44話 アイトさん、まだかなー?
目を覆いたくなるような光の洪水と吹き飛ばされそうになる衝撃波が収まった後、クレーター内に白い巨人が立っていた。
千年王の正体は、白い体毛に覆われた巨大な猿だった。
真っ赤な眼に光が宿り、白猿は咆哮した。
「放てえぇぇッ!!」
背後から魔導技士団長の指示が飛ぶ。
それを合図に中衛の魔術師たちは一斉に遠距離魔術を放つ。
僕ら前衛の上空を飛び越え、幾万もの魔術攻撃が千年王に浴びせられる。
戦いが始まった。
魔術師たちは休むことなく魔術を放ち続ける。千年王に対して近接戦闘は無謀。だから、大量の魔術による攻撃で倒し切る作戦だった。
後衛の妖精たちから中衛の魔術師たちに魔力が流し込まれている。だから、彼らは魔力切れを起こすことなく攻撃を続けられた。
さらに上空のドラゴンたちも攻撃を開始する。
ドラゴンの背には亜人のエルフが騎乗している。彼らは弓矢を得意としている。その弓矢には魔術印が彫り込まれており、後衛のエンチャンターから遠隔で魔力が流し込まれている。
その一矢一矢が紫色の閃光となって千年王に降り注がれる。
トロールなどの巨大なモンスターたちは千年王に向かって投石していた。その投石にも魔力が流し込まれ、威力が倍増されていた。
千年王はその場から動くことができず攻撃を受け続けている。
このまま押し切れれば良いのだが、そうはいかないことをイースから教えられていた。
千年王は攻撃を受け続けながらも自らの体を掻きむしり、大量の体毛を飛び散らせる。
その体毛は膨張し形を変え、人間サイズの千年王の姿になる。
これが千年王の分身術。
何千という分身体が襲いかかってくる。
ここからは僕ら前衛の出番だ。
あの分身体たちから中衛の魔術師たちを守ることが前衛の務めだ。
「構えろぉ!!」
将軍の指示が飛ぶ。
僕とイルヴァーナはそれぞれ魔剣を抜き出した。
突進してくる分身体たち。
それを上空にいた鳥人たちが上から槍で刺し貫く。
不意を突かれた分身体たちに向かって冒険者や兵士たちが斬りかかっていく。
僕とイルヴァーナも魔剣を振るって分身体たちを倒して行く。
「へぇ、やるねぇ!」
横から声を掛けられた。
見ると、巧みな槍捌きで次々と分身体を倒して行く長身の男がいた。
「あんたらみたいな凄腕がいたなんて知らなかったぜ」
「それはどうも」
イルヴァーナはとくに気に掛ける様子はないが、僕はその男を知っていた。
彼は一流の冒険者で最強の槍使いと呼ばれている人物だった。
そんな彼と肩を並べて戦っていることに、僕は感慨深いモノを感じた。
「イルヴァーナさん!」
「あぁ!」
分身体が途切れ、正面に千年王本体の姿が見える。
僕とイルヴァーナは魔剣に魔力を込めて、斬撃を放った。
千年王はビクンと体を震わせた後、糸が切れたようにその場に倒れ伏した。
その体からモクモクと蒸気が立ち昇る。
千年王を倒したのだ。
「とりあえず1回目、ですね」
「あぁ、アイトくん。そっちは任せたよ」
「はい。イルヴァーナさんも気をつけて」
「君たちが戻ってくるまで持ち堪えてみせるさ」
僕は風の魔術で浮かび上がり、戦線から離脱した。
王家の天幕にいるイースの元へと向かう。
千年王との戦いはまだ終わっていない。いや、むしろ本当の戦いはここから始まる。




