43話 アイトさん、亜人の姫とかどうでもいいですよね?
各種族の代表や将軍たちが王家の天幕に集まって最後の打ち合わせが行われた。
打ち合わせが終わったところで僕は亜人の姫クイーナに声を掛けた。
「驚いたでしょ、アイト」
「うん、まさか君がお姫様だったなんて」
「あの時はごめんなさいね。そして改めて礼を言うわ」
「いいよ、そんな……あ、そうだ」
僕はボックスディメンションからウーゼンで拾ったペンダントを取り出した。
「これってもしかして君の?」
ペンダントを見たクイーナは驚いている様子だ。
「そうよ。あなたが拾ってくれていたのね。ありがとう」
クイーナは大事そうにペンダントを受け取った。
「ねぇ、そのペンダントに彫り込まれている名前、アルゴン・クリプトンって誰か知っている?」
するとクイーナは頷いた。
「えぇ、言い伝えではそのアルゴン・クリプトンが大いなる災いを退けたらしいの」
「大いなる災い? 千年王のことかな?」
「それがわからんのだ」
話を聞きつけたらしい亜人王が僕らの側に歩み寄って来た。
「そもそもアルゴン・クリプトン自身が謎が多い男だ。人の姿をしていたが、腕を6本持っていたとも言われている」
「てことは、亜人種かもしれないと?」
「かもしれぬな」
亜人王はシゲシゲと僕を眺めている。
「ふうむ。ところでアイトよ。お前、結婚はしているのか?」
「え? いいえ。していませんけど……」
突然、何を言いだすのだろう?
「なら、このクイーナはどうだ? お前のような男にならワシも任せられる!」
「えぇ!?」
「ちょっと、父上!!」
狼狽える僕と、頬を紅く染めるクイーナ。
そして、
「アイトさん……」
いつの間にか僕の背後に立っているナナさん。
無表情なのがとても怖い。
「とりあえずコイツら殺しますね」
「ナナさん、ダメ!」
そんなナナさんに呆れた視線を送るシシー。
「まったく、すぐに殺す殺すって。品がない女ねぇ」
やれやれと頭を振るシシーを亜人王がジッと見つめる。
「もしや、あなたが吸血鬼から魔神になったというお方ですかな?」
「えぇ、そうですわよ」
亜人王はパッと顔を輝かせる。
「やはりそうでしたか! 我が一族の中であなたは特に武勇に優れていたと聞いておりますぞ!」
「ま、まあね!」
どうやら亜人王とシシーは親戚関係にあるらしい。
シシーも褒められて満更でもなさそうだ。
「いやぁ、会えて光栄ですな、大婆様!」
緩んでいたシシーの表情が硬直する。
「大婆……」
シシーはクルリとナナさんに向き直る。
「ナナ、訂正するわ。やっぱりコイツら殺しましょう」
殺意に燃える二人の魔神を、僕とイルヴァーナは何とか抑えた。
◆
翌朝。
オーロラ平原中心部のクレーターから光と衝撃波が心臓の鼓動ように周期的に発生している。
そのクレーターを弧を描いて囲むように同盟軍は展開していた。
後衛にはヒーラーやエンチャンター専門の魔術師たちが待機し、その上空に妖精たちが浮かんでいる。
そして中衛にはこの軍の主力となる魔術師たちが整列している。
そして前衛には、魔術師たちを守るように兵士や冒険者たち、それに亜人やモンスターたちも配置されていた。
上空にはドラゴンや鳥人たちが飛び交っている。
ナナさんとイース以外の魔神は少し離れたところに浮かんでいる。
イースはあの王家の天幕から戦いの指示を出すことになっている。
そしてナナさんはこの戦いには参加しない。ある重要な役目を任されていた。
僕とイルヴァーナは、前衛の最前線にいた。ここから一番クレーターがよく見える。
光がより強まり、重苦しい空気に包まれる。
千年王が今、目覚めようとしていた。




