8話 アイトさん、ホイル焼きにしましょう!
突如僕らの前に姿を現した巨大魚は、ちょっとした小島くらいの大きさがある。真正面からギョロリとした目で睨んでいる。
「お前たちか、我が頭上で騒ぎ立てていたのは!」
巨大魚が水底から響くような声で喋った。どうやら怒っているらしい。
まぁ、上で爆弾を何発も爆発させられたのだから怒る気持ちもわかる。
「ここが我が支配下だと知っての愚かな行いか?」
あぁ、この湖の異様さはこの巨大魚が原因だったのか。
「お前たち、罰として――」
「アイトさん、ちょっとこの紐を引っ張ってみて下さい」
ナナさんは巨大魚の言葉を無視して天井からぶら下がる紐を示した。
あれ、こんな紐さっきまであったっけ?と思いつつも、僕は紐を引っ張った。すると、白鳥の嘴がガコンと開く。
「さぁ、もう一度引っ張って下さい」
僕は言われた通り引っ張った。すると白鳥の口から勢い良く炎が吐き出されたではないか!
「ぬおおおおおおっ!?」
炎に包まれた巨大魚は驚きの声をあげた。水中に一度潜り込み、再び浮上してきた。
「な、ナナさん、この機能は?」
「オプションで火炎放射がついているんです。けど、巨体すぎてあまり効果はありませんでしたね」
いや、白鳥が火を吹くという発想が謎なんだけど、まぁ今はそんなことを言っている場合ではない。
「おのれぇ! 我が百年王と知っての無礼か!?」
湖が一気に荒れ出した。高い波が痩せては引いていく。僕はスワンボートから振り落とされないよう必死にしがみついた。
「はぁ? たった百年?」
ナナさん、明らかにバカにしたような口調だ。しかし、百年王を名乗る巨大魚はそれに気付かずさらにまくし立てる。
「そうだ。我は百年間ずっとこの広大な湖を支配してきたのだ。故に百年王。お前たち如きが想像もつかんほどの力を持っておる!」
百年王はその大きな体でスワンボートの周囲を泳ぎ始めた。
右に左にとボートは揺れる。僕は立っていることができなかった。
「もう謝っても遅い。お前たちを丸呑みにしてくれる! 我が餌となりて罪を償えい!!」
大きく口を開けた百年王が僕らに突進してきた。
「わらわたちを丸呑みですって? そんなに腹が空いているのなら破裂するくらい喰わせてやるわよ!!」
ナナさんは残っていたダイナマイト全てに点火し、百年王の開いた口の中に思い切り投げ込んだ。
ダイナマイトを全て飲み込んだ百年王。
「ぬうぅ! 何を飲ませ――」
次の瞬間、王は内側から破裂した。
周辺に肉片が飛び散る。
ナナさんはその肉片を喜々として掬いあげる。
「まぁ、アイトさん特大の魚肉が手に入りましたよっ! これで夕食には困りませんね!」
えっ、百年王の残骸食べるの?
そう疑問に感じたが、ナナさんがあまりにも嬉しそうなので僕は黙っていた。
不意に肉片に混じって何か赤いモノが僕らの側に落ちた。
拾い上げてみるとそれは赤い石。あの賢者の石の紛い物だった。
「どうやらその石の力であの魚は大きくなったみたいですね」
「あの百年王は普通の魚だったの?」
「でしょうね。だって弱すぎますもん」
賢者の石モドキは僕が持っていても仕方がないのでナナさんに渡し、巨大魚の肉を回収した。
湖岸に辿り着いた頃には既に日は沈んでいた。僕らは一旦一休みした後夕食の準備に取り掛かった。
キャンピングカーにはバーベキューセットなるものが付属されていた。
火おこしは僕が担当し、ナナさんが食材の下準備をしてくれた。
丁度よい感じに火が燃えだしたところでナナさんが食材と銀色の紙のようなモノを持ってやって来た。
「ナナさんそれは?」
「これはアルミホイルです。アイトさん、この魚肉はホイル焼きにしましょう!」
見たことない道具と聞いたことがない料理に興味を覚えた。もちろん賛成した。
というわけで僕とナナさんによるホイル焼き調理が始まった。
「まずはホイルを箱型にしましょう」
お手本にナナさんがしてみせてくれる。僕もその通りにアルミホイルの形を整えた。
「次にお好みの野菜を載せて下さいな」
ナナさんが深皿に用意してくれた野菜を載せていく。
「では切り身を載せましょう。もう塩は振りかけているので載せるだけでいいですよ」
僕は百年王の切り身を手に持った。
ナナさんがちゃんと綺麗に形を整えてくれている。
「では、バターを載せて。アルミを閉じましょう」
「ば、バター」
良くわからないが取りあえずナナさんがしている通り載せておく。
「このホイル焼きは強火だとダメなので。網の外側らへんに置いておきましょう」
僕が準備した網の上にホイルを載せる。これでしばらくすれば出来上がりらしい。
「残りの肉は網の上で豪快に焼いて適当に味付けして食べましょう」
焼いた魚肉はポン酢なるものに浸して食べた。少し酸っぱいけど美味しかった。
しばらくするとホイル焼きが完成した。
閉じたアルミを開くと美味しそうな香りが一気に立ち昇ってきた。野菜と魚肉とバターの旨味が閉じたホイルの中で混ざっているのだろう。
百年王の肉は正直微妙な気がしていたのだけど、いざ食べてみると結構美味しかった。
ナナさんも満足げだ。
僕は湖に目を向けた。再び静かになった湖面一杯に星が映っている。
「ナナさん、湖に星空が映って綺麗だよ」
「わぁ、素敵! やっぱりこのクエストを受けて良かったですねアイトさん」
「そうだね」
やりたいと思ったことはほぼできた……釣りだけは微妙だったけど。
僕らは食事を終えた後、風呂に入りさっさと眠った。さすがに今回はすぐ隣にナナさんがいても眠ることができた。
そして翌日。
爽やかな朝の空気を吸う為に外に出てみると、昨日までの湖とまるで違った景観に変わっていた。
岩だらけだった湖の周辺に大きな街が出来上がっていたのだ。