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19話 アイトさん、変態魔剣コレクターですよ

「シシルシファルシアーネスラン……」


 僕はその名前を反芻した。

 ナナさん程じゃないけど、噛みそうになる複雑な名前だ。


「私はシシーと呼んでいるけどね」


 イルヴァーナは魔神シシーの方に向き直る。


「シシー頼むよ」

「お任せあれ」


 シシーはパチンと指を鳴らした。

 すると、気絶していた他の魔術師たちが意識を取り戻し、不思議そうに立ち上がり始めた。


「回復させたか……面倒なことを」


 ナナさんがそう呟いた。


「あなたと違って私は慈悲深いのよ」


 シシーが目を細めながら言う。


「そこのあなた……」


 彼女は視線をナナさんから僕に向けて来た。


「え、僕?」

「そうです。あなた、このナナが過去にどれだけの悪事を働いていたのか知っていて封印を解いたの?」

「悪事、ですか?」


 シシーはゆっくりと頷いた。


「この娘の横暴さにどれだけの者が苦しめられたか……私の大切なモノまで奪っていって」


 涙ぐみながら訴えるシシーにナナさんは首を傾げた。


「はぁ、あんたの大切なモノなんて奪った覚えはないけど?」

「なっ!? 覚えてないと言うつもり!?」


 ナナさんの言葉にシシーは激昂した。


「私の愛しいダーインスレイブのことっ!」

「んー? あぁ、魔剣のこと」


 ナナさんは納得したように頷くと、ボックスディメンションの中から黒い剣を取り出した。

 以前、とある村でゴブリンたちを虐殺した魔剣だ。


「そうでした、そうでしたアイトさん、この女は魔剣が大好きな魔剣狂いの変態魔剣コレクターなんですよ」


 ナナさんはこれ見よがしに魔剣を振ってみせた。


「ちょ、ちょっと! そんな粗雑に扱わないで!!」


 シシーが慌てて叫ぶ。


「これはわらわのモノなのだから、どう扱おうがわらわの勝手でしょ」


 ナナさんはニヤニヤ笑みを浮かべながら言った。


「その子をあなたに譲った憶えはないわ!」

「おほほ、今だにそんなに執着して。見苦しいわぁ」


 悲痛な声で訴えるシシーをナナさんは笑い嘲る。


 ……なんだが、客観的に見るとナナさんがとても悪党に思えてしまう。


 そんな僕の考えを察したのか、ナナさんは慌てて振り返り弁解の言葉を述べる。


「あ、アイトさん誤解しないでくださいね! この魔剣はあの女との勝負に勝った報酬として貰い受けたんです。わらわが正当な所持者になっています。それはあの女も承知して――」


 しかし、ナナさんの言葉が終わる前に彼女の背後に赤い斬撃が迫っているのが見えた。


「ナナさん危ない!」


 僕が叫ぶのと同時にナナさんは魔剣でその斬撃を受けとめた。


「シシー!」


 咎めるような声音でイルヴァーナが声を上げる。

 見ると、シシーの手に大きな赤い剣が握られていた。おそらくあれも魔剣なのだろう。禍々しい赤い光を放っている。


「……正当な所持者ですって? 一方的に宣言してきて、奪い取っていっただけじゃない」


 シシーはギロリとナナさんを睨み付ける。


「いいわ。今度は私があなたをぶちのめして取り返させてもらうわ」


 シシーが放つ殺気に僕だけじゃなく他の魔術師たちも身動きが取れなくなっていた。

 ただ一人を除いて。


「お前……」


 ナナさんの声に僕はハッとする。

 今まで聞いたことがない程の怒気を含んだ声だ。ナナさんからもとてつもない殺気が放たれている。


「アイトさんまで傷付けるところだったぞ」


 これまでだって僕はモンスターと対峙し、その殺気を一身に受けて来た。だけど、彼女たち魔神のソレは次元が違う。


 僕ら人間が捉えることができたのは、彼女たちがぶつかり合う激しい音だけだった。

 気づいた時には彼女たちは戦いを繰り広げていた。しかし、あまりに速すぎて目で追えない。微かな残像と甲高い金属音が僕らの頭上で飛び交い合う。

 やがてその残像が巨木の幹を下に降りて行った。


 唖然としていた僕は我に返って、ナナさんたちの後を追おうとする。


「待ちなさい」


 イルヴァーナが僕の前に立ち塞がった。


「あなたはここから動かない方がいいわ」


 彼女の言葉に僕は首を振る。

 今までのナナさんの戦いはほんの遊びでしかなかったのだ。だけど、今の相手は同じ魔神。万が一といいうことがあるかもしれない。そう考えると居ても立っても居られない。


「私たちはできる限り穏便に済ませるつもりだったんだがな」


 イルヴァーナはため息を吐いた。


「魔神の力は強大だ。故に御しきれないのであれば排除するしかない。でないと我が国に厄災をもたらす」

「――!?」


 彼女の言葉に僕は思わずクロスボウを握りしめた。

 だってそれは、このままシシーにナナさんを始末させようということではないのか?


 僕とイルヴァーナたちとの間に緊張が走る。

 と、その時、上空の厚く黒い雲が大きく揺れた。


「我が居城を荒らすのは、一体どこの愚か者だ?」


 雲の中から、低く重い声が轟いた。




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