2章 by夏葵
だいぶ遅くなりました。すみません...。
右、左、左、右………
「どこまで進んでいくのよ、あいつ。」
そう言う佳奈の声は震えてる、迷うのが相当怖いんだな。
「やっぱり戻ろうよ、迷っちゃいそうだよ。」
撫子はさっきからそれしか言ってねえな。でもなあ……
「優に道聞かねえと帰れねえよ。…帰り道分かんなくなった。」
俺がそう言うと二人は同時に
「はあああああああ⁉︎」
と小声で叫ぶ。バカッ!気づかれるだろ‼︎
と、また曲がったな。
「バカ、静かにしてないと気づかれるだろ。ほらいくぞ、尾行の続きだ。」
「恨むわよ、夏葵。」
「もういっそのこと優君に声掛けようよ、早く帰ろう?」
撫子も佳奈も文句を言いながらもついてきてくれる。まあこれ以上迷うのが嫌なだけだと思うけどな。って、どうしたんだ、撫子。急に止まって?
「あ、優君止まった。」
俺たちも優の様子を伺う。
「ホントだな。でもこんなトコで止まるか?」
「さっき話してた様に誰かと待ち合わせとかかしら?」
ん、誰か来た。3人で息を潜め様子を見る。
「来たか、羊。」
んん?羊??おい佳奈、笑うな、バレるだろ!
そいつは俺たちの方を見て
「はい。主様、何故そちらの方々をお連れに?」
そう言ってこっちを見た。はー、バレてたか。佳奈も最後は笑ってたしな。
「いつまで隠れているつもりだ?」
こりゃ観念して出て行くしかないぞ。
そうして俺を先頭に優たちの前に出る。
「はあ、折角面白いこと見つけられそうだったのに。」
「はあ、だから帰ろうって言ったのに。」
あはは、悪いな。
ふと、羊と呼ばれた青年が佳奈をじっと見つめた。なんだ?こいつまさか、佳奈を狙ってる組織のヤツか?もしそうなら佳奈が危ねえ‼︎
「こいつに何か用かよ?」
佳奈の前に立ち、声のトーンを下げて言う。
「…。」
こいつ……
「何か言ったらどうだ?」
「ああ、私はただその方が随分可愛らしかったのでじっと見てしまいました。申し訳ございません。」
と、笑顔で言われた。なんなんだ、こいつ!歯の浮くセリフを平然と……‼︎
「…食えないやつね。」
と言った佳奈の言葉は聞こえないフリをした。佳奈がこういう時はスルーしてほしい事を知っているからだ。
「先程の質問、まだ答えをいただいておりません。主様、何故こちらの方々を?」
羊が何を考えているか分からない笑顔で言う。
「彼女たちもそ能力持ち(そう)だ。聞かれても問題ないと判断した。」
優は表情を変えずに言った。
「貴様ら、僕たちに協力してもらうぞ。」
優も感じてたのか。まあ俺たちもある程度は感知できるから、相手が感知できても不思議じゃないしな。
「で、何に?『人殺し』とか『大量虐殺』とかなら絶対に協力しないわよ。」
おいおい佳奈、もう少し小さい声で言えよ。誰かに聞かれたらどうすんだ!あ、ここ路地の奥の方だからそう簡単には聞かれねぇか。
「そんな物騒な事を考えていたなら僕は今頃牢屋の中だ。」
そう少し表情を曇らせ優は言う。
「…そうでもないよ。私たち3人の共通の敵は相当あくどい事をやってても全然捕まらないもの。優君たちがそうじゃないとは言い切れないよ。」
撫子?優に対して結構肯定的だったはずだけとな……?
「我々が敵ではないと証明すれば良いのですね?」
羊の問いに撫子は黙って頷く。
…‼︎この気配は!
「主様‼︎」
そう言って羊は優を抱え上げて一瞬でその場を離れる。そして先程まで優が立っていた場所にはマシンガンか何かで抉られた地面があった。
「ったく、仕方ねえ『糸の海』!」
全員を物陰へ。取り敢えずはこれで全員が殺される、なんてことにはならなそうだ。
「ったく、何でアイツらマシンガン24挺も持ち出してるの⁉︎」
ああ、相変わらずの地獄耳だな……。
「…ここは私が参ります。主様、許可を。」
羊の言葉に優は少し迷って、
「………良いだろう、ただし殺すなよ。大事な証人だ。」
「もちろんです。」
物騒な言葉に笑顔で返し、未だマシンガンの音が響く中に飛び込んで行った。
「能力、『○○』。」
ドドドドドガガン‼︎
「えっ、今何て…⁉︎」
佳奈が一瞬反応する。っていうか羊も能力持ちなのかよ!
直後に音は消え、
「もう大丈夫でしょう、皆様、お待たせいたしました。」
そう言う羊に従い出てみると、襲撃を仕掛けてきたであろう連中が全員伸びていた。こいつ、言うまでもなく強い…!
佳奈も撫子もさらに警戒したみたいだ。
「おやおや、主様、お三方を尚更に警戒させてしまったようですが?」
「お前が『行く』と言ったんだろう、自己責任だ。」
「全く、私の主は冷酷ですねぇ。普段はあんなにもだらしないのに。」
「は?僕がいつだらしないって?」
「いつもでしょう。普段から業務の最中に居眠りしたり、『息抜き』と称して途中で抜け出したり。随分とやんちゃですよね、主様?」
「うるさい!そもそもお前に任せたはずの仕事まで僕がやる羽目になるからだろうが!」
「私は主様の分の仕事が波のように覆いかぶさってくるからです!」
と、この先も延々と言い争いが続くわけだが。その間に俺たち3人で顔を見合わせて呆れていた。まあ悪い奴らではなさそうだな、と。
「ああ、かなり申し遅れてしまいましたが、三条家で執事兼主である三条優様の護衛役を務めている、羊と申します。以後、お見知り置きを。」
と言ってきた。俺たちは顔を見合わせて、
「………ひょっとしなくてもお金持ち‼︎⁇」
とハモった。
「で?貴様らも自己紹介を羊にしてやれ。説明や質問はその後で行う。」
優がそう言ったから、
「俺は桃月夏葵だ。よろしくな、羊。」
「はい、よろしくお願いします、夏葵様。」
「私は夕月撫子です。よろしくお願いしますね。」
「はい、撫子様。」
「私は風切佳奈、多少は疑わせてもらうわよ。」
まただ。羊の瞳に暗い光が一瞬見えた気がする。
でもまたすぐにその光は消えて
「大丈夫ですよ。むしろそのくらいして頂かないと危機管理能力を疑わせていただく程です。」
輝かんばかりの笑顔で毒を吐くあたりは佳奈と似てんな……。
俺が呆れてると撫子は早速、
「ねえ、優君の一族ってどの業界で売れてるの?」
なんて言い出して撫子と優が盛り上がる中、佳奈は羊を問い詰めてたみたいだったけど盛大にあしらわれてたな。
「あ、そういえば。」
「佳奈、どうかしたのか?」
「優は能力持ってるの?」
「!!......それは、その、わ、笑うなよ。僕の能力は『生命の環』 といって、様々な生き物に姿を変えられる能力だ。」
そんなにすごい能力があっただなんて知らなかったな。
「笑われなかったのは初めてだ。」
と嬉しそうに優は呟いた。
そして、次の日、佳奈は目の下に隈を作っていた。