29話 アイトさん、これは消防ホースですよ
広がる黒煙によって空が暗黒に包まれる。
その間にも噴火は続いており、赤々と燃える火山弾が周囲に落ちてくる。
「うわっ! はやく逃げないと!」
あの火山弾がぶつかったらただでは済まない。
今にも火山弾が近くに飛んできてってーーん?
おかしい。
火山弾の動きが不自然だ。
直角に曲がったり、弧を描いたりしている。
さらには着弾したあとも山の斜面を滑空している。
「どうやら面倒な連中が解放されたみたいですね」
ナナさんがやれやれと肩をすくめる。
そんな彼女に向かって火山弾が突撃してきた。
「うひゃひゃひゃ!! 全部燃やしてやるぅ!!」
火山弾だと思っていたモノが言葉を発した。
それには炎で縁取られた顔が存在していた。醜悪な笑みを浮かべている。
しかし、ナナさんは平然と魔剣を振るって火山弾モドキを切り払った。
「アイトさん、アレは火の妖精サラマンダーどもですよ。生物は何でも燃やしたがるバカ野郎たちです」
これも妖精!?
ウンディーネやノームと何か違う。
どちらかと言えばモンスターのようだ。
サラマンダーたちは僕らの周りを飛び跳ねている。
熱いし、息苦しい。
「アイトさん、ミミ、車に乗ってください。面倒なので一気に吹き飛ばします」
ナナさんはロケットランチャーを構えた。武器の全面に紫色の魔術印が浮かび上がっている。
僕はなぜか眠り込んでいるミミを抱え上げてキャンピングカーに乗り込んだ。
それを確認したナナさんは、飛んでくる火山弾群に向かってロケットランチャーを放った。
一瞬の間の後、紫色の閃光が走り、爆音が轟く。
衝撃が収まったところで、外に出てみると、空を覆っていた黒煙や雲が消え去り、晴れやかな青空が広がっていた。
サラマンダーたちは弱々しい動きで山の斜面に落ちていく。
「いやぁ、これでスッキリしましたね」
ナナさんは爽やかな笑みを浮かべて言う。
「サラマンダーたちは死んだの?」
「いえいえ、こんなことであのバカ野郎どもは死にませんよ」
ナナさんは一番近くに寝転がっているサラマンダーを蹴飛ばした。
「おい、生きているな?」
「うぅ、うるせぇクソ女! 丸焼きにしてやる!」
サラマンダーは悪態を吐いて僕らを睨みつけている。
ナナさんはさらに蹴飛ばした。
「どうやら、自分たちの立ち位置をしっかりと教え込む必要がありそうですね」
ナナさんはデーモン・ディメンションから細長い何かを取り出した。
「ナナさん、それは?」
「これは消防ホースですよ。やっぱり火には水攻めでしょう!」
ナナさんはニッコリと微笑むと、サラマンダーたちに消防ホースを向ける。その先端から大量の水が放出された。
「ぎゃああああああああ!!」
サラマンダーたちの悲鳴が山にこだまする。
どうやら、彼らは水が苦手らしい。
「にしても、この水はどこから来ているの?」
「カルネスト湖ですよ。だから、わらわは無料で使えるんです!」
僕はデーモン・ディメンションの裂け目を覗き込んだ。微かに悲鳴のようなモノが聞こえる。
「きゃああああ! 宮殿が崩れるぅ!」
「水がどんどん無くなっていくぞ!」
ウンディーネたちの慌てふためく声が聞こえた。
どうやら、攻められているのはサラマンダーだけではないらしい。




