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5話 アイトさん、これは魔剣ダーインスレイヴですよー

「ナナさん、あの村ゴブリンたちに襲われています!」

「ですねぇ。面倒なんで通り過ぎましょう」


 えぇ……


「いや、助けないと」

「むぅ、アイトさんはお人好しですね」


 ナナさんはnanazon注文端末を取り出した。


「えっと、ゴブリンは……村や旅人から金品を奪う習性あり……」


 彼女は何やら呟きながら操作している。


「金品……アイトさん、行きましょう!」


 ナナさんはいきなり立ち上がった。


「う、うん。ナナさん、今のは?」

「この端末にはナナペディアというあらゆる情報を網羅した検索システムも入っているんです。さぁ、そんなことよりゴブリンを!」


 先程までやる気が無かったはずのナナさんの変化に驚いたが、今はそれどころではない。キャンピングカーが止まると僕は片手剣を持って外へと飛び出した。


 いまにも村人に斬りかかろうとしているゴブリンに体当たりする。


「早く逃げて」

「あ、ありがとう」


 村の中央の方から武器を持った村人たちがやってきた。


「加勢します」


 そう彼らに告げる。


「ありがてぇ……って、嬢ちゃん危ねぇぞ!」


 村人が僕の背後にいるナナさんに言った。

 彼女はそんな村人の警告を無視して端末を操作している。

 そしてポンっと弾ける音がしたあと彼女の手には黒い剣が握られていた。


「ナナさんその剣は?」


 僕がそう尋ねると彼女は剣を振りかざした。


「これはダーインスレイヴですよー」


 そう答えて彼女は迫り来る一匹に黒剣を突き刺した。

すると、刺されたゴブリンの体がどんどん干からびていって最後にはミイラのようになってしまった。


 僕と村人たちの驚きの声が重なる。そしてゴブリンたちも戦うことを忘れて唖然としていた。



「きゃは!これは生き血を一滴残らず吸い取る魔剣なんですよ。今度アイトさんにも使わせてあげますね!……さてと」


 ナナさんは残りのゴブリンたちに向き直り魔剣ダーインスレイヴを向ける。


「おい、ジャンプしろ」


 ナナさん、また声のトーンが低くなっている。

 ゴブリンたちは困惑したように顔を見合わせている。


「ジャンプ、しろ」


 ダーインスレイヴを振りかざすナナさん。

 そんな彼女に怯えたゴブリンたちは次々とジャンプしだした。すると、ジャラジャラと硬いモノが擦れ合う音がする。


「ほう、結構持っているわね」


 ナナさんは満足げに言った。


「ほら、全部だしな」


 ゴブリンたちは懐から次々と金貨や宝石、装飾品などを地面に落とす。


「わぁ、アイトさんいきなり稼げましたねっ!」


 ナナさん、ニッコリ笑顔を向けてくる。

 あぁ、やっぱり彼女の狙いはこの金品だったわけか。


「じゃあ、もう用はないから……えいっ!」

「ごぶうううぅぅ!」


 ゴブリンが一体干からびた。ナナさんが急に突き刺したのだ。


「ごぶ、ごぶぅ!」


 ゴブリンが必死に何か訴えている。

 たぶん、話が違うとか何とか言っているのだろう。


「はぁ?誰も助けてやるとは言ってないわ!」


 確かに言ってない。


「さっさと干からびちまいなっ!」

「ごぶううっ!!」


 ゴブリンたちはナナさんによって全てミイラ化されてしまった。その乾いた屍の中央でナナさんは伸びをしている。


「はぁー、スッキリしましたぁ!お金も稼げたし最高ですねアイトさん」

「う、うん」


 正直僕やその場にいた村人たちはあまりの所業にゴブリンたちに同情さえ感じていた。


「そこのお若い方々!」


 背後から声を掛けられた。声の主は白い顎髭の老人で杖をついている。どうやら僕とナナさんに用があるらしい。


「キサマは何だ?」


 ナナさん、せめて「誰だ?」って聞いてあげて……


「その方は村長様だ……です」


 村人が教えてくれた。最後丁寧語に言い直したのはナナさんが怖いからだと思う。


「あなた方の助けがなければ我らが村は深刻な被害を受けるところでした。心より感謝致します」


 村長の言葉にナナさんはニッコリした。


「感謝の言葉なんていいわよ」


 へぇ、ナナさんからそんな言葉がでるなんて思わなかった。意外だ。


「いえ、感謝しないわけには参りません」

「うん、だから感謝の言葉はいいから……なんか寄越せ」


 え?


「え?」


 村長も首を傾げた。


「なんか、よ・こ・せ」


 ナナさん、笑顔だけど物凄いプレッシャーを発している。


「な、なんじゃお主、物を強請ろうというのか!?なんと厚かましい」


 村長はそれまでの穏やかさをかなぐり捨てて喚き立てる。


「お主ら冒険者は我らを助けるのが役目じゃろうが。弱者を労わる気持ちもないのか!?これだから最近の若いもんは」


 ナナさん、村長に詰め寄ると平手打ちを食らわせた。


「うごっ!」


 村長は勢いよく吹っ飛ばされた。


「意味不明なことばかり喚いて鬱陶しい。キサマもミイラになりたいか?」


 失神している村長を見下すナナさん。そんな彼女の元に1人の村人が走り寄ってきた。


「あの、お嬢さんうちで価値あるモノはコレくらいです」


 そう言う彼の手の中には赤い色の石がある。


「なんでも、数十年前に偉い魔術師様から頂いたそうで……」


 いいんだろうか、そんな価値あるモノを貰って。


「ふーん。まぁ、いいでしょう」


 ナナさんは僕の方を振り返る。


「さぁアイトさん、出発しましょう」

「う、うん」


 僕たちは村を後にした。


 これはあくまで想像だけれど。

 ゴブリンよりも魔剣を持った銀髪の娘に注意しろという教訓がこの村で生まれたと思うんだ。


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