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よくある政略結婚の話

ポルノグラフティ『ミュージックアワー』と坂本真綾『幸せについて私が知っている5つの方法』を聞きながら。

テンプレを目指しました。頑張れたら続き書きます。

≪はい! 本日も始まりました。愛すべきみんなの拡声器! レディ・エコー・ステラこと! 魔術研究課程五年生ステラ=アイリスが、午後六時半より、本日も生放送でキッカリ三十分間お届けします! ≫

≪ご要望。ご質問。そして解決してほしいお悩み等ございましたら、自薦他薦問いません! 校舎内の【ライン】を使用しお便りください。リアルタイムで対応いたします! もちろん生徒のみならず、先生がたのお便りも、海原の大ウミヘビくらいに首を長~っくしておまちしておりまぁ~す! ≫

≪なんと! 本日はビックなゲストもいらっしゃいます! みなさんお馴染みのあの御方! いいえ! 今日は校長先生ではございませんよ! ≫

≪ステラが声なら、この人は顔! しかし残念これはラジオ! しかと聞け! 悲鳴を頂戴! あらゆる意味でのみんなの顔! 我らが皇太子――――エドォォオオオ=ロォォォオオオエーン!!!!≫


≪……こんにちは≫


≪……ええと、照れるな……こうするの? そう。ありがとうアイリス。魔術研究課程七年生、エドワルド=ロォエンです。今日はお招きいただきありがとう≫


≪キャッ超サワヤカ! 圧倒的プリンスオーラを、この182センチの矮躯の右半身に! 一身に浴びております! この182センチの右半身に! 若い男女がふたり、吐息も感じる密室でございます! ヤダァ……あたし明日刺されないかしら!? ≫


≪ハハハ! すごい声だね! ≫


≪ 回線爆発! 王子の腹筋崩壊!音質も崩壊! ちょっとノイズすごいんですけど!? え? 【ライン】の容量オーバー? みなさァ~ん! すこし、すこしばかり勢いを押さえて! 今日の放送と、あたしの明日が死んでしまいます! ≫

≪ヤダもう! この放送は、リスナーの皆さんのご助力と先生方の御厚意でできております!すでに放送事故のYOKAN! ヒシヒシと危機感を感じております! 皇太子のスケジュールはそうそう空きません! ≫


≪なるほど。それではお便りを一通読み上げましょう≫


≪王族にスルースキルを使わせてしまった!? 国始まって以来の珍事です! 始祖の魔女もビックリ! 回線爆発に二十五秒。静かになるのに三秒でした。さすが王子。はい、それでは気を取り直して。匿名の方からのお便りです≫




≪レディ・エコーはじめまして。入学以来、いつも欠かさず楽しく聞いています。≫




≪王子が読むの!? いいけど! ≫




≪わたしは、もともと牛や馬の世話をしながら、田舎でのんびりと暮らしていました。しかし父が亡くなったとき、とんでもない遺言が出てきたのです≫

≪わたしは両親のほんとうの娘ではなく、さる地位ある御方の血を受けているということでした。つまり、その御方から見れば妾腹の娘ということで、父の訃報によりわたしは本当の父親のもとへ引き取られることになりました≫

≪実父はとても親身で、血の繋がりも確かに感じる優しい方であったのは幸いでした。しかし父は地位のある方。父には、本妻との間に二人の子供がおり、わたしは混乱を避けるため、そしてわたし自身のために、この学園を卒業すると結婚することになっています。つまり政略結婚です≫


≪……ふむ。よくある話だね。次々と匿名ちゃんに向けた共感とエールのお声が届いております≫


≪彼はもともと田舎暮らしだった自分からしてみれば、雲の上の身分の方です。最初は戸惑いましたが、婚約者の方はとても優しく、彼を追う形で、わたしもこの学園に入学することができました。あまりに様々なことがありましたが、この方と添い遂げるのは世界一の幸せかもしれない……そう思うくらい優しい方なのです≫

≪フムフム? 大団円と見せかけて、ここからまた一波乱あるのかな? 実は超ド変態とか? ≫

≪……今から言うこれは、ぜいたくな悩みだと思います。悩みというのは、わたしの婚約者についてです。理の両親となる方はすでにお亡くなりになっており、おじい様に田舎で育てられた彼は、温厚でとても親切です。そのうえ、とつぜん平民から令嬢となったわたしの身の上を案じ、いつも気を使ってくださいます。気を使いすぎています≫


