョン・ワーム』の体皮に付着する。準備の前半はこれで終了。ただ何かを振りまいただけでは攻撃判定にならないらしく、何の動きも見せずにされるがままになってる『イロウジョン・ワーム』の中心部に向けて……最後の工程。

 一つの瓶に入った道具を投げ付けた。


 「GYURURARARARA!!!」


 攻撃と受け取られたのか、『イロウジョン・ワーム』の触手が俺が居る方向に向かって殺到してくる、キモぉ!?見てるだけで鳥肌が立つ!!

 『月詠』を抜き放ち迎撃し、魔物の背面に着地。目が無い奴がどうやって獲物を追ってるのか……それは自分の身体(触手だか同族だか)に付着した自分の粘液を相手の武具にこびりつかせ、その匂いを辿って居るらしい。

 後で『月詠』はしっかりピカっと洗浄するとして……俺に標的(ターゲット)が移った。

 よし、逃げる!!

 奴が放つ攻撃を躱し、魔法の兆候を感じて後方に向けてバックジャンプ。同時に魔物に降り注ぐ━━雷。



 「ティア!!」

 「━━【雷槍】ぅぅぅうう!!!」



 を正確に受け取ったティアの五本の【雷槍】が『イロウジョン・ワーム』に到達。次の瞬間起きたのは……大爆発。



 「KYUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」



 ズドォォォォォォン!!

 耳障りな奇声と共に起きた爆発は『イロウジョン・ワーム』の体に引火し特大の火達磨となってアチチチチ!!?距離が足りてない!!熱波が俺にもーーー!!!こんなに強力なの?『黒火蜥蜴の黒油』に『雲状火薬』の合わせ技って!?もっと距離を取らないと!?

 『イロウジョン・ワーム』の対処法、それは誘爆・引火する物を取り込ませ圧倒的な火力にて焼き尽くす。

 『魔物図鑑』に載っていた攻略法に間違いは無く、本体も、その周りに付着したミミズも等しく皆燃えて行く。

 充分距離を取った場所で、黒く燃える『イロウジョン・ワーム』を見ながら……この二つの道具に何か手を加える時には……ちゃんと効果を確認しようと強く心に誓った。 

 

 

 「アアアアンタ!!さっきのは何なの!?」



 魔物━━『イロウジョン・ワーム』が視界から消えていつもの調子を取り戻し駆け寄ってきたティアにさっきの大爆発・大炎上の原因を追求される。襟首を掴まれるのは心外だけどいつもの調子に戻って良かったねと、ティアに心で軽口を叩く。


 「前に新しく手に入れた素材だったが、あんなに効果があるとは思わなかった」

 「素材!?あれで!!??」

 「魔道具に仕上げる時はちゃんと効果を確かめておかなければ」

 「使う前に確かめなさいっていつも言ってんでしょ!?」


 言われてました!!

 俺が自作する道具や魔道具が桁外れの威力を出す所を何度か目の当たりにしてるティアからは、必ず試運転(テスト)してから使う様に言われてるのを思い出す。ただ光を出す『閃光筒』でさえ怒られた程だし……試せる時は試してから使う様にしたいと思う。……多分。


 「それにただ引火させるだけで良かったならアンタの爆弾でも良かったんじゃないの?!」

 「だがそれだと内側まで火が回らず、残った奴が再生するかもしれないだろ?」


 仰る通り、ただ火を起こすだけなら俺の作った『炸裂弾』でも良かったんだが、あれだと表面を吹き飛ばすだけで中までは穿てない。その点、ティアの雷魔法『雷槍』なら多少威力が弱まったとしても、魔法が魔物の内部まで食い込み、付着した『黒火蜥蜴の黒油』や『雲状火薬』を内側まで押し込み、その上で燃え盛ってくれると踏んで頼んだ。いつもシロに言い聞かせてる適材適所って奴だな。


 「お陰で手早く済んだ。ありがとう」

 「……ま、いいわ。あんなヤツさっさと視界から消したかったし……」


 そうだな。

 炎が収束し、後に残ったのは大き目の魔石。今回は『落とし物(ドロップ・アイテム)』が出なかったから、これで終了。

 気になるのは……あのパーティーが何処で『イロウジョン・ワーム』に目を付けられたかだな。

 じいちゃん著『魔物図鑑』にはその魔物がどんな場所に生息するのかも載っている。今回俺達が討伐した『イロウジョン・ワーム』が好んで住処とする所はこの『ヘルバ』から然程遠くは離れていない湿地の洞窟である。

 だが、奴等は獲物が近付かない限りは自ら手は出して来ないらしい。目が見えない分、嗅覚が鋭い『イロウジョン・ワーム』の分類は有形の生物では珍しい「設置型」の魔物。扱い的にはゴーレムだったりガーゴイルの様な自分らで近付かなければ無視出来る罠の様な役割なんだそうな。

 そんな魔物に目を付けられたあの冒険者達が何をしようとして、何に「失敗」し此処まで魔物を運んできたのか。

 目を向けた村から治療を終えたリリーナが泣き笑いながら此方に掛けてくる所を見れば、どうやら皆、無事だった様子。

 さて……あの5人の冒険者から、どんな言葉がでるのやら。



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