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氷の薔薇と少年《ノアル》

※初のノアル視点になります。



 リナリア様と同じ色を持つリベルト様を見て私は震えた。そして、嫌悪した。何一つ変わらないのかと、あの日の誓いを忘れたのかと。



 団長に微笑むその姿が、懐かしく感じた。微笑む意味合いは違ってもその微笑み方はあの日私が覚えている彼女(リナリア様)に良く似ていたから。

 

  ─────


 私が彼女に出会ったのは今から十四年前だった。私が七歳の時彼女は十三歳で、迷子になった私のことを困惑した様子で見ていた。

 

 「…っ」

 

 泣きじゃくる私を心配そうに見るのに、距離は遠く。冷たそうな薄い青い目が私を見つめ唇を噛み締めては私に伸ばしかけた手を引っ込める。

 

 「…ごめんなさい」

 「っふぇ」

 「貴方の力にはなれないの、本当にごめんなさい」

 

 開いた距離はたかだか数メートル。その距離でやっと聞こえる声で彼女は本当に申し訳なさそうに眉を下げる。

 

 「ぅうう」

 

 心細かったのだ。母や父がいない初めて来た知らない土地で、一人なのが。誰かに手を取ってもらいたかった、抱きしめて“大丈夫”だと言って欲しかったんだろう。あの日の私は。

 

 

 だけれど、彼女はそれをしてくれなかった。申し訳なさそうに、私よりも苦しそうに悲しそうに距離を取る彼女。

 

 他の人が私を無視する中彼女だけが私を見てくれた。泣きじゃくる私を心配し、他の人とは顔付きの違う私をじっと見ていた。

 

 人の波は不思議と、彼女と私の間を通ることはあっても彼女に話しかける人はいなくて。私の近くを通る人はいても彼女の周りはまるで何かの壁があるように空いていた。

 

 

 不思議だった。ずっと泣きじゃくるだけの私をどうして距離を取るのに一緒にいるのか。

 

 まるで、見守るように見つめ、仕切りに謝るのか。

 

 いつの間にか涙は止まっていて、私は彼女と話がしたかった。望んだことを何一つしてくれなかった彼女。

 

 それでも彼女は私を一人にしようとはしなかった。

 

 歩み寄り手を伸ばした幼い私。

 

 

 それを彼女は怖い顔で「来てはダメ」だと距離をさらに取る。近寄れば逃げ、私が逆に距離を取れば心配そうに近付いてくる。

 

 「なんで逃げるの? ノアと話そ?」

 「…ノアって言うの? 話したいのはそうなんだけど…近づいてはだめなのよ」

 

 泣き止んだ私にホッとしたように彼女は笑う。綺麗な白雪の髪がきらきらと光を受けて輝いた。

 

 私は確かにあの日、彼女に恋に落ちたのだ。年の離れた彼女に。冷たい印象を受ける目が優しげに緩むのが嬉しかった。

 

 ノアと私の愛称を呼んでくれるのが嬉しくて、その白雪の髪に触れたかったのを我慢して私は彼女と話しをすることを選んだ。

 

 

 「じゃあ、近づかないから話そ?」

 「…ええ、いいわ。近づかないのなら」

 

 人気のない広場で私達は距離をとって話をした。他から見たらおかしな光景に違いないだろう。でも私はそれでも良かった。彼女と話せるならば。

 

 

 「なんで、近づいたらダメなの?」

 「え?」

 「ノア、お姉ちゃんと手繋ぎたい…」

 

 でも我儘を言ってしまった。どこまでも優しくて、私を傷付けないように彼女は自分を律していたのに。

 

 

 私が、彼女に聞いたのだ。

 

 

 「私の魔力ね、氷なの」

 「氷?」

 「水のね? 上位で…えっと、水よりもずっと強い魔力なのよ」

 

 なぜ、魔力の話になったのか分からなかったが、聞いたことのない話は私の子供心を擽って。

 

 初恋とも言える感情のままに彼女に強請った。

 

 「なにか、魔法みせて! 」

 

 優しい彼女。どこまでも自分を犠牲にして周りを守ろうとした彼女。

 

 その事実を知ったのは彼女を私が傷つけた後だった。

 

 「…いいわ」

 

 白い(もや)のようなものが彼女の白魚のような手に集まり、薔薇の花を象って、薄らと青みがかった氷の薔薇が生まれた。

 

 

 綺麗な綺麗な氷の薔薇は人の熱でも溶けはしないと彼女は言った。私はそれが欲しくて、近付いてはいけない“約束”を違えた。

 

 

 悪いのは私だった。

 幼い私が好奇心のままろくに考えもせず、強請り、手を伸ばした。

 

 「ダメッ!」

 

 焦ったような声がすぐ近くで聞こえて、私はその場にヘタリ込んだ。手が震え、足が震え、血の気が引いていく。

 

 

