12話 アイトさん、クロスボウはどうですか?
「ふむ、わらわ程じゃないですが、それなりにセクシーな者たちが揃いましたね」
「あー、ナナさんがそう言うのならそうなんだろうね」
椅子に腰かけている僕とナナさんの前に5人のウンディーネたちが並んでいる。
彼女たちは急遽始まったカルネスト宣伝踊り子組オーディションの厳しい審査を合格した精鋭たちだ。
審査員はナナさんと僕……ってことになっていたはずなんだけど、僕はほとんど踊り子たちの踊りを見ていない。
なぜなら、彼女たちが踊り始める度にナナさんは、
「むぅ、ちょっとアイトさんには下品過ぎますね」
とか、
「あぁ、これはアイトさんが見る程の価値はないです」
だとか言っていちいち僕に目隠ししてきたのだ。
しまいには、
「もうアイトさんはナナだけを見ていればいいんです!」
と、言ってしまう始末だ。
だったら、なんで僕を審査に参加させたんだろう?
「踊りが見たいのであれば、わらわが後で見せてあげますよっ」
そんなことを彼女は囁いてきたので、さっきの疑問など刹那で吹き飛んでしまうのだった。
◆
「さてと、これからどうしますアイトさん?」
ひと段落着いたところで僕らは水の宮殿から岸辺へと戻って来ていた。
「まずはクエスト屋に報告に行かないと」
色々起こりすぎて忘れそうになっていたけど、僕らはここにクエストの任務を果たす目的で来ていた。
「クエスト?…………あぁ、そう言えばそうでしたね」
人のことは言えたもんじゃないけど、ナナさんは完全にクエストのことを忘れていたようだ。
「んー、面倒だし放っておきましょう!」
「いや、ダメだよ」
僕は即座に否定する。
「僕らが無理やり受注したもんだし。それに、あの街で移住の宣伝をするのもいいんじゃない?」
そう提案するとナナさんは納得してくれた。
「わかりました。宣伝のついでにクエスト屋にも寄りましょう」
まぁ、クエストを達成できているのかは微妙なところだけど、一応危険な百年王を倒したわけだし、十分過ぎる成果だと思う。
百年王を倒したか……
全部ナナさんがやったことで、僕は何もできなかった。
もっと強くなりたいな。
ナナさんを守れるくらいに。
「どうしたんですかアイトさん?」
ナナさんが心配そうに僕の顔を見てきた。
「あ、ううん、何でもないよ」
「いーえ、アイトさんがそんな顔をしている時は何か悩んでいる時です。さぁ、遠慮なさらずこのカウンセラーナナに話してください」
誤魔化しても無駄なようなので僕は考えていたことを彼女に話した。
「うーん、面倒な戦闘でアイトさんの手を煩わせたくないと思っていたのですが、なるほどそうでしたか」
彼女は少し考え込んだ後、急に手を叩いた。
「そういえばアイトさんの武器はその片手剣だけでしたね?」
「あ、うん。これだけしか持ってないから」
僕は自分の片手剣に目を向けた。
ギルドに所属していた時から使い続けている剣だ。特に愛着があるわけじゃないけど。
「そのショボい装備だと戦闘手段が限られますからね。なので遠距離でも使える武器を装備すればいいんですよ!」
ナナさんはそう言ってnanazonに何かを注文した。
弾ける音ともに彼女の手に黒い物体が握られている。
「これはハンドガンです」
ナナさんはニッコリしてそう言うと、適当な方にそれを向けてトリガーを引いた。
耳を覆いたくなる程の衝撃音が辺りに響く。
「この銃なら離れているモンスターも仕留められますよ」
確かに凄い威力だ。けど、今の僕には過ぎた力だと思う。そう彼女に伝えると別のモノを注文しだした。
「こっちの方が見慣れているかもしれませんねぇ」
ナナさんの手の上に現れたのは、横にした弓を先端に装着した先程のハンドガンに似た形状のモノだった。
「クロスボウって言う武器です」
ナナさんは再び適当な方向にクロスボウを構えてトリガーを引いた。すると矢が勢いよく飛び出していく。
「こっちの方が武器としてわかりやすいですか?」
僕は頷いた。
「ちょっと変わった弓矢みたいなモノかな。でも、これなら僕でも扱えそうだよ。ありがとうナナさん、大切にする」
クロスボウを彼女から受け取り構えてみる。
少し重いけどすぐに慣れそうだ。
「それとこれが矢筒ですね」
黒い円柱状の矢筒の中には何本も矢が入っている。
「このnanazon特別製はですね、時間経てば勝手に矢が補充されるのですよ。だから、矢が無くなることを心配しなくてよいのです」
それは便利だ。
「あの、ナナさん?僕、このクロスボウの練習をしてみたいんだけど、ちょっと離れても大丈夫かな?」
「えぇ、大丈夫です。わらわもちょっとキャンピングカーを改造したいと思っていましたので」
キャンピングカーを改造?
それはそれで気になるけど、今は少しでもこのクロスボウを使いこなせるようになりたかった。




