23話 アイトさん、スノーモービルですよ
「さぁ、アイトさん! ウーゼンに到着しまし……た?」
ナナさんは固まって前方を眺めている。
「えーと、ウーゼンって火山地帯なんだよね?」
「ですね……」
しかし、目の前には雪による銀世界が広がっていた。
「うーん? 地図的にはここで合っているんですよね」
ナナさんは端末と外の景色を見比べながら言う。
「ウーゼンの街はこの先にあるの?」
「はい、温泉街があります。とりあえずそこまで行ってみましょう」
「そうだね」
「だけどその前に……」
ナナさんは車から降りた。
何をしているのか見ていると、彼女が指を鳴らした瞬間、キャンピングカーの前輪が板状に、後輪がゴツゴツしたタイヤに変化していった。
「雪道をこのまま走るのは不便ですからね。スノーモービルにモードチェンジしました」
すのーもーびる?
たぶん、見た目的にソリのようなモノだろうと納得した。
運転席に戻ったナナさんはブツブツと文句を言っている。
「ホント雪って面倒で嫌いです!」
「そうなんだ? 僕は見慣れてないからちょっと新鮮だな」
「最初はそう、綺麗だなぁと思ったりするんですけど、すぐに飽きてウンザリしちゃいますって」
確かに、雪では行動が阻害されそうだし、厄介かもしれない。
◆
キャンピングカー(スノーモービルモード)で進んでいると、建物群が見えてきた。
アレがウーゼンの温泉街だろう。
しかし、街中に入ってみても人の気配はしなかった。ここも、カルネスト湖や古代樹の街のように廃墟のようである。
「温泉街って感じじゃなさそうだね」
「うー、ここまで来たからには意地でも温泉に入りたいです」
「ちょっと探索してみようか?」
僕らは入ることができる温泉がないか探してみたが、どこにも温泉は湧いていなかった。
「ダメだね。それらしき形跡はあるけど、どこも枯れてしまってる」
廃墟の様子を見るに、何十年と経ってしまっているようだ。
この街は、温泉が枯れてしまったせいで寂れたのかもしれない。
「どうしようかナナさん?」
と、話を向けるがナナさんの反応がない。
どうしたのかと見てみると、彼女は不可思議そうに首を傾げている。
「ナナさん?」
「ん? あぁ、ごめんなさいアイトさん。ちょっと変な気配を感じていまして……」
それが何なのか尋ねようとした時、ふとどこかから女の子の鼻歌が聴こえてきた。
さっきまでは誰もいなかったはずなのに。
怪しい。
「いや、これって……まさか……」
ナナさんは訝しげな表情で声のする方を見ている。
建物の角から、雪だるまを転がしながら女の子が現れた。
背は低いが、緑色の髪が腰より下まで伸びている。
「げっ!?」
ナナさんが後ずさる。
「あっ!」
女の子がこちらに気づいた。
「ナナしゃーん!!」
彼女はいきなりナナさんに抱きついてきた。
「うげぇ、ミミ!」
ナナさんは顔を引き攣らせている。
「えっとナナさん、その娘とは知り合いなの?」
「知り合いというか……この娘もわらわと同じ魔神です」
ナナさんは抱きついている女の子を指差す。
「魔神ミミナミナエルです」