 訳が分からない、だけど、とても怖くて、怖くて。彼女から受け取る事の出来た薔薇を思わず投げ出してしまったんだ。

 

 ぱきりと小さなヒビが入った氷の薔薇はレンガの上をコロコロと転がり止まって、顔を真っ青にした彼女は私の顔を見て泣きそうな表情を浮かべ、私から走り去っていく。

 

 軽い足音が遠のく中。私だけが分かってなかった。なんで約束したのか、なんで距離を開けていたのか。

 

 優しくしてくれたのに。楽しかったのに。綺麗だったのに。私が約束を破ったから。彼女を傷つけてしまった。

 

 それから唖然とする私を見つけた母と父に抱きしめられながらあの氷の薔薇を私は持ち帰った。

 

 まるで彼女の様に綺麗なそれは、美しい形を失わず、ヒビが入ってしまっている。

 

 それが本当に彼女の様だと、思ったのだ。

 

 ───────

 ────

 

 私が火の魔法に適性があると知った時、とても喜んだ。風の属性の方が農業には役に立つのにと両親が悲しむのも見て見ぬふりして。

 

 火の魔力が普通より強かった為、魔法学校に入学することが決まった私はそこで彼女を再び見ることになった。

 

 

 私が十歳。彼女が十六歳…卒業を控えた彼女は一人ではなかった。

 

 

 「あの、白い髪の人って誰ですか?」

 「ん? 新入生かな? 彼女はリナリア・シャーベルアイル。シャーベルアイル伯爵家のご息女で…魔女って言われているんだよ」

 

 優しそうな先輩である学生は幼い私に彼女の…リナリア様のことを教えてくれた。魔力が多く生まれたこと。生まれ付き氷の魔力を放出していて、人を傷付ける事。

 

 

 そして、リナリア様がずっと一人だった事。唯一、一緒に居れるのは同学年のタディオンという炎の魔力を持つ婚約者だけだということを。

 

 「他の人が近づくとどうなるんですか?」

 「睨まれて近寄らないでくださる?って怒鳴られるよ。だから君も近づかないことだね」

 

 私は遠くから彼女を見た。一人で食事をとる彼女。寂しげなその目に映りたくて、なんでもいいからそばに居たくて。

 

 

 だから、決めたのだ。

 

 

 誰よりも魔法を学ぼうと。

 魔力が足りないのならそれ以上に魔力操作を学ぼうと。彼女が傷つかないように、人から自ら距離を取らずに済むように。

 

 

 微笑んでノアと呼んでほしい。あの日の氷の薔薇のお礼が言いたい、そんな想いを飲み込んで。幸せそうに婚約者に微笑む彼女を守ろうと決めた。


 

 

 

 自室に飾る瓶に詰められたあの日の氷の薔薇は今も枯れない。ただ、ゆっくりとそのヒビは大きく…なっていく。

 

 

 その理由をその時の私はまだ、知らずにいたのだった。

 

 




※ここまでの大雑把なキャラ説明※


《タディオン》二十七歳

リナリアに罪悪感と方向のおかしな恋愛感情を持っている。ひねくれてる。炎の魔法では最強と言われており、つけられた名は炎王(えんおう)。最悪な形でリナリアを傷つけた、無自覚の最低男。炎の魔法師団(マジェル・べジェット)の団長をしている。リナリアが眠って以降、実家とは疎遠になっており魔力放出を抑え込むことすら満足にできなくなった。


《ノアル》二十一歳

リナリアが初恋。十四年片想いを続けており、生きているのだと信じて探し続けている。火の魔法は普通よりも強いがタディオン(炎の魔法)には遠くおよばない。だが魔力操作はタディオンよりも上。炎の魔法師団(マジェル・べジェット)の副団長。

七歳の頃に他国から移住してきた。その際に迷子になりリナリアと出会った。


《リベルト》十歳

唯一自分と同類であるリナリア()と話がしたい為に目覚めさせる方法を探している…なにか、考えがある模様。氷の魔法では最強の存在(?)

無邪気な性格。両親とカルラ以外の人とあまり関わったことがない。



《リナリア》十七歳

(氷の中で眠ったまま成長していない)


タディオンに盲目的とも言える恋愛感情を持っていたが、本当は全てを知っていた。愛ゆえに自分を見てくれるまで待とうと思っていたものの耐えきれずタディオンに別れを告げ十年前に氷の中で眠りについた。以後目覚めてはいない。魔力放出が凄まじく、他者を傷付けてしまう恐怖と一人は嫌だという気持ちがせめぎ合っていて、孤立していた。

その事もあり家族以外で唯一大丈夫なタディオンに甘かった(?)

冷たい態度と容姿、魔力放出が相まって学生時代は裏では魔女と呼ばれていた。

氷の魔力が強いのと、炎王の婚約者だったこともあり卒業後は氷姫(ひょうき)と呼ばれていた。



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