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ここは私のお家です3 さようなら

 結局私は予定通り毎日休みをダラダラと過ごしていた。


「ねえ、名前何て言うの?」

「私はギルバートと申します」


 ふざけているんだろうか。見た目日本人なんだけど。


「まあいいや。ギルバートね。ギルって呼ぶわ。知ってるかもしれないけど私は花形イチ。イチって呼んで。先に言っておく。間違っても様とかつけないでイチって呼び捨てにしてね。もう一つついでにそんなに丁寧に話さなくていい。馴れ馴れしいと思うくらい普通にしゃべって。何日も過ごした後で今更何なんだって思うかもしれないけれど」 

「あー分かった。そうさせてもらう」


 私は後輩にギルの作ったご飯やツーショットを送ったりして見てた。休み明けにからかわれるかもしれないがまあいい。後輩の言うようにギルと付き合うっていうのもほんのちょっとは考えてもいいかもしれない。いつまで家に住んでいるつもりなのかわからないけれど。

 夜這いもかけられないしこれといって迷惑もかけられていない。だからまぁいっかとどんどん思うようになっていった。

 気になることがないわけではないが。


「そういえばどこで寝てるの。お客様用の布団一組あったと思うんだけどそれ使ってた?」


 ギルはなんてことないように答えた。


「俺の部屋ならあるから大丈夫。心配してくれてありがとう」

「それなら良かった。今まで気づかなくてごめんね。それからいつもご飯ありがとう。とても助かってる。美味しいよ」   

  

 ん?俺の部屋ならあると言われた気がするのだけれど。聞き違いだっただろうか?


「えっと、俺の部屋っていうのは家の空き部屋のことでいいのかな?まぁそこにお布団も一組置いてあるわけだしってことでいいんだよね」


 掃除はちゃんとしてたからホコリとか気にならないと思うけど、私の住処なんだから自分の部屋にするんだったら一声かけてくれればいいのに。これっていわゆる同居になるのかしら。間違っても同棲ではない。

 まあなんだか微妙に噛み合わない気もするけれど何かあったら出ていけと言えばいいか。

 そもそもこの人に対してこうあんまり警戒心が湧かないんだよね。

 なんかどこかで絶対的に大丈夫っていう気がするんだよな。




 貴重な休みがどんどん消費されていく。


「もうすぐ終わっちゃうなあ。残念だけどもう体をいつもの感じに慣れさせていかないと。今夜からはいつもの時間に寝て朝もいつも通りに起きなきゃな」


 結局長い休みは家から一歩も出ることはなかったけれど、同僚に連絡取ったりすることもあって、完全に世の中から切り離されている感じはなかった。

 会社の外の友達に連絡しなかったのは、押しかけられてなぁなぁで休みの間滞在されて、一人で楽しく過ごすことを邪魔されそうだったから。親にも長い休みだなんて言ったらたまには帰ってきなさいなんて言われそうだったし。

 そうなれば年齢的に彼氏はいないのか結婚はどうするんだその後はなんちゃらかんちゃらと色々うるさく言われるのが目に見えていたし。

 彼氏は卒業すると同時に別れてそれっきり。新しい彼氏はいない。仕事が楽しい時期なのもあってどうでも欲しいとかそういう気持ちはわかなかった。


 


 そんな感じでもうすぐ休みが終わるという頃になって爆弾発言が落ちてきた。


「イチ、制御室と居住空間はどこで繋げたらいい?」   

「は?」


 一体何を言っているんだ。


「そうは言ってもイチならどこからでも出入りできるんだけど。やっぱそれっぽくドアとかつけたほうが落ち着くんだろう?玄関からそのまま制御室にするか。それが無難そうだな」


 いやいやだから本当に何を言っているんだ。

 確かにおかしいことだらけだなとは思っていた。


 なんかさ、カーテンは開けちゃいけない気がしたりとか。

 会社に連絡したらなんか微妙なズレを感じたりとか。

 あまりにも外の音がしなすぎだなとか。

 でもちゃんとテレビも映るし。

 でもでも、ニュースからは目を背ける自分がいたり。


 そうは言ってもどんなに背けようとしても、細々やってるニュースのどれかが目に入ることはあったし、ネットのトップ画面にもニュースってでちゃうし。

 情報番組の時間にも取り上げられることもあるし。


 あまりにも今の状態と剥離しているから信じられなかった。

 同僚にも連絡できていたし。だから見なかったことにしていた。

 私はスマホを手に取って実家に電話をした。


「もしもしイチです」  

『お父さんお父さん、イチの声が。本当にイチなの?悪戯だったら許さないわ』 

「ごめんお母さん。私やっぱり死んだんだよね」

『ああ!ああ!』


 向こうから叫び声と泣き声が聞こえてくる。


『会社の方がお前と話したと言ったんだ。ひとりじゃない一度だけじゃない。なのになんで親の自分たちには連絡がなかったんだと。そんなに家に帰ってくるのが嫌だったのか疎まれていたのかと』

