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ヒーラーは物理的に杖を振る

パーティメンバーに置いてかれたヒーラーです

作者: 綾崎オトイ

〝ソロヒーラーは物理的に殴り倒す〟の続編というか過去編?

前作でちょこっとだけ考えていた設定をついでなのでザマァとして書いてみました。

今回もまた内容設定、その他もろもろテキトーですがそれでも大丈夫な方がいましたら読んでいただけると嬉しいです。

 パーティメンバーに置いていかれた。


 意味がわからない? あたしも意味がわからない。

 けど、言った通り、これが事実。



 〝___サラ、お前、料理も雑用もまともにできねぇし、ヒーラーのくせに戦闘の支援だってまともにできねぇし、流石にこれ以上はお荷物だ__〟


 パーティのリーダーにそう言われてちょっと何いってるのかわからなくて「はぁ」としか答えられなかったあたしを、メンバーは木に縛り付けてそのまま帰っていった。


「こんなことって現実にあるんだねぇ」


 吃驚だよ。ほんとに。

 会話する相手は誰もいないけど、思わず口に出す。


 まあね、料理はほぼ消炭にしちゃったけどさ、それだって作れないって言ったのにやれっていうから頑張ったのに。戦闘の支援だってちゃんと回復とか付与とか飛ばしてたのに。


 〝__お前少しは支援職っぽいことしろよ。まあ、俺たち強くて怪我とか最近しねぇからいらないけどよ__〟


 って。すぐ怪我してたし、あたし毎回それ回復してたのに。

 毎回怒られるの本当に不思議。


 〝__よくわかんねぇけどギルマスに気に入られてるお前を邪険に扱うと目つけられるかもしんねぇし。ちょっとミスって仲間一人助けられない、なんてことは珍しいことじゃねぇだろ?__〟


 依頼失敗になるのはちょっと痛いけど、まあこの後挽回すればいいとか、なんかよくわかんないけどそういうことなんだって。

 最近回復系の得意な魔法使いの女の人が仲間入りしたし、あたしは邪魔にしかならないらしい。


 グルルルル、と周囲から音がする。

 さっきから囲まれてるんだよね、狼型の魔物に。

 この辺魔物の巣窟だからねぇ、まあ人間の匂いがしたらそりゃ集まってくるよね。


 あたしを縛ってる縄はそれなりにきつめに縛ってくれたみたいで解くのは簡単じゃなさそう。


 目の前の獣は涎を垂らして今にも飛びかかってきそうな雰囲気。

 この魔物、意外と買取の値段高いよね。


「よし、狩ろう」


 よいしょっと。


 縄は解けなさそうだったから、縛り付けられてる木ごと引っこ抜いた。


 うん、腕はちょっと動かしにくいけど足は使えるし、問題なーし。


 体を捻ると木が獣を薙ぎ倒した。

 おお、意外といい感じ。


 向かってくる獣たちを足で蹴り飛ばして、背中にくっついてる木で殴り飛ばす。


 キャウンと鳴く一匹が吹っ飛んで、グガッと唸る一匹が地面にめり込んで、ギャッと叫んだ一匹が後ろにいたもう一匹を巻き込んで叩きつけられた。


 バキっと音が響いて、急に背中が軽くなる。


「お?」


 今木を使って叩きつけたはずの一匹と一緒に砕け散った木片があった。

 腕も動く。


 背中に背負ってた木が打撃に耐えきれずに折れたらしい。


「やっぱり木がない方が動きやすくていいね」


 背後に手を回せば愛用の杖は無事だった。まあそんな柔な作りじゃないし。


 クルクルと手の中で回しながら前に持ってく。

 細身の杖の先についた宝石の装飾がシャラシャラと揺れる。

 太陽の光を反射して淡く光る杖は特注で作ったヒーラーの杖。可愛くてお気に入り。

 強度もかなりある、かなり細身だけど簡単には折れない。


 ちょーっとイラッとしたし、ストレス発散に付き合ってもらおっかな。

 まだまだいっぱいいるし。


 動きやすくなった体でにこりと笑ってみる。


 目の前の獣がびくりと体を揺らしたけど、そんなの気のせいだよね。

 まだまだ敵はいっぱいいるし、楽しませて、くれるよね?



