２６話 アイトさん、心配しましたよー！
洞窟から出てきた亜人たちが鋭い爪を構えながら僕らの方に近づいてくる。
仲間の一人を抑えているとはいえ、これだけの人数から一斉に襲われると対処できない。
「もう、諦めなさい」
女吸血鬼が諭すように言う。
「くっ……！」
その時、突如として雪山が大きく揺れ動いた。
それは亜人たちにとっても予想外だったらしく、一同に動揺が走っている。
「あれをーー！！」
亜人の一人が山の上の方を指差した。
そちらに目を向けると、白い巨体がのそりと立ち上がっている。
長く特徴的な耳がピンと立っている。それは巨大な白ウサギだった。
「百年王！」
女吸血鬼が呟く。
「あれが？」
「魔神の気配を察して目覚めたんだわ」
ウサギの百年王はキョロキョロと周りを見回していたが、こちらに気づくと、いきなり雪の斜面を駆け出してきた。物凄い速さだ。
「中に戻りなさい！」
女吸血鬼が叫ぶ。
亜人たちが洞窟の中に向かって走る。
僕らも走った。
クロスボウを百年王の方に向けて矢を放つ。
緑色の魔力を纏った矢は真っ直ぐ飛んで行ったが、王は跳躍してそれを避けた。
巨大な割に俊敏だ。
そして凄い跳躍力だ。
一気に僕らの所に着地してきた。
衝撃で僕らは洞窟とは反対方向に吹っ飛ばされていた。
「魔神共はどこにおる？」
真っ赤な目で僕らを見下ろす百年王。
前足の爪がギラリと光っている。
「我が同胞がやられておるのを感じる。魔神どもめ。八つ裂きにしてくれるわ！」
百年王の凄まじい殺気に体が固まってしまう。
隣の女吸血鬼も同様だ。
「だが、その前に貴様らから血祭りにしてやる！」
百年王が女吸血鬼に向かって爪を振り下ろす。
「くっ！」
僕はクロスボウから矢を放った。
緑の閃光が百年王の顔に激突する。
王を顔を仰け反らせて呻き声を上げる。
蛇の百年王には効かなかった攻撃が、多少は効くようになっている。
「小癪なぁ！」
百年王は僕目掛けて飛びかかって来た。
咄嗟に飛び退けるも、衝撃で吹っ飛ばされた。
雪の中から身を起こす。
百年王が僕の方に飛びかかって来ていた。
と、不意に顔を何者かに舐められる。
見ると、犬が僕のすぐ側にいた。
そして、僕の頭上を何かが飛んで行ったかと思ったら、百年王の右肩に剣が突き刺さる。
あの剣はナナさんのダーインスレイブ！
「うぎゃああ！」
百年王は呻きながら斜面を転げ回る。
「アイトさーん！！」
背後からナナさんの声。
見ると、キャンピングカーが山の斜面を駆け上がって来ていた。
車の上にナナさんとミミが立っており、こちらに手を振っている。
「アイトさん、心配しましたよー！」
ナナさんが僕の隣に華麗に着地する。
「ナナさん、助かったよ！ でも、どうしてここが？」
「ミミの犬に案内してもらったんですよ」
ワン！と元気よく犬が吠える。
ミミがその頭を撫でている。
「来たかぁ、魔神どもぉぉ！！」
起き上がった百年王が叫ぶ。
「我が同胞の仇ィーー」
「うるせぇ、畜生がぁ！！」
ナナさんが百年王の顔面を蹴り飛ばした。
王はその衝撃で山の上の方まで吹き飛ばされて行った。
