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「じゃあ、いただきます」
そう言って行儀よく両手を合わせてから、駅前にある喫茶店『摩天楼』の中で、葡萄は食事を始めた。
葡萄の座っている席の前には、大盛りのパスタ(ペペロンチーノ)とサラダ。それから大きな季節の果物がたくさん入っている、豪華なフルーツパフェが置いてある。
飲み物はミルクをたっぷりと入れたアイスコーヒー。
その反対側の席に座っているはじめの前には、アイスコーヒーしか置いていなかった。はじめは自分のアイスコーヒーにガムシロップを二つ入れてから、その中身をストローでかき回して、美味しそうにパスタを食べている葡萄のことを見つめていた。
そんな風にして少しすると、ぴたっと葡萄のパスタを食べる手が止まった。なのではじめは「どうかしたの?」と葡萄に聞いてみる。
すると葡萄は「あんまりじっと見られていると、恥ずかしいです」と帽子のしたの白い顔を赤く染めて、はじめを見てそう言った。
そう言われてはっとしたはじめは「……あ、ごめん、ごめん。別に、その、変な気持ちで君のことを見ていたわけじゃないんだ」と少し慌てて葡萄に言った。
「あ、いえ、それはもちろんわかっています。川村さんは私のことを『あの絵のモデルの女の子』として、見ているんですよね。ほかの人でもそういう人、随分と多くいたからわかります。みんな今の川村さんと同じようなきらきらと輝くような、子供のような目をして、私のことをじっと見つめていましたから」とちょっとだけ悲しそうな顔をして笑って葡萄は言った。
そんな葡萄の笑顔を見て、はじめの心は小さな痛みを感じた。
「本当にごめん。そんなつもりで君に声をかけたわけじゃないんだ」とはじめは素直に葡萄にあやまった。
「わかってます。まだほんの少しの時間しか話をしていませんけど、川村さんが『すごくいい人』だってことは、私、もうわかってますから」と今度は本当に嬉しそうな顔で笑って葡萄は言った。(その美しい顔を見て、はじめの心は今度はとても、どきっとした)