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20話アイトさん、ご無事でなによりっ!

 黒雲が大きく揺らめき、声の主が姿を現す。

 尖った鼻先に細長い鼻腔、口から真っ赤な細長い舌をチロチロ覗かせ、黄色く細い眼は僕たちを睨みつけている。そして赤茶色の鱗に覆われた皮膚は小刻みに振動しているようだ。


 僕たちの前に姿を現したソイツは、とても巨大な蛇だった。


「我は百年王……この大樹を統べる偉大なる王である」


 百年王!?


 僕は唖然として大蛇を見上げた。

 カルネスト湖にいた巨大魚と同じ名称だ。こんな偶然があるだろうか?


「くっ、何だこの化け物は!?」


 イルヴァーナが魔剣を構える。他の魔術師たちもそれに倣って戦闘態勢をとる。

 僕もクロスボウを構えた。


「ふん! 下界人如きが我に立ち向かうというのか? 笑止!」


 大蛇から発せられる重圧に僕は、いや他の魔術師たちも身動きができないでいる。


「喰ろうてくれるわ!!」


 百年王は大きく口を開けて僕らの方に突進してきた。


「散れ!!」


 イルヴァーナが鋭く叫ぶ。

 魔術師たちは魔法が解けたようにその場から飛び散った。

 僕もなんとか体を動かし、後方に飛び込んだ。


 百年王の牙が幹にめり込み、激しい音を立てながら引き裂いていく。

 その衝撃で大きな枝の一つがバキバキと折れて遥か下の地上に落ちて行く。


「今だ! 頭部に集中しろ!!」


 攻撃後の隙を狙って魔術師たちが様々な攻撃を放つ。

 それは炎であったり、稲妻であったりと様々だ。


「さぁ、私の魔力を喰らえ」


 イルヴァーナは魔剣を構える。すると彼女から剣に紫色のオーラのようなモノが流れ行く。


「ハアアアアアアアッ!!」


 魔剣を百年王の方に向かって振り落とすと、紫の斬撃が勢い良く飛び出した。

 斬撃は大蛇の頭部に直撃し、大きく体をのけぞらせた。


「やった」


 魔術師の誰かがそう呟く。

 しかし、イルヴァーナは厳しい顔つきで剣を構えたままだった。


「愚かな虫けら共よ、キサマらの攻撃なぞ痛くもないわ!!」


 百年王は唸るように言った。

 その言葉通り彼の体には傷一つない。硬い鱗に守られているのだろう。


「どうやら、ただ怒らせてしまっただけのようだな」


 イルヴァーナが自嘲気味に言った。


 百年王はその首を大きくしならせて薙ぎ払う。

 その衝撃だけで魔術師たちは吹き飛ぶ。

 僕も衝撃に備えたが、なんとイルヴァーナが魔剣で庇ってくれた。

 彼女の体が後方の枝に叩きつけられる。

 僕は慌てて駆け寄った。


「イルヴァーナさん、どうして!?」

「魔神の主とはいえ、君は一般人だ。守るのが私たちの義務だよ」


 彼女はそう言って立ちあがろうとするが、ダメージが大きく、思うように動けないでいる。


「今度こそ喰らうてくれるわ!」


 口を大きく開けた百年王が僕たちに向かって来る。

 僕はクロスボウを構えた。


 このまま彼女がやられるのを黙って見ているわけにはいかない!


 クロスボウの魔術印に魔力を流し込む。不思議と前よりもスムーズにそれを行うことができた。

 先端に浮かび上がった紋様は緑色だった。


 僕は矢を放った。緑色の閃光が走り、百年王の頭上で炸裂する。


「愚かな、どこを狙っておる?」


 大蛇が嘲る。

 だけど、狙い通りだ。僕の攻撃じゃ怯ませることすらできない。だから、ナナさんに気付いて貰えるように放った。


「さぁ、我が糧となーー」

「きゃああああああああっ!!」


 突然、下の方からシシーが吹き飛んで来た。そして彼女は百年王の頭にぶつかり、


「うぎゃああああ!!」


 百年王の頭が弾け飛んだ。

 辺りに肉片やら血液やらが降り注ぐ。僕らはそれを唖然と眺めていた。


「アイトさんっ!!」


 幹にナナさんが降り立つ。


「良かった! ご無事で何よりですっ!」


 ホッとしたようにナナさんは微笑んだ。



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