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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

森の中の不思議なお店

作者: どんC

 森の中に赤い屋根の家がポツリと一軒ありました。

 家の中には、お婆さんが一人で住んでいます。

 お婆さんは暖炉前でロッキングチェアに腰を下ろして編み物をしていました。


 トントン


 お婆さんの家のドアを叩く音がしました。


「はい。どうぞ」


 お婆さんは魔法でドアを開けました。

 ガチャリとドアが開き、一人の女の子が入ってきます。


「こんばんは。さがしものを取りにきたの。このお店には失くした物があるって聞いたわ」


 女の子はそう言うと、家の中を見渡して探し物を見つけると。


「あったわ」


 女の子がそう言うと長椅子の上にちょこんと座っている人形を抱き上げました。


「もう見つからないと思った」


 女の子はビスクドールに頬擦りすると、お婆さんにお礼を言って出で行きました。

 お婆さんは編み物の手を止めて、昔自分もビスクドールを持っていた事を思い出します。


 あれは……私が七歳になった時。


 幼馴染みの男の子が誕生日にプレゼントしてくれたもので。

 家が没落してあの人形も手放さなければならなくなって………


 悲しかった。


 私と同じ金髪で青い瞳の可愛いお人形さんだったわ。

 名前は何て付けたかしら?

 たしかリリーっと名付けたわね。

 あの子は誰かに貰われて、大切にしてもらっているかしら?


 トントン


 また誰かがドアを叩く。


「はい。どうぞ」


 ドアを開けて入ってきたのは王立学園の制服を着た少女が一人。


「こんばんは。忘れ物を取りにきたの」


 少女は暖炉の上に置かれている本を見つけると、微笑みました。


「ずっと前に無くして……探していたの」


 彼女も本を抱き締めると、お婆さんにお礼をして言って出ていきました。


「今日はお客さんが多いわね」


 お婆さんは彼女が持って行った本のタイトルを思い出す。

  私も魔法の本を持っていた。

 仲の良かった彼がくれた本は魔法の本で。

 楽しい思い出を写す事が出来た。

 あれは……

 いつ無くしたんだったかしら?


 トントン


 また誰かがドアを叩く。


 入って来たのは若い娘で。

 幸せに輝いていました。


「今日は私のデビュタントなの」


 若さで輝いている娘は壁に飾られていた白い薔薇の花冠を頭に乗せるとクルリと回る。

 白いドレスが優雅に揺れて。

 娘はお婆さんにお礼を言って出ていきました。


「私もデビュタントの前の日は興奮して眠れなかったわね」


 婚約者と手を繋いで入場した。

 本当に幸せだった。

 あの頃はお父様もお母様もお兄様達も生きていて。

 良く皆でお出掛けしたな。


 あの頃は婚約者も笑っていた。

 学園の三年生になるまで婚約者はとても優しかった。

 でも、三年生になると彼女が転校してきて。

 婚約者は彼女に夢中になって……

 卒業パーティーで婚約は一方的に破棄された。

 そのまま王都のタウンハウスに追い返されて。

 領地に帰っていた、お父様とお母様とお兄様が慌てて帰って来る途中崖崩れにあって。

 三人は亡くなってしまった。

 伯爵家には莫大な借金があって。

 家も土地も全て取り上げられた。

 私は平民になり。

 皇太子(元婚約者)の怒りを恐れた人に、国を出るように言われて。

 私は国を出た。

 鞄一つ持たされて。


 海を渡り隣の国に渡った私に職を与えてくれたのは、国から逃げるように言った人で。

 私はこの森の店の店番をしている。

 ここは不思議な場所だ。

 看板には【さがしものや】と書かれている。

 私はここで働いて……どれぐらい時がたったかしら?

 ここに居ると時間の流れがあやふやで……

 私はすっかり老いてしまった。

 私はいくつになったのかしら?


