33話 アイトさん、2つの人格を持っているんですよ
「君たちの勝手な行動には困ったモノだったが、これはこれで良かったとも思っている」
イースはナナさんを指差す。
「最も条件が厳しい君がこんなにも早く解放された。ゴゴとロロの解放は後回しだ。速やかに残りの百年王を始末しようと思う」
シシーが軽く手を挙げる。
「ちょっと待ってください。ゴゴとロロって言いました? じゃあ、ニニは?」
「ニニはつい先日解放されたよ。入っておいで」
部屋に短い赤髪の女の子が入って来た。その頭頂部には犬の耳のようなモノが生えている。
「うぅ、知らない人たちがいますぅ」
彼女はオドオドした様子で僕とイルヴァーナを見てくる。
「紹介しよう。彼女が第二の魔神ニニアリアだ」
イースが僕らにニニのことを紹介してくれた。
その間、ニニはブルブルと震えている。
大丈夫なのだろうか? 何だか心配になってくるな。
「ニニ、彼らがナナとシシーの開放者だよ」
イースが今度は僕らをニニに紹介する。
ニニは上目遣いで僕らを見やる。
「うぅ、初めまして……ニニですぅ」
彼女は消え入りそうな声で挨拶する。震えはさらに激しくなっている。
「うぅ……うぅ……」
「あの、ニニさん大丈夫?」
僕はなるべく優しく声をかけた。
「うぅ……う、うひゃひゃひゃひゃ!! 活きのいい男だぁ!!」
いきなりニニアリアが奇声を発しながら僕に向かって飛びかかって来た。
咄嗟に身構える僕の前にナナさんが進み出て、ニニを蹴り飛ばした。
「何しやがんだよ、ナナァ!!」
床に着地したニニアリアがナナさんを睨みつける。
「それはこっちの台詞だクソ犬!」
負けじとナナさんも睨みつけている。
僕とイルヴァーナは突然のことで呆気に取られ、シシーは我関せず。イースはやれやれと首を振っている。
そんな中、
「お、アリアしゃんだー」
と間の抜けた声が室内に響く。
今まで寝ていたミミが目を覚ましたらしい。
「元気そうだねー。ニニしゃんはー?」
ミミが問いかけると、ニニアリアはまた震え始めた。
「あ、ミミさん、お久しぶりですぅ」
彼女はまたおとなしい調子に戻っている。
どういうことだ?
「ナナさん、彼女は……?」
「アイツは2つの人格を持っているんですよ」
再びオドオドしだしたニニを示してナナさんは言った。
「おとなしい方がニニでー、元気な方がアリアなんだよー」
ミミが補足してくれる。
つまり、今の状態がニニということか。
「突然変貌しますからね。アイトさん、コイツには注意しといた方がいいです」
「その変貌っていう点ではあなたと同じじゃなあい?」
シシーがからかうように言う。
「何か言ったかゴスロリ女?」
「だからそれよそれ!」
「みんな、本題に戻ろうか?」
イースが咳払いして切り出した。
「脱線してしまったが、これから君たちには最後の百年王を仕留めてもらいたい」
「いちいちわらわたちがお前の言う通りにするとでも?」
イースは苦笑を浮かべる。
「百年王や千年王がいる限り君たちに自由はないよ。それより協力してくれたら君たちの自由と財産を保証しよう。約束する」
ナナさんが問いかけるように僕を見てくる。
答えは決まっている。