「違うよお父さんごめん。私がやっと自分が死んだって認めることができたの。だから多分もう時間がない。話せるのはこれが最後。だから言わせて。お父さんお母さんありがとう」

『こちらこそ生まれてきてくれてありがとう。でも親より早く死ぬなんて、なんて親不孝者なんだ。父さんも母さんもそれだけは許さないからな』

「うん本当にそうだね、ごめんね」

『そういえばイチ、お母さんもお父さんも同棲なんて認めませんよ。どうせなら生きてる時に彼氏つくりなさい』


 違うんだけどそうとは言い難いな。一人じゃないと思ってもらった方が安心してもらえるかな。


「ちょっと待って。ギル、こっちの様子スマホの小さい画面じゃなくて向こうに実寸大に映し出せる?」

「あーできる」

「ギル一緒に並んで写って。問題ないよね」

「エプロンしたままだけどいいか」

「うんうん何の問題もない。ほらお母さん。こっちでできた彼氏でギルバートだよ」

『ふふふ、仲良くやっているのね。花嫁衣装見たかったわ』

「できるがやるか?」


 ギルが何か空中で操作をすると私は白いドレス、ギルはタキシードに姿が変わった。さらに操作を続けるとメイクも髪も花束も全部できた。


『カメラカメラ!』  


 いつのまにか弟も帰ってきていてスーツ姿のまま呆然としていた。


『姉ちゃん。んだよそれ。生で見せろよ。おせーし、はえーよ。ねえちゃん何で死んだんだよ。10日も休むんだったら家に帰ってくれば死ななかったのかもしれないのに』 

「ごめんね。お父さんとお母さんを頼むね」

『義兄さん、馬鹿な姉ですが姉さんをよろしくお願いします』

「お任せください。主のことは命をかけてお守り致します」

『頼みます。てかもう死んでるんですよね?お二人とも』


 弟になら言ってもいいかな。これって多分。


「いや多分これさあ、十中八九異世界転生だと思うんだよね」

『やっぱそんな感じ?何、本当はトラックにはねられたとか階段から落ちたとかそういう感じな訳?ほらよくあるじゃん、記憶の抹消とか改ざんとか。こっちで出てる結果と同じだったらちょっと笑えるんだけど』


 おいおい、しんみりどこに行った。やっぱ私の弟だな。


「いや全然そんなことないし、正直いつどのタイミングで自分が死んだか全然わからないんだよね私。知ってる?」

「イチの時間だとこの日になります」

 

 本当に?やだ私、休みが楽しみすぎて眠ってる間にいっちゃったの?もしかして気づいてもらえたのって休みが明けてからってこと?会社の誰かが見つけたりしたのか。


「悪いんだけど、もし会社の人が第一発見者だったら、会社のみんなに発見させてごめんねって言っといて。多分これ切ったらもう繋がらないと思うから。だよねギル?」

「ようやく受け入れたようなので、もう完全に切れます」


 そうだよね。やっぱりそうか。


「家族写真撮ろう」 


 弟のそばで両親が既に待機をしていた。今の話を聞いて顔は泣き笑い状態だ。きっと写真のために我慢してくれているのがありありと伝わってくる。


「ギル、こっちの力で向こうのカメラを自動で操る事って出来る」

「できます。しかし繋げる時間が短くなりますよ。良いですか」


 家族にとってはよくないだろうけれど私はいいと言い切って準備をさせた。

 カメラは連写モードにして空中に浮かせていろんな角度から撮ってもらった。私たちも平面じゃなく立体的に出してもらい、そこにいるかのように。

 そして他愛のない話をしているうちに自然につながりが薄れていって最後にありがとうバイバイ元気でねと伝えて世界とのつながりが完全に切れた。




 後には、今しがた撮影したばかりの写真が現像された状態で床に落ちていた。

 写真には、日付と姉ちゃん達の名前が書かれていた。


「やっぱギルバートじゃないじゃん。どう見ても日本人なのにギルバートって意味不明。姉ちゃん何でギルバートだなんて呼んでるんだろう」  

  

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