16話 アイトさん、よくできました!
「アイトさん、見えてきましたよ!」
ナナさんの声に、僕は窓から外を眺めた。
前方に街らしき建物群が見える。そしてその後方に、まるで山脈のような大樹が鎮座していた。
あれが描かれていた古代樹!
僕はそのスケールの大きさに圧倒されてしまった。
どこまでも太い幹、それが遥か上空まで続いている。
「すごいねナナさん!」
僕は興奮を抑えきれずに隣のナナさんに話しかけた。
「ですねー、でも、枯れてしまっているのは残念です。古代樹の実は希少だから高く売れるらしいですよ」
ナナさんは例の端末で世界樹の木の実の相場を調べていたらしい。
彼女らしい反応については置いておいて、僕は再び前方の古代樹に目を向けた。
たとえ枯れてしまっていたとしても構わない。
早くあの樹を登ってみたい!
◆
街に到着した。
僕は車から降り立つと辺りを見回した。
日が傾いて、既に夕暮れなっている。
夕陽に照らされているのは廃墟と化した建物ばかりだ。半ば崩れてしまっているモノもある。
そして何より、とても静かだ。生き物の気配がまるでない。
「やっぱり誰もいないね。カルネスト湖の時と同じだ。盗賊の根城にされているとかはないのかな?」
「うーん、特に気配はありませんね。ついでに言うと金目のモノもありやがりません」
残念そうにナナさんは言う。
「ま、まぁ、今回は古代樹を見に来たわけだし……」
「え? あ、あぁ、はいもちろんそうですとも! あはは!」
ナナさん、笑顔で同意するも、微妙に顔が引きつっている。
「それで、今日はどうします?」
「うん、もう時間も時間だし、樹に登るのは明日にしよう」
「了解です、アイトさん」
僕らはキャンピングカーの中で早めの夕食をとった。
「ささ、食後にはこのナナビタン7をお飲みください!」
テーブルの上に小瓶が置かれる。
僕は礼を述べて、その小瓶の中身を飲み干した。
「うんうん、良い飲みっぷりですね!」
ナナさんは満足そうに頷いている。
「あの、ナナさん、どれくらいこの飲み物を飲んだら魔術回路は導通するのかな?」
「んー、そうですねー。そろそろいい感じかもですね!」
「え、ホントっ!?」
ナナさんの言葉に僕は思わず身を乗り出した。
「もちろんホントですよ」
そんな僕に笑顔を向けるナナさん。
「ただし、ボックスディメンションなんかはまだ難しいと思います。最初は武装強化なんか良いかもです」
彼女の言葉に僕はゆっくり頷いた。
もちろん、そう簡単に使いこなせるだなんて思っていない。
「頑張るよ、ナナさん」
「おー、やる気に満ちていますね!では、早速始めましょう!」
そう言うや、ナナさんは立ち上がった。
「え、今から?」
「善は急げですよアイトさん!クロスボウを持ってきてくださいね」
ナナさんはさっさと車から降りてしまった。
僕もクロスボウを持って慌てて車から降りた。
「ちょっと貸してくださいね」
外に出るなり、ナナさんは僕からクロスボウを受け取り、鋭い針のようなモノで何か刻みつけているようだ。
「さぁ、できましたよ。これで武装強化できるようになりました」
受け取ったクロスボウを見てみると、何やら複雑な模様が描いてあった。
「これは何?」
「それは魔術印です。そこに魔力を流し込むことによって武器を強化することができるのです」
「な、なるほど?」
なんとなく言っていることはわかる気がするような、しないような……
そんな僕のことを察してくれたのかナナさんが試してくれることになった。
クロスボウを受け取ったナナさんは、それを廃墟の一角に向けて構える。
「魔力の流れを意識して、さっきの印に向けてこう流し込むイメージで……」
そう言うと、クロスボウの先端部分に赤い魔術印が浮かび上がった。
ナナさんはトリガーを引いて発射した。
突き刺すような音と共に赤い閃光が走り、廃墟の壁に激突したかと思えば、その壁は粉々に砕け散っていた。
「まぁ、こんな感じですね」
ナナさんは僕にクロスボウを差し出す。
「はい、やってみましょう!」
僕は同じように構えた。
「まずはお腹の真ん中を意識してー、息を吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー」
ナナさんの言う通りやってみると、お腹の辺りがジンジンとしてきた。
「その意識をー、だんだんと上に移動させましょうー、お腹から、胸に、胸から腕にー」
腕がジンジンする。
ここまではなんとかできた。
ただ、ここから先は少し難しかった。
「今、腕がジンジンしてますか?それが魔力です。それを今度はクロスボウの印に注ぎ込むイメージです!」
印に意識を集中させる。すると、次第に印が赤く光を放ち始めた。
「お! あと少しですよアイトさん!」
ナナさんの声援を背に、僕はさらに魔力をクロスボウに流し込んだ。
赤い光の印がクロスボウの前面に浮かび上がった。
「さぁ今です」
僕はクロスボウを発射した。
赤い閃光が走り、壁の一部に激突した。
「わぁ!」
僕は思わず声を上げた。
「よくできましたアイトさん!素敵です!」
ナナさんが手を握って褒めてくれる。
僕は気恥ずかしさを覚えながらも、気になることを訊いてみようと思った。
「そう言えばナナさん、どうしてあの印は赤い光を放つの?」
「あぁ、魔術印の色は強さを表しているのですよ。赤は弱くて、紫色が一番強いんです」
なるほど、そういう意味があるのか。
「紫色かぁ。僕は赤色で精一杯だよ」
「まぁ、アイトさんならすぐ他の色も使いこなせるもうになりますよ」
ナナさんは励ますように言う。
「そうだ。今お見せしましょうか?」
「え? あ、うん。見てみたいや」
するとナナさんはハンドガンなるモノを取り出し、廃墟の方に向ける。
「じゃ、お見せしますね。えーい!」
ナナさんは引き金を引いた。
辺り一面が紫色の閃光に包まれ、凄まじい音が鳴り響く。
「……ぇえ?」
僕は言葉を失ってしまった。
なぜなら、廃墟が丸ごと吹き飛んでしまっていたからだ。
「こんな感じです!」
ナナさんはニッコリして言った。




