春の妖精
春の妖精って、知っているかい?
毎年春になると、この国に来て冬眠している花を起こしに来るんだ。
起こされた花は、まるで人間が寝起きにグーッと身体を伸ばすように、その美しい花弁を広げる。
妖精が来た国は花でいっぱいになる。赤い花、青い花、黄色い花、より取り見取り。
でも今年の妖精は困っていた。まだ寝ている、つぼみのままの花がいるのだ。
それは花屋にあったレジの机の上に飾られた花。妖精がどんなに語りかけても、その花は、何があっても起きることはなかった。
春の妖精、しょんぼりする。
そんな妖精を、花屋の主人が心配そうに見る。
「どうして、どうしてこの子は起きないの? もう春が来たんだよ。早く起こさないと、春が終わっちゃうよ」
泣きながら焦る妖精に、主人はこう言った。
「ドライフラワーって、知っているかい?」