≪オッ? 話が見えてきたぞぉ≫


≪わたしは婚約者ですが、儀礼のやむを得ないとき以外には、彼と手を握ったこともありません≫


≪ほらね! ≫


≪ちなみに、婚約したのは四年も前のことです≫


≪それはひどい! ≫


≪先日、彼がルームメイトの男子生徒と、誰もいない教室でワルツを踊っているところを目にしました≫


≪え、そっち!? ≫


≪……わたしは、少し戸惑い、かなり怒っています。婚約者は学園では頑なにわたしと二人っきりになろうとしません。会話はしますが、いつもまわりに人がいます。話す内容も共通の友人に関することが多く、わたしたちを見て誰が婚約者同士だと思うでしょうか。お付き合いしているとも思わないはずです。彼とのあいだに壁を感じ、あまりに悲しく思った次の瞬間に、強い怒りを感じました。夏休みになれば同じお屋敷で一つ屋根の下へ帰ります。その時、いっそのこと押し倒してやろうかとも思いましたが、≫


≪意外とタフネス! ≫


≪……でも、もともと育ちの違いがあるので『はしたない』と思われたくなくて、やめにしました≫


≪そっかぁ……乙女心が仕事したねえ≫


≪わたしは恋をしたことがありませんが、ひとを愛する気持ちはわかります。わたしは彼を愛しています。どうすればいいでしょうか? ≫


≪実に難しいねえ≫


≪浮気男よりは少ないが、よくある話でもあるね≫


≪そうですか? ≫


≪政略結婚で、相手への対応に悩む男は多いと思うよ。身分の釣り合いだけで結婚するわけだから、目の前に現れた未来の妻がイイ感じの人だったら……わかっていても照れちゃうんだよね≫


≪ほうほう? ……おっと。御令嬢方の黄色い悲鳴が聞こえますね~≫


≪あのね、貴族といっても女の人を練習もなしにエスコートはできないものなのさ。ぼくは、そこらへん御令嬢方に理解がほしい。貴族の男がパーティーで女性をエスコートできるのは家でばあやを相手に死ぬほど練習するからなんだよ。結論から言おう。思春期の男にはね、ダンスのリードは刺激が強い! ≫


≪ぶっちゃけましたね王子! ≫


≪反復練習で慣れるしかないんだ! ばあやの冷たい硬い手の感触じゃあないからね! 女の子の手だ! それも腰に手を添えろという。経産婦の骨盤はしっかりしてるよ! 長年、家事と子守で鍛えているからね。それに慣れてしまった腕がだよ。処女のなよ腰に宛がえと。それがお前の仕事だと。『マジかよ! ひゃっほう! 』だよ! ≫


≪処女じゃないかもしれないじゃないですか! ≫


≪そこは問題じゃあないんだよ! はじめて肌が触れた女性は、過去がどうであろうとも処女だ! ≫


≪なんたるパワーワード! それならばあやは!? ≫


≪馬鹿言うな! ばあやは赤ん坊の時に乳吸った仲だよ! ≫


≪乳母なら仕方ない! ≫


≪匿名ちゃんの婚約者さんは、かなり奥手というより、どうすればいいか分からないんじゃあないのかな? 匿名ちゃんが貴族の子だという仮定で話すけれど、それなら婚約者の身分は、辺境伯あたりと考えよう。山岳のほう、あのへんの田舎だと、身分差関係なく男も女も山道を馬で駆れるし、土濡れで畑仕事もするという。そういう生まれの婚約者さんで、おじいさまと二人暮らし。家臣やメイドがいるにしても、男所帯だ。田舎に女性は少ないし、若い男も娯楽も少ないから、女性に免疫は無いかもしれないね≫


≪なるほど。貴族にも様々ですものね≫


≪あと、これは匿名さんにではなく、学園内の貴族生まれたちに言いたいんだけど……いくら学園内に身分差が繁栄していないといっても、入学してすぐ急激な女性からのアプローチに浮かれてはいけないよ。いや、浮かれてもいい。恋はいいことだ。神々も、一部を除いては自由恋愛党の情熱推進派だからね。恋愛は世界に許されている。しかし安易にベットに誘ってくる異性は、男も女も恐ろしい思惑が隠れている≫

