52話 アイトさん、突撃させましょう
空を覆っている赤い閃光が収まる。
「やった……これで千年王を倒せるんですよね!?」
「あぁ、その通りさ」
と、その時シャトルに凄まじい衝撃が走った。
後ろを見ると後部が剥き出しになっているではないか!
「喜んでばかりもいられないですよ!」
風が吹き荒れる中、ナナさんも背後を振り返りながら言う。
上空から次々と閃光が迫って来る。
どうやら天使の追手たちが迫っているらしい。
「早く千年王のところに戻ろう。ヤツは始末しなければ!」
とイースは言う。
「だけど、あの天使の追手たちはどうするんです!?」
今も迫り来る天使の軍勢に目を向ける。いくつもの光の翼を備えたシャトル群が僕らを追って来ている。
あれが地上の人達と交戦することになったらタダでは済まないだろう。
「放っておけばいいさ。今はとにかく千年王を速やかに倒さないと」
「しかし……」
「千年王さえ倒してしまえば、この国の魔術は完全なモノとなる。そうすれば天使たちとも対等に戦えるのさ」
僕の肩をナナさんが抑える。
「気に食わないですが、ここはヤツの言う通りにした方が良さそうです」
ナナさんが後ろを気にしながら言う。
僕は頷いた。
不安ではあるが、今はイースの言葉を信じるしかない。
天使たちの攻撃に晒されながらもナナさんのシャトルは降下を続けた。
そしてーー
「見えましたよ!」
ナナさんがそう言ったのと同時にシャトルに先程よりも強い衝撃が走る。
「あちゃー、今の攻撃は致命傷だったみたいですね」
ガタガタと不穏に揺れる機体。
「大丈夫!?」
「んー、たぶん墜落しますね。って、それよりアレを」
ナナさんが示す先に千年王がいた。白い体毛のところどころが血で真っ赤に染まっている。
その千年王と対峙しているのが、オルトロス形態になっているニニアリア、2本の魔剣を巧みに振るうシシー、そして巨大なドラゴンの背に跨るミミだ。
他の人たちは戦いに参加していない。いや、できないんだ。
怪我をして動けないのもあるが、そもそも戦いの次元が違うのだ。それくらい千年王は強くなっている。
「アイトさん、このシャトルはもうダメです。なのでコレを千年王の野郎に突撃させます!」
僕は無言で頷いた。イースも賛成らしい。
シャトルは千年王に向かって落ちていく。
そして目前というところでナナさんが後ろから抱きついて来た。
「行きますよ!」
ナナさんと共に飛び上がりシャトルから抜け出す。
千年王と戦っていた魔神たちもコチラの意図を察して飛びのける。
そしてシシーたちに気を取られていた千年王はシャトルの存在に気がつくのが遅れた。
次の瞬間シャトルと千年王は激突し、爆発した。
千年王のうめき声が聞こえる。
「最後の仕上げです!」
ナナさんはロケットランチャーを2丁を千年王に向けて発射する。
他の魔神たちもそれぞれ同時に攻撃を仕掛ける。
身動きが取れなかった千年王はそれらの攻撃をモロに食らう。
断末魔の咆哮がオーロラ平原に響き渡る。
「やった! 倒しーー」
瞬間、金色の光が辺り一面を覆い尽くす。その金色の光は上空まで伸び上がって行く。
手を翳し上空を見上げると、僕らを追って来ていた天使のシャトルが次々と破壊されていく。
「やった……」
背後から興奮した声が聞こえた。
振り返ると、イースが金色の光を見つめている。
「ついに魔神王が復活する……」