 ****


「せやっ!!」


 杖を全力で振り抜いた。

 最後の一匹が遠くに吹っ飛んでいく。


 力込めすぎたかも。見えないとこまで飛んでっちゃった。


 魔物の血で汚れた杖とあたし自身に浄化魔法をかける。

 けど、綺麗になったローブの裾がまた汚れ始める。


 うん、魔物の屍の山の上に立ってるからね。順番間違えたよね。


 普通の討伐依頼なら討伐成功の証明に魔物の一部を持って帰るところだけど、この魔物はそのまま高く買い取ってもらえるんだよね。

 肉は食べられるし、爪とか牙とかも使えるから。


 魔物専用のバッグに魔物を詰め込んだ。

 普通の道具には意味ないけど、魔物ならバッグの容量以上のものが詰め込める画期的なマジックバッグ。

 全部の魔物を詰め込み終わる頃には辺り一面綺麗になった。このバッグにも入れられる限界があるんだけど、ちょうど入ったみたいで嬉しい。

 いっぱいお金がもらえるならそっちのがいいもんね。


 魔物が詰め込まれたバッグを背負って、ギルドに帰ることにした。


 一応整備された道はあるけど、少し遠回りだから魔物が多い森の中を進む。

 体力にはあんま自信がないから、できれば遠い距離歩きたくないんだよね。

 森を進むとかなりショートカットできる。

 出てくる魔物はかなり多いけど片っ端からなぎ倒せば問題ない。

 足で踏み潰して踏み台代わりに跳躍して、基本的にまっすぐしか進まない獣の背中に乗ってみたりでっかい鳥型の魔物の足に掴まってたまに楽して運んでもらう。


 ギルドにはすぐ到着した。

 先に帰ってると思ったあたしを置いていった皆はいなかった。

 もう依頼の報告して帰ってるのかも。


「たっだいまー」


 依頼の報告とかはリーダーの仕事だから今回はあたしすることないんだけど、ギルドマスターのがら空きの背中が見えたから飛び蹴りをプレゼントした。


「うげっ!? ってぇ……っ、ってサラか? 何お前、仲間どこ行った?」


 背中を押さえながら涙目でこっちを振り向いたギルマス、なんかおっさん通り越しておじいちゃんみたい。


「んー、やっぱりあたし他人と組むのは合わないみたい?」

「は? んだそれ」


 最初っから一人がいいとは思ってたんだけどね、なんかヒーラーは普通パーティ組むものだってみんなに言われたから、そっかーって思って組んでたんだよね、パーティ。


「あ、これ、売りたいの」


 とりあえず飛び蹴りして満足したし、買取カウンターに向かって台の上に狼の魔物をどさどさとバッグから取り出した。


「お前、またそんなに狩ってきたのか。よくやるな」


 なんでかギルマスもついてきた。

 買取カウンターの人もなんでか顔が引きつってる。


「え、そう? これとかそんな強い魔物じゃないし、普通じゃない?」

「普通じゃねぇから。量がありえねぇから。しかもお前一応ヒーラーだから」


 ギルマスがなんか言ってるけど、気にしな−い。


「は? なんで、サラが、ここに……」


 いるんだよ、って心底驚いたような声が、さっき聞いた気がする声がした。


 振り向くとそこにいたのはあたしを置いていったパーティメンバー。なんでかボロボロだった。どこでそんなに傷作ってきたの?

 幽霊でも見たような顔をして口を開けてるのはリーダーだった。


「あ、さっきぶり〜」


「っ、んで、置いてきたお前がここにいるんだよっ!? 魔物にでも食われてるはずじゃ……っ!?」


 なんかギルマスにバレたくないみたいなこと言ってなかった?

 ギルマスいるよ? 思いっきり叫んでるよ? いいの?


「魔物なら、ここにあるけど」


 あたしはまだカウンターに並べられたままの魔物を指差す。

 今必死に数えてお金の計算してもらってるとこなの。


「なんで置いてきたはずのお前が先にいるんだよっ」

「何でって、森抜けて近道したから? あたしのが早く着いたのは吃驚したけど」


「だいたいその魔物、どうしたんだよ……っ。まさかギルマスが助けにっ?」

「あたしが狩ったに決まってるじゃん」


 確かにギルマスは横にいるけど。あたしこの男に助けられるほど弱くないんだけど。ていうかあたしのが強いからね、絶対。


「お前、ヒーラーだろ! 戦闘なんてできねぇだろ!」


 リーダーが叫んでるけど、そこまで驚くこと?

 戦闘くらいできるよ?


