5章 by佳奈
満月の日は嫌いだ。
だって瞳は赤くなるわ、髪は伸びて行動しずらいわ、血を飲みたくなるわで力を押さえ込むのが大変だから。ちなみに髪は膝下くらいまで伸びる。この長さなら誰でも動きにくいんだろうな、といつも思う。瞳は真っ赤だ(と言うか、血の色に近いかもしれない)から、見る人が見ると私は攻撃される。信じてるけど、夏葵とか、優とか、羊とか。まあ羊は半信半疑状態だからなあ。
って、これは殺気?
「死ね、化物!!」
とか言う不吉な言葉とともに飛んできたのは...銃弾?!
「チッ、避けやがった!」
何が『チッ』よ!こっちが舌打ちしたいわよ。夏葵達を起こしたくないから屋根から降りた。この館に庭が有って良かった、と思いつつもさっき銃弾を浴びせようとした奴を探す。
「皆を起こせないしなあ、『風神:紅葉旋風』!!」
風を使ってソイツを誘い出すつもりだった。でも
「能力『Question』!」
と言う声と同時に風が消える。
「嘘でしょ?!...なら!」
また銃声が聞こえたから、その方向へ壁を使って跳躍して、空中へ。
「薙刀!」
そう言ってイヤリングの先端をつける。イヤリングは光を纏って薙刀に変化。地面に着地する時にはその相手に薙刀を突きつけていた。
「うわっ!!」
「チッ!」
...は??
ついそう思ってしまった。だって、そこにいたのは
「なんで中学生がこんな危ないところに?」
中学生。しかもうちの学校の制服じゃない!
「お前、吸血鬼だろ?だったら敵に決まってる。」
「何なの、その無茶苦茶な理論。確かに私は吸血鬼だけど、種族じゃなくて個人として見てほしいんだけど。」
「そ、そうですか。敵ではないんですか?」
こいつらは一体何が知りたいの?
「うん、別に関係もない奴を不用意に攻撃したりしないし。そもそも私、大事な友だちがいるのよ。大切な人たちを悲しませるのはもう嫌。」
そう言うと二人は警戒をといてくれた。
「そこまで言うなら...」
「信じてみても良いかもな。」
「二人共、あんた達の名前は?私は風切佳奈、能力者よ。能力は後で説明するとして、取り敢えずよろしくね。」
「俺は待宵月って書いてまつよい らいとっていうんだ、いじるなよ。」
「いじんないわよ。」
「ああ。宜しくな。」
月ね。
「僕は十六夜美琴といいます。僕も月も能力者です。宜しくお願いします。」
美琴も月も能力持ち?なんでこんなに多くの能力者がこんな狭い範囲に固まってるの?
「取り敢えず今夜は寝て。明日みんなに二人を紹介するわ。」
「はい。」
「おやすみ〜。」
そう言って二人は館に入って行きかけた。
「あ、ちょっと待って!!私のこの姿の事は皆には黙っておいて。」
「何で??」
とハモった。
「この状態は満月の日だけだから。」
「へえ。」
「てっきりいつもそうなのかと。」
よし、一応釘はさしたし。
「今度こそおやすみ。」
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朝、私は慌てて部屋に戻り、鏡を見る。いつもの私が写っていて、少しほっとした。
「良かった...戻ってる。」
と、つぶやいていた。
「おい、佳奈!何なんだこいつら?!」
ん?夏葵の声?しかも何を騒ぎながら...
「あっ」
夏葵が美琴、月に遊ばれながらこっちに向かってくる。
見ていたらだんだんかわいそうになってきた。
「ああ、この子達は私が見張りしてた時に.........」
と、事の経緯を話した。勿論、吸血鬼については一切話してない。
「で?」
うん?この雲行きは...
「何で俺ら起こさなかったんだよ?その状況でご丁寧に一人で戦うなんて、『正義の味方』じゃなくて、『無鉄砲』だ!!」
あーあー始まっちゃったよ、夏葵のお説教が。これ長いから嫌いなのよね...。
「全く、佳奈はもう少し俺らを信頼してくれてもいいのにさ。」
そう言う夏葵の顔は寂しげに見えて、私はつい、
「じゃ、皆を呼んできてもらえる?二人を紹介したいの。」
「おう、任せとけ!!」
そう言って走っていった。
「それで、俺らに何か用が有ったんだろ?」
「何でお見通しなのかは置いておいて、あの結界二人が結んだの?」
もしそうだとしたら、二人も警戒することにしよう。
「いいえ。そんなことできませんよ。」
「できてたら俺らの周りにはっとくっつの。」
「月、口悪すぎよ。お仕置きが必要かしら?」
私が笑顔で言うと
「いや、スイマセンデシタ。」
「月?!!」
ってかんじでおさめた。(まあ、おさめた、とは程遠いとは思うけど)
私は結界張れるけど長くはもたないし、張った覚えも無いからきっと羊ね。消去法であいつだわ。
「うん、分かれば良いのよ。」
「佳奈様、我々を呼んだのは何故でしょう、え???」
という反応と共に羊の顔から表情が消える。
「そちらの方々は?」
と笑顔で言った。ただ、目は笑っていない。その静かな、でも冷徹な瞳に夏葵も、撫子も、優でさえも表情が凍りついていた。私はというと。
「その二人は私が見張ってた時に......」
と、夏葵にした説明を皆にした。
「なるほど、ではお二人も私達と同じように能力者で、かつこの街に閉じ込められた、とそういう事で間違いはありませんか?」
「はい。」
「ああ。」
羊は相変わらず冷静なようで、美琴と月にどんどん質問して状況を整理していく。
あ、そういえば。
「ねえ、羊。」
「はい、何でしょう、佳奈様?」
「あの結界は羊が張ったの?」
そういうと羊は驚いたのか、
「佳奈様は結界が見える程にお力が強いのですね。」
と言われた。ただ、一つ気になるのは羊が少しだけ嬉しそうだったこと。
「羊も結界が張れるくらい力が強いのね。」
羊はその後私に礼をして優のもとへ向かい、夏葵たちにも事情説明を済ませていく。その手際の良さは少し不気味なくらいで...。私も少しだけ怖かったけど、言えるわけ無いわ。
「あ、この街にもう一人、確実に閉じ込められてる筈です!!」
は?!
「ど、どういう事だ!!」
って、撫子、羊?!!
二人共はっとして、
「今のことは忘れてください...。」
と小さい声で言っていた。面白かったわね、あれは。
「ゴ、ゴホン!!さて、月様、美琴様、そのことについて話していただけますか?」
羊の顔を見て青ざめた二人は話しだした。曰く、
おそらくその人物はこの件の犯人である。
なぜなら、その人物がこう言っていたからだ。
『何であの子はまだ笑っていられるんだ?どうして...。』
また、ソイツが例の黒い化物を従えているらしい。
その話を聞いて皆押し黙る。
さて、私がどう動けば皆を助けられるかしら。
だって、その人物が言っているのはきっと私のことだもの。