≪ご令嬢たちは耳が石になるくらい言われることだけど、貴族なれば男こそ肝に銘じてほしいものだね。身分あるいっぱしの男なら……相手の女性にほんとうに恋をしたのなら……きみは、ただの種馬になってはいけないんだ≫

≪神々は自由恋愛党の情熱推進派だけれども、獣のごとき交接は唾棄している。人は人であるからこそ、理性にもとずいて、愛さねばならない。今回の匿名さんは、自分の身の上にじつに驚いたことだろうし、大きな悲しみを抱いたことだろう。その悲しみは、小さくなることはあっても消えることは無い。一夜のあやまちが、二人の人間を不幸にするかもしれない。もしかしたら奥さんを入れて、三人の美女が涙で枕を濡らしたのかも。正妻とのあいだに二人子供がいるというから、それも入れて五人だ≫


≪確かに。不倫文化のもと確かに宮廷は華やぎましたが……いまは時代が違いますからね。身分ある既婚男性は、貞操帯を義務付けてはいかが? どうでしょう王子≫


≪うーん。男は我慢すると燃える生き物だし、人間は試行錯誤で発明を行う。魔法使いならなおさらね。そこに新たな物語が生まれるものだ。つまり、ノーコメントで≫


≪話は脱線してしまいましたが、ここで匿名ちゃんへのお便りをご紹介したいと思います≫


RNラジオネーム.通りすがりの伯爵令嬢さんより。≫

≪やはり押し倒しましょう! 貴族令嬢はけっこう押し倒します(笑)……突然明かされる衝撃の告白に、ステラちゃんビックリです≫


≪RN.空飛ぶうさぎちゃんさんより。≫

≪草食系彼氏のためにアンタが肉食になるしかない。ガオーっといっちゃえ! ……あ~ん! ケダモノ! ≫


≪RN.草るヒトさんより。≫

≪ところで流しちゃったけど、ワルツを踊ってたルームメイトって男だよね? ……さて、どっちがどっちなんでしょう? ≫


≪RN.悪魔でも貴族さんより。≫

≪一つ屋根の下にいるのに……まずは病院へ連れて行ってさしあげたら? 役立たずなら別れなさい……据え膳食わぬは男の恥! ≫


≪RN.ハートブレイクさんより。≫

≪この前ぼくは、まさにそれで失恋しました。……なんの報告? せいぜいがんばれ草食系! ≫


≪RN.水着がポロリが性癖さんより。……あんたの性癖は知りたくなかった! ≫

≪まずはデートからではないでしょうか? お互いを知るために、二人っきりで話せる空間に持ち込みましょう! ……ウソだろまさかの正解答! ≫


≪RN.匿名さん≫

≪デートなら観劇とかはどう? ……同じものを見て感想を言いあう。話題作りになりますし、いいかもしれません! ≫


≪ふたたびRN.ハートブレイクさんより。≫

≪なら勇気を出します! ステラちゃんぼくと付き合って! ……きみが今すぐここに来るんならいいよ~≫


≪はい! それではまだまだコメントがモリモリ大盛況なんですが、尺が巻き入っちゃったので、お名前だけでも王子に読み上げていただきます! ≫




≪はい。RN.国鳥将軍さん、青い花さん、王子親衛隊さん、レモンさん、ぱーぱーさん、夢バクさん、それから匿名でお便りをくれた12名のリスナーさん。ありがとうございました≫


≪王子に名前呼んでもらったぞ民衆ども! ≫


≪はい。読んでやりました≫


≪オッ!? あ、最後に一通お便りをご紹介します! RN.魔術理論学のデボラ先生よりのお便りです! ほ、ホンモノかぁ~!?≫


≪人生には、いろいろなことがあります。まだ若いあなたたち。未来は焦らずとも、すぐそこに見えています。辛抱強く、そして勇気を出して。大人は頼られるのが好き。おばさんも、若い子とコイバナしたいです。いつでもウェルカム。待っています。≫

