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炎王と王子と嘗ての少年《ノアル》


 私には大した力はない。

 

 団長の様に圧倒的な魔力も、強く燃える炎もない。少し器用なだけの…少し探せばどこにでもいるような、そんな人間だ。

 

 轟音(ごうおん)と共に燃え盛る炎、そして燃え盛る炎をおのが身に閉じ込めていく氷達。私はあの域に達したかった、きっと他の誰よりも(こいねが)っていた。

 

 

 強くなりたい。

 

 彼女を前にして逃げ出さずにいれるように。

 

 魔力について知りたい。

 

 彼女がもう独り(・・)にならずに済むように。

 

 

 それだけでここまで来た。リナリア様が行方不明になった十年前、婚約者だった団長が婚約を破棄したその日から。

 

 リナリア様を追いかけ続け。学校を卒業したその日からは団長の近くに行けるように。必死にアピールを続けた。

 

 

 私にとって、リナリア様は目標で。

 私にとって、リナリア様の笑顔が褒美で、だから。

 

 

 リナリア様がいつか団長の元に戻ってきたいというのならばと彼が孤立し過ぎないようにと気を使った。リナリア様が団長の事を何よりも大切に思っていたことを知っているから。

 

 「ふーん、魔力放出を利用してそのまま燃やしてるんだ?」

 「分かるのか。…なら、これはどうだ」

 

 だけど、団長を知れば知るほど分からなくなっていった。話していけば、調べていけば、見ていれば団長はリナリア様のことを想っているのだとわかる。

 

 なのに団長はリナリア様を探そうともせず、生きていたらどうするかと聞けば“会えるわけがない”と告げる。

 

 私だけが分からない。今も、昔も。

 

 必死になって追いつこうと足掻いて、他に一目置かれるようになっても、この肌を刺すような魔力が私の(おご)りを全て叩き折っていく。

 

 たどり着けるわけがない。

 自分の弱さが顔を出し逃げ道を見せつける。逃げるのか? もう少しでリナリア様に会えるかもしれないのに。

 

 やっと、あの日のお礼を告げられるのかもしれないのに。

 無意識に閉じていた手から力を抜いて人間離れした二人へ視線を戻す。

 

 どんどんと自分の周りを燃やしていく団長。炎が渦巻き、龍を(かたど)る。そして、炎の龍は咆哮(ほうこう)を響かせる。

 

 それは、産声だったのだろうか。それとも、“悲鳴”だったのだろうか。分かりはしないが、その龍がやけに揺らいでいた。

 

 陽炎(かげろう)のように揺らいだ龍を見上げリベルト様は小さく微笑み首を傾げる。

 

 「それだけ?」

 

 

 あの龍は恐らく団長にしか創り出すことは出来ない。圧倒的な魔力でしか生み出せない存在、それをはるか昔は召喚獣と呼んだらしい。

 龍は蜷局(とぐろ)を巻くように団長に巻き付くと、リベルト様へ威嚇(いかく)を始めた。むき出しになった炎の牙はごうごうと燃えている。

 

 

 「かっこいい龍だけど…それだけだよね? 見た目だけの空っぽだ」

 

 威嚇(それ)を見ても楽しそうに空っぽだと称して微笑む彼に思わず開きかけた口を閉じる。

 私がここにいる理由を忘れてはならない、二人の足下にも及ばない私がここにいるのは審判の役をかってでたからだ。

 

 リベルト様は十歳だと(おっしゃ)っていた、なら、リナリア様が消えた後に生まれたんだろう。

 では、リナリア様にリベルト様は会ったことが無い? でも、リナリア様と会ったことがないなら、何故ここに来たんだろう。


 シャーベルアイル家が隠し続けた子供。リナリア様よりも強いかもしれない氷の魔力。…だというのに柔らかな物腰。

 

 彼は、何をしに来た?