 トントン


 また誰かがドアを叩く。


「どうぞ」


 私は魔法で扉を開ける。

 男の人が入って来た。

 まだ30代ぐらいなのだろうが、憔悴しているせいか年よりも老けて見える。

 くたびれた感じだが、服は高価な物だ。

 どこかの貴族の様だ。


「ここに探しものが必ずあると聞いたのだが……」


 おばあさんは微笑むと。


「どうぞ、ゆっくり見ていてください。本当に探しているなら見つかるはずです」


 男はゆっくりと店の中を見て回る。

 人形や皿や宝石に時計がテーブルの上や床に所狭しと並べられている。

 毎日掃除している私でも全てを把握できない量だ。

 しかも不思議な事に品物が増えたり減ったりしている。


 長い間男は探していたが、ため息をつくと。


「ここには私が探している者が無い」


 と言った。


「可笑しいですね。この店に来た人は必ず探し物を見つける事が出来るんですよ」


「ここには私の探している者がいない」


「もしかして……人をお探しですか? ここには私しかいませんが、どなたをお探しですか?」


 男は暫く言うか言わないか視線をさ迷わせていたが。


「探しているのは私の婚約者だ。いや元婚約者だ」


「ええと……今日は若い娘さんも来られたからあの娘さんかしら? 赤毛で緑の瞳のデビュタントの花冠を持って行かれたわ」


「いや。私が探している人は28歳になる婦人で金髪で青い瞳をしている。もしかしたらもう結婚をして子供もいるかも知れない」


「う~~ん。思い当たる人は知りませんね」


「そうか……」


 彼は酷くガッカリしていた。


「そうだわ。お茶をどうぞ。元気が出る様にハーブティーをお入れしますわ」


 私は彼に元気が出る様にお茶を入れる。


 男は疲れたのかどっかりと椅子の上に座った。

 パチパチと暖炉の火が爆ぜる。

 私は彼にお茶を入れるとクッキーも勧めた。


「懐かしい味がする。私の婚約者も良くハーブティーを入れてくれた」


「探している人が見つかるといいですね」


「あれは……」


 男の人は窓辺に置かれたトルソーが着ているドレスを見つめる。

 綺麗なドレスだが胸の所がワインでシミになって居る。


 あら?

 さっきまで無かったのに?


「婚約者が着ていたドレスだ……何故ここに?」


 トントン


 また誰かがドアを叩く。


「どうぞ」


 私はドアを開けてその人を迎え入れる。

 赤い髪に茶色の瞳の人が入って来た。


「クローネ迎えに来たよ」


 彼は私を見つめて微笑んでくれた。


「ライオネル!!」


 私は立ち上がり、彼の元へと駆け寄る。

 夜会巻きにしていた老婆の髪が解けて、美しい金髪が揺れる。

 皺だらけの顔も淡い光に包まれて元の艶やかな皮膚に戻り。

 曲がった背中もしゃんと伸びている。


 思い出した!! 思い出した!!

 彼の名はライオネル・ヘクトール。

 隣の森に住んでいた、魔法使いの弟子だ。

 彼と初めて会ったのは、森の中。

 私は迷子になって、ライオネルが私を見つけてくれて。

 家族の所に連れて行ってくれた。

 私の誕生日に彼と彼の師匠を招いたら。

 ライオネルは魔法で人形を作り出して、私にプレゼントしてくれた。

 それから彼は私の誕生日に何かしらのプレゼントをくれる。

 私はお返しに彼の誕生日にお菓子を焼いたり、刺繡のハンカチを贈ったりしたわ。

 あの記憶を写す本も彼が私に作ってくれたのだ。

 ライオネルは5歳年上だから学園を卒業すると直ぐに辺境に魔物討伐に出てしまった。


 でも……


 お父様とお母様とお兄様の葬式に出てくれて、ずっと私の手をつないでくれていた。

 二人だけの寂しいお葬式。

 あの国から逃げる手配をしてくれたのもライオネルだ。

 彼のお陰で私は追手から逃れる事が出来た。

 私はこの森の【さがしものや】に入ると、記憶があやふやになって、老婆の姿になって。

 敵の目を眩ますことが出来た。

【さがしものや】は邪な者は入れない。

 ずっと追手から私を守ってくれた。


 お父様とお母様とお兄様は殺されたのだ。

 犯人は私を陥れて婚約者を奪ったあの男爵令嬢一派。


「やっと君の家族の無念を晴らす事が出来たよ」


「あの男爵令嬢一派は?」


「ああ。みんな死刑になった。もう大丈夫。君を害する者はいない」


「これでお父様とお母様とお兄様の無念を晴らすことが出来たのね……うっ……ううっ……ありがとう……ライオネル……」


 魔法が解けた彼女の美しい青い瞳から涙が零れ落ちた。

 それを見てライオネルは微笑んだ。


「さあ、ここから出よう。クローネ、君は自由だ!!」


 二人は手に手を取って【さがしものや】から出て行った。

 クローネの元婚約者は呆然と二人が出て行ったドアを見つめる。

 二人は一度も男の方を見なかった。

 まるでここには二人しかいないと言わんばかりに。 


【さがしものや】に探し者はあった。


 彼女はここに居た。


 何故気が付かなかったんだ?