≪PS.明日の天気は快晴ですので、魔術研究課程五年生で、この前の試験でC判定以下の生徒は、夜明け前に黒森前に集合してくださいね♡≫


≪……ほ、ホンモノだぁ~~~~!!!! そして! ステラちゃんの実習が決定しました……目覚まし時計かけなきゃ……≫


≪そろそろお時間が迫っております! それでは王子、最後に恒例のアレをひとつ≫





≪もうそんな時間か。早いものだね。とても楽しかった。誘ってくれてありがとう。また来たいな≫

≪今回のお悩みは、すこし身をつまされるところがあったね。匿名さんの未来に幸あることを願っているよ。採用されたきみには、そうだな。いつもの記念品よりも役に立つものをあげたいんだけど、いいかな? ≫


≪えっ、ど、どうしましょ。それは予想外。予算もありますんで……ウーン・…≫


≪じゃあいいや。ぼくが個人的に贈ることにしよう。ぼくのポケットマネーで、水着がポロリが性癖さんと匿名の方からのアドバイスにもあった観劇のペアチケットを。大丈夫、ぼくのお小遣いは皆さんご存知の通り税金から出ているわけだけど、健気な彼女への餞別ということで、優しいみんなは許してくれるはず。そうだろう? ≫


≪王子さまったら太っ腹! 腹筋は割れてるけど! では、名残惜しいですがお別れの時間となってしまいました! エド王子、ほんとうにまた呼んでいいんですね? ≫


≪もうすぐぼくは卒業だけど、気にしなくていいよ≫


≪そんりゃあも~う! 色々忙しいんでは!? ≫


≪なら、卒業したあとでもいいよ。だってOBだからね≫


≪夕方キッカリ三十分ラジオ! 校長以来のビックタイトルがスポンサー入りだーッ! ≫


≪……スポンサーになるとは、言ってないよ? ≫


≪それでは王子! ありがとうございました! ステラちゃんが無事に明日の朝日を浴びれますよーに☆≫


≪おやすみなさい。良い夢を見れますように。あと、アイリスが朝寝坊しませんように≫


≪ではでは、また明日お会いしましょう! さよ~なら~≫


≪………スポンサーには……ならないからね? ≫



エドワルド=ロォエン

✡魔法使いの国の皇太子。匿名ちゃんにこっそりチケットを手渡しできてニッコリ。


匿名ちゃん

✡本名をミッチェル・クロワ。サマンサ辺境伯領で村娘をしていたが、父の死をきっかけに自身が高貴な血筋の妾腹の娘であることを知る。身バレ防止のためにぼかしたものの、実態はもっと複雑で、とことん出生をぼかしていくスタイルの実父の手により、配下の貴族の養子に入り、そこからサマンサ辺境伯の跡取り息子へと輿入れが決まる。サマンサ辺境伯は、代々王家の影として最も忠誠を誓ってきた御家柄である。腹違いの兄が二人いる。

とつぜん胸に秘めていた自分の悩みが全校に放送暴露されて、夕食のスープを吹いた。


匿名ちゃんの婚約者

✡本名フランク・ライト。サマンサ辺境伯、ライト家長男坊。じいちゃんっ子の田舎育ち。乗馬と箒の早駆けが特技。最近の趣味はハーブの鉢植えの世話。悩みは婚約者とうまく家族になれるかちょっと不安なことと、祖父の腰の具合。温和だが大味。「なんとかなるよ」が口癖。


婚約者のルームメイト

✡東シオン。小さくてかわいい女顔。彼女持ちだけど誰も知らない。普段から同い年のフランクのことを兄のように慕っている。空き教室のワルツのくだりで勘付いてスープ吹いた。正直引いている。


✡アイリーン・クロックフォード

友達のミッチェルの悩みをきいて三秒で、「そうだ。投稿しよう」と思った。

放送後、世界一可愛い彼氏に怒られたので反省はしているが、結果的に大団円になりそうな雰囲気に『オッ? これは……』と思っている。

シオンとの身長差がニ十センチくらいあるので、こんどの卒業ダンスパーティーではタキシードを着ようと思っている。


ステラ=アイリス

✡趣味をごり押して毎日三十分の生放送ラジオを実現した。放送は始まってから一日も休んだことが無い。成績に偏りがひどいものの、わりと才女。182センチ69キロの長身。趣味はピアス集め。真面目で古風な校風のため、とても目立つ外見をしているが、人柄はラジオそのままなので友達は多い。

身バレしそうな情報はぼかしたり、過激なコメントはマイルドに伝えたり、エンターテイメントを徹底した姿勢が多くの教師陣にも受け入れられている。

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