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痕跡を追った先に《リベルト》


 お父様とお母様に頼み込んで、それからは僕は屋敷にある本を全部僕の部屋に集めてもらった。たくさんの本を読めば何か分かるかもしれない。どうやって解けない氷の魔法をお姉様が覚えたのか分かんない。

 

 

 だってお父様が言うにはお姉様以上の氷魔法師がいなかったって言っていた。お姉様は僕と同じで魔力が溢れやすい体質だったみたいで、知り合いも少なかったらしい。それって人伝いじゃなくほかの何かで知ることが出来たってことでしょ?

 

 「リベルト様、そんなに沢山…大丈夫ですか?」

 「うん、別に平気だよ」

 

 本を手当り次第に読んでいく。お父様は僕らの魔力放出がどうにかならないか調べてくれてたみたいだ。だからどの本も氷魔法についての物。

 カルラに入れてもらった紅茶を口にしながらページをめくってみる。これは氷魔法についての考察だけど目的の事は書いてないね。

 

 こっちの本は氷魔法に至るまでって題名で氷魔法を求めた人の論文かな? 水魔法の上位が氷だって言われているけどこれも関係ない。

 

 本の量はとてもじゃないけど一日では読み切れないと思う。お姉様が物心ついた時から集め始めたらしいから仕方ないけど。

 

 氷魔法の魔法書、水魔法と氷魔法、炎と氷、氷魔法を極めた男…うん、関係なさそうだけど離れきってるわけじゃない本ばかりだ。

 

 本を調べ始めてから数日が経って僕はふと、カルラに声をかけた。

 

 「…ねぇ、カルラ」

 「はい?」

 「カルラはお姉様がよく読んでいた本って知ってる?」

 

 聞けばカルラの眉が何故か下がる。そして悲しそうにしつつも僕のそばに来て本を一緒に確認していく。

 

 「この屋敷に来たのは十歳だったんです。お嬢様も十歳の時で…その…お嬢様の魔力放出は私には無理でした。私はお嬢様が怖くて仕方なかったんです。そばに居るのもやっとで…」

 

 僕の知らない昔のカルラと、僕の知らないお姉様の話を僕は聞いていた。お姉様の魔力は駄目だったんだ…カルラ。なんで僕のは平気なんだろう。

 

 「だから、私がお嬢様に近付いてお話ししたのは一度だけでした…その時お嬢様は文字の読めない私に本を読んでくれて…」

 

 そこで話を切ったカルラは懐かしそうに一冊の本を沢山の本の中から取り出して僕に見せてくれる。


 「こおりのおひめさま?」

 

 「はい、それが私が知る中で最もお嬢様が大切にしていた本でした。私にお嬢様が読んでくれたのもその本です」

 

 カルラが渡してきた本は薄い子供向けの本だった。それも文字が読めない子供が読んで文字を覚えるようなそんな絵本。

 

 表紙には青い髪の女の子が一人ぼっちで座って泣いている絵が書いてある。僕、この本読んだことないな…お父様達は僕に本を読んでくれたりしたけど…。

 

 

 「お嬢様の事を思い出してしまうので旦那様と奥様がしまわれていたのです」

 

 「だから僕見たことないんだね?」

 

 「ええ、それと…内容が辛いものがありまして」

 

 カルラはそう告げて元いた通り壁の方へ立つ。僕は手元にある本のページを捲ってみる。

 

 綺麗な青が目について、悲しそうな女の子の絵が書かれていた。

 氷の国のお姫様が主人公らしく、彼女がどんな子でなぜ一人なのかが数ページに渡って絵と一緒に書いてあった。僕は内容を目で追いながらもページを(めく)っていく。

 

 何枚捲ったのかな。一人だけだったお姫様のそばに一人の男の子の絵が描かれるようになった。そこから大きく話は変わっていく。

 

 相手は炎の国の王子様で、国一番の炎の魔法を使うことが出来ると書かれていてその髪は燃えるような赤色。その王子様はお姫様の手を握って唯一の友達になってくれると言った。

 

 ほかの人がお姫様を怖がる中、その王子様だけがお姫様の事を怖がらずそばに居てくれた。

 

 お姫様は王子様が本当に大好きになり、王子様もお姫様を大好きだと言った。

 

 だけどお姫様はある日街の中で触れた人を凍らせてしまった。みんながバケモノだとお姫様に言ってお姫様は檻の中に閉じ込められてしまう。

 

 それからお姫様は王子様と会うことが出来なくなった。毎日会っていた唯一そばにいてくれた人を思ってお姫様は泣いて泣いて、最後は自分の事を自分の魔法で氷に閉じ込めた。

 

 もう、ほかの人を傷つけないように。バケモノと言われてしまった自分を王子様が嫌うんじゃないかと恐れて。

 

 誰にも溶けない氷。命を魔力に混ぜて作った氷は、冷たくなく、どんな炎の魔法でも溶けなかった。

 

 王子様はやっとお姫様に会うことが出来た、そして檻に大きな氷の中で眠るお姫様を見てしまう。

 

 王子様はとても悲しみまた話したいと会いたいとその氷に触れて炎の魔法を使う。

 

 だけどそれでも氷は溶けなくて──。

 

 

 「っカルラ! お父様達を呼んで!」

 「は、はい」

 

 カルラに声をかけてから先をまた読んでいく。もしかしてと(はや)る気持ちを押さえつけて、一文字一文字を読み込んでいった。

 

 王子様はとても悲しんだ、悲しんで毎日毎日炎の魔法をかけ続けた。でも氷はそれでも溶けない。だけど遂に王子様に婚約をする話が上がり、お姫様の元に最後だと王子様がやって来る。

 

 お姫様よりも三年ほど歳をとった王子様は最後だと全ての魔力に全ての思いを乗せて炎の魔法を使った。そして王子様は無意識に自分の命を魔力に変え、その炎に混ぜた。

 

 

 炎は青色になり(たちま)ちお姫様の眠る氷を包んだ。そして何をしても溶けなかった氷が溶けていく。

 

 青色の炎は何故か熱く無いこと、そしてお姫様はやがて氷から解放されて王子様の腕の中に倒れ込む絵が描いてある。

 

 お姫様は凍らせてしまった人の元に王子様を案内して、謝り、許される。

 

 そして王子様とお姫様が婚約式をして沢山の人に祝福されこの絵本は終わる。

 

 

 冷たくない、氷はお姉様の氷と同じ。なら王子様が使った熱くない青色の炎は?

 

 お父様達が慌てて僕にどうしたんだと聞いてくる中、僕は笑った。ほら、やっぱりお姉様は起きるんだ。

 

 

 「お父様、お母様」

 

 「ど、どうしたんだリベルト」

 「何? お母様に聞かせて頂戴」

 

 「この国一番の炎の魔法師は誰ですか?」

 

 僕は嬉しくて嬉しくてずっと笑顔を浮かべていた。だからお父様達がなぜ怖い顔をするのか、分からなかった。

 

 

 嬉しいことのはずなのに。お姉様を起こせる方法が分かったというのに。お父様とお母様とカルラは怖い顔をしたままだった。

 

 

 

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