28話 アイトさん、デーモン・ディメンションですよ
僕らに迫っていた雪崩はドラゴンの炎で焼き消されていた。
あとには黒焦げになった百年王の遺体だけが残っている。
ドラゴンは満足気に吠えると、再び現れた光の輪に消えて行った。ついでに犬もその中に消えて行く。
「ミミさんすごいね」
僕が声を掛けると、彼女は首を傾げる。
「うにゅは何者ー?」
「え?」
ミミは僕が誰なのかわからない様子だ。
「記憶をなくしているんですよ。ドラゴンを呼び出したから」
「どういうこと?」
「ミミは様々なモンスターや動植物を呼び出せるんです。だけど、その代価として自分の記憶を差し出さなければならないんです」
「自分の記憶を? それも魔術なの?」
ナナさんは頷いた。
「といっても、これはわらわたち魔神のみが使える力です。以前、ボックス・ディメンションのことは教えましたよね?」
「うん」
物を別の空間に収納したり、逆に取り出したりできる魔術のことだ。
「そのボックス・ディメンションをさらに発展させたモノ。わらわたち魔神のみが固有で使用できる魔術。デーモン・ディメンションと呼ばれています」
ミミがうんうんと頷いている。
ホントにわかっているのだろうか?
「物の出し入れができるところはボックスと同じですけど、このデーモン・ディメンションは当人が所有していないモノも呼び出せるんです」
ちなみにとナナさんは指を立てる。
「魔神それぞれで呼び出せる系統は決まっています。あのシシーはあらゆる魔剣を。ミミは先程も言ったようにモンスターや動植物を呼び出せます」
彼女を自分を示す。
「そしてわらわのデーモン・ディメンションはアイトさんもご存知nanazonです。この国には存在していない道具や兵器を出すことができるんです!」
限定的とはいえ、所有していないモノを呼び出せるなんて。
すごい魔術だ。
「この所有していないモノを呼び出す場合、それ相応の代価を払う必要があります。ミミの場合はそれが自分の記憶なんですね。そしてわらわの代価は……アイトさんならお察しでしょう?」
ここまで説明されたらわかる。
「ナナさんの代価はお金だね」
「その通り! さすがアイトさん!」
なるほど。
僕はてっきり普通の買い物をしているのかと思っていたけれど。
あの代金はデーモン・ディメンションを使う為のモノだったんだ。
「てことはデーモン・ディメンションは気軽に使えないね」
「まぁ、所有しているモノだったら代価は必要ありませんけどね。ほら、ウンディーネの湖のモノは無料だったでしょう?」
思い返してみると、確かにnanazon専用端末で見たカルネスト湖の物は無料だった。
ナナさんはウンディーネの女王だから、あの湖は彼女の所有物ってことになるのか。
「てことは、古代樹も所有者はナナさんになるから。あの場所にあるものも代価を支払うことなく取り出せるんだね?」
「もちろん!」
ナナさんがパチンと指を鳴らすと、その手に古代樹の木の実が載っている。
「ナナさん、すごい……」
「いやぁ、照れますねぇ!」
と、ミミがナナさんの服の袖を引っ張っている。
「ナナしゃん、ナナしゃん、この人だれー?」
僕のことを指差すミミ。
ナナさんが仕方なしに説明しようとした時、突然爆発音が轟いた。
上空が黒煙で覆われて行く。
ここが火山地帯であることを忘れていた。
今この瞬間、噴火が起きたらしい。




