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葡萄の絵画  作者: 雨世界
1/2

1 君に一番似合う色は何色ですか?

 葡萄の絵画


 登場人物


 藤葡萄 帽子を深くかぶって、自分の顔を隠している髪の短いボーイッシュな少女


 川村はじめ 画家見習いの美大生の青年 


 葡萄の母親 故人 はじめに衝撃を与えた『綺麗な顔』と言う題名の絵画を人生の最後に描いている。


 プロローグ


 ……お願い。私を見つけて。


 本編


 君に一番似合う色は何色ですか?


 強い風に飛ばされた帽子の後ろにずっと隠れていたその少女の顔を偶然見たとき、(あるいは、見つけたとき)画家見習いの美大生の青年、川村はじめはさっき美術館で見て、自分の人生を変えてしまった、(あるいは帰られてしまった)と思うような、そんな衝撃的な一枚の絵画の中に描かれていた一人の奇跡の少女が、その絵の中から今ちょうど、まるで休日にこっそりと家の外に遊びに出かけていく普通のどこにでもいる女の子と同じように、絵の中から抜け出てきたのかもしれないと、本気で思ってしまうほどに、再びさっきと同じくらいの(あるいは、それ以上の)衝撃を受けた。(なんだか頭がくらくらした)

 その一枚の絵画、『綺麗な顔』は、きっとあの世界で一番有名な絵画だと思われるレオナルドダヴィンチのモナリザをお手本にして描かれた人物画であると思われた。

 モナリザと同じポーズをした高校生くらいに見える少女の絵画。(その少女は短い髪をしていてとても美しい少女だった)

 でも、その少女は目を閉じていた。(モナリザのように目を開けていなかった)

 その顔はどこか眠っているようにも、あるいは神様になにか神聖な祈りを捧げている神官、あるいは巫女のようにも見える。


 ……ずっと、何度も何度もデッサンをして描こうとしたはじめの理想の人物画がそこにはあった。

 どうしても描けなかった理想の人物がそこにはいた。

 その絵画には確かに『画家の魂』が宿っていた。

 ……『輝く命』があった。


 はじめはとても強いショックを受けた。(本当に腰から美術館の床の上に崩れ落ちそうになった)

 もう、自分が描こうとしていた理想の絵画を自分ではない誰かが、きちんとその絵の中に形にしていたからだった。

(思わず幼いころからの夢である画家になることをやめようかと思ったくらいだった)

 そんなはじめに衝撃を与えた絵画の少女が今、はじめの目の前に立っていた。

 

 少女は慌てて帽子を拾いに行くと、すぐにまたその帽子を深くかぶってその美しい顔を隠してしまった。

 それから周囲の風景をきょろきょろと見渡してから、また何事もなかったかのように美術館の前の道を最寄りの駅のある方向に向かって歩き出した。

 そんな風景をぼんやりと眺めていたはじめはふと我に帰ると「あ、あの! ちょっと待って!!」と慌てて少女の後ろ姿をおいかけて、そんな風に少女に声をかけた。

 すると少女は「……え? あ、はい。私ですか?」ともう一度、きょろきょろと周囲を見渡してから(近くに二人以外の人は誰もいなかった)自分の顔を指差してはじめに言った。


 少女の名前は藤葡萄と言った。

 葡萄との出会いをはじめは本当の奇跡だと思った。

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