 クローネはよくハーブティーを入れてくれたのに。

 彼の好きな柔らかめのクッキーを焼いてくれたのに。


 ここにクローネを探しに来たのは、謝罪するためだった。

 男爵令嬢に恋をして、彼女の言葉を鵜吞みにして婚約を破棄した。

 気が付けば、クローネは両親と兄を失くして。

 彼女の兄とは親友だったのに、葬式に出る事さえしなかった。

 男爵令嬢一派の噓の借金で館も土地も全てを取り上げられ、命まで狙われていた。

 そんなクローネを助けたのは幼馴染の魔法使い。

 彼はクローネを安全な【さがしものや】に隠すと裏世界に潜り男爵令嬢一派の悪事を暴いた。

 10年もかかったが、ライオネルは証拠を集めて男爵令嬢一派を罰した。

 凄い執念だ。

 全ては幼馴染の為。

 魔法使いはクローネを愛していたのだろう。

 そして……彼女も……


 私は……何をしていたろう?


 男爵令嬢は身分が違い過ぎたため結婚は出来なかったし、側室にもなれなかった。

 王族法には両親とも貴族でなければ、王妃にも側室にもなれないと言う。

 王でもその法を変える事が出来ない。

 男爵令嬢は公認愛妾となり、陰で政治を操って罪を犯していた。

 公認愛妾とは王妃でも無いが、王妃の様に振舞うことを許された妾の事だ。

 王太子の苦肉の策で、彼には隣の国の姫を王妃として迎え入れていた。

 私は……彼女の犯罪にも気付かず、国を乱してしまった。

 絞首刑台で泣きわめく彼女を見て恋がいっぺんに冷めた。

 そして……己が罪を知る。

 元婚約者のドレスにワインをかけたのは……私だ。

 婚約者クローネは断罪されてもスッと背を伸ばし、優雅に卒業会場を出て行った。

 ひき返せるチャンスはいくつもあった。

 だが……私は……

 全てのチャンスを取りこぼした。


 見栄えばかりの王子は彼女に相応しくない。


 いつだって彼女には助けてくれる魔法使いがいた。


 私の助けなど必要ない。



 王太子だった男は深いため息をつくとドアノブに手をかけて店から出て行こうとした。


 が……


 ドアは開かない。

 男は焦ってガチャガチャとドアノブを回すが、ドアは開かない。

 窓から出ようとしたが、釘で打ち付けられたように窓も開かなかった。

 男は焦って椅子を窓に投げつけた。

 椅子はピタリと空中で止まると、スッと元の場所に戻る。


 どういうことだ!!

 閉じ込められた!!


 ふと壁にかかっている鏡が目に入る。

 そこには一人の老人が立っていた。

 老人は悟る。

 クローネの代わりの店番が自分だと言うことを……






 トントン


 今日も誰かがドアを叩く。


「どうぞ開いているよ」


 老人は魔法でドアを開けて、お客さんを迎え入れる。


「本当に【さがしものや】があったんですね」


 中年の男が一人店に入ってくる。

 男は店の中を見渡すとオルゴールを手に取った。


「火事で失くしたオルゴールだ」


 男はネジを巻くと綺麗な曲に聞き入る。


「母はこの曲が好きでした。父と母は政略結婚で父は男爵令嬢に夢中で母と私達兄弟はないがしろにされていて……男爵令嬢が処刑されて暫くして父は居なくなって……母は国を守り、私達兄妹を育ててくれました。立派な人でした……」


 男は何故店主にそんな話をしている事に気が付かなかった。


「父親を怨んでいるのかい?」


 店の主人の声が震えているようだったが、客の男は気にせず答えた。


「初めから居ないような人でしたからね。怨むと言う感情はありません。顔もろくすぽ覚えていないから……」


 中年の男は笑ってオルゴールを持って出て行った。

 王太子だった男を探しに来る者は居ないようだ。


 【さがしものや】の主人はポツリと一人取り残された。






        ~ Fin ~






 ***************************

   2020/12/30 『小説家になろう』 どんC

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最後までお読みいただきありがとうございます。

あれ? 最後ホラーぽい? ギリシャ神話に出てくる渡し守の話みたいになってしまった。

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― 新着の感想 ―
[一言] わわわ、童話で婚約破棄なのです。 面白かったです!
2023/04/25 15:10 退会済み
管理
[一言] コンビニ黄昏ど……nんん。 まあ、人には誰しも、探し物があるからね。 でも、店番の話はあんまりな気がする。
[一言] 森の中の不思議な【さがしものや】。 「邪な者は入れない」はずなのにどうして元婚約者がたどり着いたのかと思っていたら……。男爵令嬢と一緒に処刑されなかったのは温情ではなく、あくまで生きたまま店…
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