 

 「こんなんじゃダメだよ」

 

 ふいに風がリベルト様の言葉を運んできた。炎の揺らぎと、氷の輝きが対峙するように動かない。

 

 

 「炎王って言うから期待したんだけど…全然ダメだ」

 

 その沈黙を破ったのはリベルト様だった。リナリア様によく似た笑みを浮かべ、団長の炎の龍をそのまま凍らせ、砕く。ひと鳴きを上げて、砕け散った龍を見ることなくリベルト様のみを見ていた。

 

 

 

 「あなたじゃ、力不足だ」

 

 

 綺麗で冷たい笑みを浮かべた彼に、目を見開き固まる団長。てっきり、怒るか呆れるかすると思っていた。普段の団長なら「そうか」の一言で終わらせ、また自室に籠るか、寝るかをするというのに。

 

 ただ、驚愕の表情を浮かべ、そして。絶望や悲しみがその赤い瞳に浮かんだ。

 

 

 ───私は知らない、私だけが知らない。

 

 

 この場にいるというのに私はこの二人がわからない。どうして団長は戦いを飲んだのか、なぜ隠された存在のリベルト様がここに来たのか。

 

 

 なにが、力不足(・・・)なのかでさえ、分からない。

 

 

 「っリナリアは」

 

 だけど、何も知らない私が、唯一知る名前。

 

 リナリア様。

 

 あの日私を気にかけてくれた、優しくて、悲しいお姫様みたいな人。そんなリナリア様の名前を忘れたことなんて一度もなかった。

 

 

 「お姉さまは僕が助けるから、もうあなたに期待しないよ」

 

 “勿論、懺悔(ざんげ)の場所だって用意しない”その、冷たい言葉に私はやっと知れた。長い時の中求めて…探していた彼女が居なくなった理由。

 

 

 

 リナリア様が居なくなったのは、団長のせいで。

 リナリア様は助けが必要で、でも団長は力不足だから、リベルト様が助けるという。何が力不足なのだろう。

 

 

 

 なぜリベルト様は最初からご自身で助けなかったんだろうか。態々(わざわざ)、リナリア様が居なくなった理由になった団長に回りくどく能力を見るような…。

 

 

 

 「どういう事だっ」

 

 

 能力?

 

 「どうもこうもないよ、あなたじゃ無理だ!」

 

 リベルト様にはなく、団長にはある能力。

 

 態々、団長を試す必要の理由。

 

 「リナリアは、生きて…いるのか」

 「あなたには関係がない」

 

 

 “炎王って言うから(・・・・・・・・)期待した(・・・・)”…そう、リベルト様は言った。


 二人が怒鳴り合うように話している中、全ての言葉の理由が、分かる。私だけじゃなかった、知らなかったのは私だけじゃなく。

 

 

 団長も知らなかったんだ。

 

 

 

 「まっ、てください」

 

 炎王だからと、会いに来たというのなら。 リベルト様が、態々試す理由。

 

 リナリア様を助けるには炎の魔力(・・・・)が必要だったから。

 

 闘技場から出ていこうとするリベルト様に声をかける。勝者と敗者は決まっていない、それなのにリベルト様は力不足だと仰った。

 

 

 つまり、何か条件があるはず。炎の魔力なら、団長以上の者はいない。リベルト様はご自分で助けると仰っていたが、それは本当に可能なのか?

 


 最悪の場合リナリア様は、

 

 

 死んでしまうんじゃ…ないのか。

 

 「なに? お兄さん」

 「わた、しと…私とも戦ってくださいリベルト様!」

 

 部屋に昔から飾っている氷の薔薇。そのヒビは月日を重ねる毎に広がっていっていたのは気付いていた。

 

 魔力の限界が来たんだと諦めていたけど。リナリア様の身に危険があるから広がっていっているというのなら。

 

 

 「…あなたが?」


 驚いた目を向けられても私は引くという選択肢はなかった。あの日のリナリア様の顔が頭から離れない。

 

 浮かんで、浮かんで。

 そして、強い願望に駆り立てられる。彼女に謝りたい、彼女のそばにいたい、彼女に笑ってほしい。いつだってそうだった、挫けそうな時、私を立たせたのはいつだってあの日の記憶だった。


 「はい」

 

 魔力は桁違い。私とリベルト様には大きな溝がある。放出される魔力だけで、私の足は震えるし、手も震える。

 

 でも、逃げない、逃げたくない。

 

 やっと見つけた手がかりを。

 

 「ノアル…お前、何言って…」

 「殺す気で、戦って下さい」

 

 戦うんだ、戦え、私。

 どれだけ力を持ってたって子供(・・)だ。その子供(リベルト)に、大人達(私達)が勝てないなんて。第二のリナリア様をつくるつもりか。

 

 立て、立て、逃げるな。

 

 

 「ふーん、別にいいけど」

 

 

 私はこの十四年間ずっと、決めていたろう。

 

 

 

 

 もう、彼女を独りにはしない。

 

 リベルト様を独りにもさせない。

 

 

 だから、私は────。

 


 

  

  

 

 

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