ここは私のお家です1 明日から10連休
朝目が覚めたら、私の部屋に見知らぬ人がいた。ここは間違いなく私の部屋である。私のベッドである。着ているものも、いつものパジャマだ。
あえて素通りして部屋のドアを開けた。部屋だけではなく間違いなくここは私の家である。
一瞬頭をよぎったのは、流行りの異世界転移であったがそのようなことはなかったようだ。一安心である。
ということはつまり先ほどの人は不審者である。いやもしかしたら、今部屋に戻ったらただの見間違いで誰もいないかもしれない。ひょっとしたら幽霊?いやいやまさかそんなはずはない。いや、その方が心身のためには良いかもしれない。
とりあえずお手洗いですっきりして気分を変えて、ついでに顔も洗っておく。
「なんだか変な日だなあ。まあそんな日もあるか」
今朝は驚いてしまい、今、手元にスマホがない。いつもだったら朝とりあえず起きたらゲームにログインしておくのだが、すっかり忘れていた。
「えーっと、置きっぱなしで来ちゃったんだった」
いつもより遅くなってしまった。まあそんなに必死にやってるわけでもなければ課金して早くクリアしようとか順位をあげようっていうわけでもないから別に構わないといえば構わないのだが、日課と言うかなんとなくの流れで習慣づいてしまったので、しなきゃいけないような気になってしまう。
そして戻った自分の部屋。やっぱりいるんだとガックリ肩を落とす。やたらとニコニコこちらを見てくるが私から声をかけることはない。いや状況的にはおかしいが、向こうから何かしてくるわけでないのならば、わざわざ自ら危機を招かなくても良いかなという気がしてきたのである。
なんて居ないものとして、知らんぷりを決め込んできたのだが、ついに話しかけられてしまった。
「主様、いかように整えましょう」
あーなんか悪意はなさそうなセリフが聞こえてきた。そのセリフから考えるに、こちらに危害を加える気はないのだろう。
「じゃあとりあえず朝食の支度をお願いしていいですか」
「かしこまりました」
かしこまられちゃいました。
「後で給料や材料費その他の請求なんかありませんよね」
「はいもちろん、そのようなことはございません」
それはそれでどうだろう。勝手に冷蔵庫の中のものを使われるのも嫌だが見ず知らずのこの人に用意された材料で食べるのもなんか嫌だ。じゃあどうするかっていう話になるのだが。
「とりあえず、ま、いっか」
腹が空いては戦はできぬである。
ご飯はたいそう美味しかった。
改まって、改めて話しかけられた。ぴしりと背筋を伸ばしたその姿勢、その美しさに拍手をしたくなる。
「主様のお望みをお聞かせください」
それってどういう意味だろう。どのくらいの事を言っているんだろう。多分最初の整えるが私にきちんと意味が通じていなかったから望みを聞かせろという言葉に変わったのかなと考える。
この畏まった様子からただならぬ様子を感じる。きっと簡単に答えちゃいけないんだろうなと思う。でもこのままずっといられるのもなんか面倒だなって思う自分がいて、だったら叶えられなさそうなことを言ってとっとと諦めていなくなってもらう方が建設的ではないかと考えたりする。
簡単なことを言ったらあっさり叶えられてこうやって次を聞かれているんだから難しいことの方が良いのだろうと思ったのだ。
望みって欲しいものでもいいのかな。
だったらないわけでもないし条件もたくさんつけられる。そしたら簡単に叶うものではないからいなくなってくれるんじゃないかしら?
そこで私は自分自身に突っ込む。
「おいおい私。まずはあれが誰か何でここにいるかどうやって入ったかとか聞くことはいろいろあるだろう」
私は意外と神経が太かったのだなー。
今日から10連休だ。私は昨日、必要なものは全て揃え、今日からは一歩も出ないで過ごせるように準備万端に整えた。ダラダラ過ごしたかった。お風呂も入るし着替えるしちゃんと顔も洗うし歯も磨く。パジャマで1日過ごすなんてこともない。生鮮野菜もカップラーメンも栄養補助食品もレトルト食品も冷凍野菜も乾麺もその他冷食も色々揃えた。いざとなったら出前でもいい。万が一に備えて現金もちゃんとおろしてある。
そんな感じでしっかり準備したのになんだかしょっぱなから予定が狂った。今更ながらちょっと腹が立ってきたりもしてきた。怒るのって気力体力使うからできたらしたくないのにな。
そんなことを考えていたら意外とあっさり怒気は飛び落ち着いてしまった。うん、省エネ省エネ。
私が一人で考えてる間は全く突っ込む気がないらしく、静かに私の動向を見守っている。恥ずかしくなってきた。今更である。居るけど居ない者、でも居ないけど居るみたいな感じ。
さて本題に戻って望みだが。給料は自分で稼いでるから大丈夫。薄給じゃないもの。休みは今日から満喫だ。大丈夫勤め先はブラックじゃない。
趣味……はこれといって胸張って言えるものはないが興味があるものは存在する。ちょっとやってみたいのはダンススポーツだ。さすがにこれは家ではできないので興味があるに止まっているが。
現実的に足りないのは男かな。男日照りなんていう言葉がポッと浮かぶ。
「欲しいのは彼氏恋人夫みたいな?」
でも誰でもいいわけじゃなくて。
「顔は悪いよりは良い方が良い。性格が悪すぎるのはちょっと問題かな。私が卑屈な気分にならない程度にいいのがいいかな。あとはやっぱり生きるのに困らないくらいの知識や教養があるのがもちろん望ましく、あ、でも、だからといって私の学歴にコンプレックスを持たれるようでも困るし。そういう妙なプライド超面倒くさい」
まあ何でも適当に言っておけ。言うだけはタダだ。
「私が使える言語が通じる人がいい。もちろん第一希望は日本語。果てのなんちゃら民族なんて言うところのその人たちしか話せないような言語の人たちに合わせられる自信はない!」
後は。
「お友達や知り合いもある程度は同レベルであってほしい。価値観が合うのが彼だけで周りとはちょっと違うじゃそれもとっても生きにくいし」
とりあえず思いつくのはこんなところだろうか。
「あ。ちゃんと稼ぎのある人で。お互い何かあると困るからそれぞれちゃんと稼ぎがあった方がいいよね。自分で子育てもやってみたいから。なんだったら、私のお給料なくてもやっていけるくらい稼ぎがあるならなお結構」
ひとまずこれだけ希望を出してみた。
「きっと後で思い出したらまた追加出すからよろしくね」
忘れずに付け加えておいた。
お読み下さりありがとうございます。