「うん、なんかよくわかんねぇけど」


 口を開いたのはギルマスだった。


「何、サラ、お前、置いてかれたの」

「うん、まあ。なんか木に縛り付けられて。引っこ抜いたけど」

「あー……、まあお前、ほんと常識外だよな」


 うん、となんか神妙な顔して頷いたギルマスの顔がむかついたからスネを蹴った。

 ……避けられた。ギルマスのくせに。

 むぅと頬を膨らませたらギルマスに両手で挟まれて潰された。

 ふしゅうと口から空気が抜けた。


「ちなみに聞くんだけどよ、なんでそんなことしたんだ?」


 ん? と事務的な口調でギルマスがパーティに声をかけた。


 うっ、と一瞬吃ったリーダーは開き直ったらしい。

 あたしを睨みつけながら言葉を吐き出し始めた。


「そいつヒーラーのくせに回復も付与もしねぇし、詠唱しようとする素振りすらねぇなんて終わってるだろ。支援職なら雑用くらいしろよ」

「うん、いや、こいつ無詠唱だしな」

「…………は?」


 何でかあたしじゃなくてギルマスが答えてるけど、リーダーが間抜けな顔してる。

 だからあたしちゃんと魔法かけてるよって言ったのに。


「いや、そもそも怪我とかしねぇから必要なかったから役に立ったことねぇし」

「傷できた瞬間に回復して、攻撃する瞬間に攻撃力上昇、防御とか状態異常とかその都度完璧なタイミングで魔法使ってたんじゃねぇか? お前らその傷帰り道でやられたんだろ?」

「…………」


 うん、あたしちゃんとやってたよ。

 帰り道って、そんな強い魔物いなくない? それでそんなに傷だらけだったの?


「言っとくけどな、こいつヒーラーとしての腕マジでいいぞ。無詠唱でタイミングが良すぎて何もしてねぇように見えてたんだろうけどよ。そこそこ一緒にいたんだから気づいてもいいと思うんだけどな……」


 ギルマスが頭をかきながらはぁ、とため息を吐き出した。


「なんかよくわかんないけど、お疲れ様」

「いや、お前のこと話してんだけどな?」


 なんかかわいそうになってギルマスの肩をぽんと叩いてあげたらさらに疲れた顔になった。


「あとな、確かに雑用も壊滅的で体力もねぇけど、その分戦闘力はお前らより高いぞ」


「は? ヒーラーがそんなに強いわけ……」


「いや、普通に攻撃力とか戦闘能力で言うならうちのギルドでトップ狙えるくらいだからな」


「は? んなわけ……」


 リーダーが否定しかけて、あたしが狩ってきた狼の魔物を見て途中でやめた。


「……そんなに強いなら、なんでヒーラーなんて……」


 ん? 今度こそあたしに聞いてる?

 ヒーラーになったわけ、ねぇ。


「杖が気に入ったから?」


「……は!?」


 いや、だって剣とか重いし、気に入った杖が攻撃系より癒し系特化のやつだったし、ならヒーラーだなって言われたからヒーラーになったんだよね。


「ねぇ、そろそろお金もらってご飯食べに行きたいんだけど、この話まだつづく?」


 もうお金用意してくれてるし、帰っていいよね?


「おう、まあ、サラだもんな。本来なら処分するとこなんだけどな、まあ今回は何もしねぇわ。サラが気にしてねぇし。つーかどうでも良さそうだからな」


 なんかあるか?

 ギルマスがあたしに聞いてきたけど、別になんでもいいんだよねぇ。


 とりあえず。


「んー、あたし、やっぱソロヒーラーでいいし。別に。パーティいるよりお金になったし」

「てことだから、まあ、お前らは頑張れよ。今までと同じランクの依頼は難しいと思うからな」


 かいさーん、てことであたしは魔物と交換してもらったお金を持って街に繰り出した。

 今日は美味しいもの食べられる〜。


パーティメンバーはある意味殺人行為なのでお咎めなしでいいのかと言われる方もいるかもしれませんが、サラが抜けたことがそもそもかなり大きな穴になるのでまあいいか、というギルマス判断です。

サラが全く気にしてないというのが一番の理由ですが。

基本何も考えてない脳筋少女なのでめんどくさい集団行動がなくなったくらいにしか思ってません。

行き当たりばったり設定なので、パーティメンバーは名無しのただのクズたちですが、少しでも楽しんで読んで

いただけたら嬉しいです。

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