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59話 魔剣マウア・ジル・アーデイン

 王都に向かう中、僕はミミのデーモン・ディメンションで黒猫と交わした会話を思い返した。


 ◆


「アイト、ちょっといいか?」


 黒猫は僕と2人だけで話したがっている。

 そう思った僕は肩に乗っているミニナナさんにその事を伝えると、彼女は素直に従ってくれた。


 シシーたちのところに飛んでいくナナさんを見やりながら僕は黒猫の側に座り込んだ。


「お前は本当にナナのことが好きなんだな」


 黒猫は茶化すわけではなく、真面目にそう言った。


「うん、好きだよ。僕にとって、とても大切な人だ」

「そうか……」


 黒猫は少し躊躇うような素振りを見せている。


「それで、話って?」

「あ、あぁ。賢者の石のことだ。アレをお前に使ってもらうわけだが。1つ言っておかなきゃならないことがある」


 僕はこの時、猫が何を言おうとしているのかなんとなく察していた。


「賢者の石はきっとお前の肉体をーー」


 たとえ黒猫が何と言おうとも、僕はやめるつもりはなかった。それでナナさんを助け出すことができるのであれば……


 ◆


「これは酷いな」


 王都の上空にたどり着いた僕らは、その惨状に唖然としてしまう。

 下の街ではところどころで煙が上がり、異形の姿に変貌した者たちが他の人間を襲っている。


「急いでイースの元に向かおう!」


 僕らは王城の方へと向かおうとした。その時ーー


「うがっ!?」


 天使の一人の胸から黄金の剣が突き出ていた。


「なっ!?」


 見れば、半透明の人間らしき者が刺された天使の後ろにいた。


「意外だな。とっくに逃げ出したのかと思ったよ」


 王城の尖塔に魔神王イースが立っていた。

 真紅の眼は面白そうに僕らに向けられている。


「イースのデーモン・ディメンションだッ!」


 イルヴァーナは魔剣を構え、周囲を見やる。僕も同じく周囲に眼を凝らすと、僕らを取り囲むように4人の霊体がユラユラと浮遊している。歴代の王子たちの魂。みんなその手には黄金の剣が握られている。


 前は味方として彼らを見ていたけど、今は恐ろしい敵だった。


 僕に斬りかかってきた王子の剣を魔剣で受け止め、弾き返し、斬撃を飛ばす。しかし、王子たちの霊体は霧散してもすぐに戻ってしまう。天使たちの攻撃に至ってはまるで効果がないようだ。


「なるほど。彼女たちから力を貸し与えられたわけだ」


 イースはジッと僕らを観察しながら言う。


「羽虫どもの駆除を優先するつもりだったが、先にキミらからにしようか」


 イースが手を振ると、同時に霊体たちが襲いかかって来る。


「イルヴァーナさん!」


 僕は他の天使兵を庇うように位置どり、魔力を込めたパワー・ウィングの羽を飛ばす。

 霊体は一度霧散するも、すぐに寄り集まって襲いかかってくる。

 このままではキリがない。


「アイトくん、この魔剣を使う! ヤツらを少し抑えてくれ!」


 イルヴァーナは銀色の魔剣を改めて構え直す。僕は光の羽を飛ばしつつ、魔剣で牽制する。 

 彼女の構える剣が白銀の光を放ち始める。


「今だ!」


 僕は霊体から距離を取り、代わりにイルヴァーナが距離を詰めて真横に斬る。

 魔剣の軌跡が白銀の線となって残り続けている。霊体はブルブルと震え出したかと思えば、その白銀の軌跡に吸い込まれていった。


 コレがイルヴァーナがシシーから譲り受けたとっておきの一振り。


 魔剣マウア・ジル・アーデイン


 ミミのデーモン・ディメンションでシシーがこの魔剣について説明してくれていた。


「このアーデインは空間を切り裂き、魂さえも亜空間に飛ばしてしまいます」


 とシシーは得意げに言っていた。


「ただし、強力な分消費魔力も激しいですわ。ここぞと言う時に使いなさいな」


 そのここぞという時が今なのだ。

 イルヴァーナは王子の霊体たちを次々と空間ごと斬り飛ばしていった。

 後には白銀の残光のみで、霊体の姿はどこにもない。


「ふむ、シシーのデーモン・ディメンションは人間には扱えないと思っていたが。そんな厄介な魔剣を授けていたとはね」


 イースはそう言うが、自分の攻撃手段である霊体たちを消されてもまるで意に介していない。

 僕はイルヴァーナに目配せした。彼女もコクリと頷いている。

 魔剣アーデインにはさらなる特性もあるのだが、それを使うタイミングは見計らわなければならない。


「君たちは人間にしては強い。ちょうどいい。この肉体がどれ程動けるのか試したかったんだ」


 イースはゆっくり構えたかと思うと、一気に飛び出した。その反動で尖塔が崩れ去っていく。


「ーーッ!?」


 イルヴァーナは魔剣を振るおうとしたが、その前にイースに殴り飛ばされる。彼女の身体は下の街の建物に激突していった。


「イルヴァーナさんッ!!」

「君は優しいね」


 気づいた時にはイースの黄金の足が僕の顔面に迫っていた。

 僕はパワー・ウィングを前面で閉じて防御する。しかし、蹴りの衝撃は大きく、僕の身体は下の石畳に叩きつけられた。


「アイトさん、身体に魔力を纏わせるんです! そうすればダメージを抑えられます!」


 石畳を転げる僕に懐のミニナナさんがアドバイスしてくれた。

 僕は彼女の言う通り魔力で全身を覆い、パワー・ウィングを羽ばたかせて上昇しようとしたが、上手く行かない。先程の蹴りで光の翼に深刻なダメージがあったらしい。


 僕は街の通りを低空飛行で進んだ。街の人々があちこちにいる。彼らはみなパニック状態のようだ。


 背後から悲鳴が聞こえてきた。

 振り返ると、イースが走って追いかけて来ている。その異常な速さによって僕らの距離は縮まってくる。

 そして運が悪い街人は、走る魔神王に巻き込まれ、バラバラに飛び散っていく。


 ダメだ!

 ここじゃ他の人達を巻き込んでしまう。


 僕は何とか屋根の上まで上昇した。

 イースも飛び上がり屋根の上に着地する。

 僕はそこを見逃さず、魔剣をしまい、ナナゾンからショットガンを取り出した。

 魔力を込め銃弾を放つ。しかし、イースは煩わしく手で払いのけるだけだった。


 イースの手が僕のこめかみ辺りを掴み上げる。

 ギリギリと締め付けられる感覚に僕は声を上げそうになる。


「いやぁ、実に楽しいね。あぁ、安心してくれ。魔術は使わないよ。今は君たちを殴りたい気分なんだ」


 イースはもう片方の手でパワー・ウィングを掴むと、無理やりに引き裂いた。


「この翼は嫌いだよ。あの羽虫たちには随分と長い間不快な思いをさせられたからね」


 彼は拳を振り上げた。


「おや……?」


 イースは上を見上げた。

 僕も彼の指の隙間から上を覗き見る。


 王都の遥か上空に、数多の天使の軍勢が展開していた。

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