46話 アイトさん、準備はいいですかー?
「準備はいいですかー?」
僕とナナさんはシャトル前面にある座席に座っていた。
「私はどこに座ればいいんだ?」
イースは困惑して周りを見回している。
「あぁ、あんたの席ないから」
「まったくーー」
「発射!!」
ナナさんは赤いボタンを押した。
衝撃と共に爆発音が轟く。
シャトルがぐんぐんと空を駆け上がるのがわかる。
「アイトさん、このシャトルはnanazon特別性だから、わらわの魔術で体にかかる負荷が低減されているんですよ。それに、遮蔽の魔術も施してあるので上の連中には簡単に見つからないでしょう」
「そうなんだ」
僕は後ろを振り返ってみた。
イースはしゃがみ込み、その場で踏ん張っている。
「ねぇ、ナナさん。このシャトルなら本当にあの光の網、レーザー・ネットを突破できるの?」
「はい。わらわのデーモン・ディメンションで呼び出せるモノは天使製ですから。あのレーザー・ネットは特有の識別信号を発しているモノを通す仕掛けなっています」
なるほど。
天使製の乗り物であれば、その識別信号を発しているからレーザー・ネットを通過できるのか。
「お、言っている間に近づいて来ましたね」
とナナさんが言う。
しかし、窓から見ても僕にはわからない。
「後5秒くらいです……4、3、2、1」
僕は身構えた。
今にもあのレーザーで体をズタズタにされないかと怖い想像をしてしまう。
「大丈夫ですよ。無事突破できました!」
ナナさんの言葉に僕は安堵した。
「この先は私も初めてだよ」
イースが窓の外に目をやりながら言う。
窓の外はいつの間か青空から暗い色に変わっていた。
話だけは聞いたことがある。空の上には星々が浮かぶ宇宙という領域があると。
今僕らはその宇宙に近い所までやって来たのだ。そしてそこに超巨大な丸い構造体が存在していた。
「アレが天使たち住んでいる場所?」
僕の問いかけにナナさんが頷く。
「そうですよ。クッソ忌々しい場所です」
ナナさんは構造体を睨みつけている。
「あれだけ大きいのに、下からはまったく見えないんだね」
「レーザー・ネットには視覚効果もあるんですよ。だから地上からは見えないんですね」
イースはナナさんに向き直る。
「それで、どこから侵入する? 君は一度ここから逃げ出すことができたんだろう?」
「と、言われても。手当り次第にぶっ壊して逃げただけだ」
「……そうか」
イースはやれやれと頭を振る。
「何か良い方法を見つけないとね」
「あそこはどうでしょう?」
僕は斜め上の方に見える大きな空洞を示した。
「シャトルのドックですね。あそこで天使たちは荷の積み下ろしを行っているのでしょう」
「荷の積み下ろしか。そこから入り込めそうだね」
ナナさんは球体の側にシャトルを止めた。
「このままの服装だと目立ちますからね。天使たちの衣服に着替えましょう」
ナナさんはnanazonからいくつかの服を取り寄せた。
「まぁ、流行りは変わっているでしょうけど、今着ている服よりはマシでしょう」
ナナさんはシャトルの奥に着替えに行った。
僕とイースもその場で着替える。
「アイトくん、君はホントにナナから気に入られているようだね」
とイースが着替えながら言う。
「そうなんですかね」
「そうとも。そのお陰で彼女は今回とても協力的だ。感謝しているよ、君には」
その言葉が果たして本音なのかどうか、彼の表情を見てもよくわからなかった。
「着替え終わりましたー?」
現れたナナさんはパンツスタイルで、長い髪をまとめて帽子を被っている。とても似合っている。
「動きやすさを重視しました。アイトさんのはどうですか?」
「うん、見たこともない服だけど着心地も良いし動きやすいよ」
今まで来ていた服よりも柔らかいのに、丈夫そうだ。
この衣服だけを見ても、天使たちの技術は僕の想像を超えるモノだった。




