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【氷のお姫様】


 お姫様はいつもひとりぼっち。

 

 氷のお国の唯一のお姫様。


 国で一番の魔力を持っていて、その魔力は周りの人を怖がらせてしまうのです。

 

 「こわくないよ、なにもしないよ」

 

 お姫様がそう言っても怯えた人は逃げていくばかり。

 

 「おはなしがしたいな」

 鏡の前で沢山練習した笑顔を浮かべて話しかけても怯えてしまって話など出来ません。

 

 いつもひとりぼっちのお姫様、どれだけ泣いても涙が魔力で凍って床に落ちるだけ。どれだけ怖くない存在だと伝えても、変わりませんでした。

 

 そんなお姫様を見かねて、王様は他国の王子様をお姫様に紹介しました。

 

 真っ赤な髪と瞳の王子様。隣国の炎の国の一番の魔力を持っている王子様は同じであるはずなのにお姫様と何もかもが違っていました。

 

 王子様にはたくさんの友達がいたのです。そしてお姫様にも王子様は手を差し出して笑いかけてくれました。

 

 両親以外の初めての笑顔でした。

 

 「僕と友達になりませんか?」

 「ええ!もちろん!」

 

 お姫様はとても幸せになりました、大嫌いだった氷の魔力も王子様が綺麗だと褒めればそれは特別なものへと変わります。

 

 春も夏も秋も、力が強くなってしまう冬でもお姫様は幸せに笑っていました。誰も友達のいなかったお姫様はたった一人の友達が大切でした。

 

 お姫様はそんな、唯一の友達が大好きでしたが、王子様が別の女の子と話しているのを見て何故か泣いてしまいます。

 

 「私は私がわかりませんっ、何故涙が出るのでしょう…あなたは大切な友人な筈なのにっ!」

 

 王子様は宝石のような涙を流す彼女の手に口付けをしました。それは今まで無かったものでした。

 

 「素直な貴女がどうしてこんなに愛おしいのでしょう」

 「愛おしい…ああそうね、そうなんだわ、私も貴方が愛おしいの」

 

 王子様の唇が触れた手を優しく撫でてお姫様は笑います。周りの人が羨むような、そんな二人。

 

 

 けれど。

 

 

 王子様が帰国することになりました。国で戦争が始まったのだと言います。王子様が帰る馬車を見送ろうとお姫様は街に向かいます。

 

 沢山の人の中、王子様に一言伝えたくて。人にぶつからないように気をつけながら、馬車を追いかけて。

 石につまずいて転んでしまいました。

 

 転んだお姫様は遠のく馬車を見ることしかできません、それを周りの人は見てるだけ。

 

 でも一人の男の子がお姫様に手を差し伸べます。

 大丈夫?と心配してくれる男の子に大丈夫よとその手を取らず立ち上がろうとしましたが、少しふらついたところを支えようとした男の子にお姫様の手が触れてしまいました。

 

 (たちま)ち、悲しみにくれるお姫様の心が手を伝わり、怖がっても近寄ってくれた男の子の体を凍らせてしまいます。

 

 周りに悲鳴が響きます。

 

 化け物だとたくさんの人が罵ります。こんなことをする気はなかったのだと叫んでも誰も聞いてはくれません。

 

 逃げ出そうとする彼女を沢山の男達が捕まえようとします。

 

 「近寄らないで!」


 お姫様がそう叫ぶとお姫様を中心に氷の花が咲きます。そしてそれに触れた人々は凍りついてしまうのです。

 

 やがて迎えに来た王様もその姿を見てお姫様を塔へと閉じ込めることしか出来ませんでした。 城に帰る馬車の中、外から聞こえるのは沢山の罵りの言葉でお姫様はずっと顔を俯かせ涙を零します。

 

 鉄格子が窓にはめられた檻のような部屋でお姫様はひとりぼっち。触れるだけで凍らせてしまうようになったお姫様の世話をしようとする人が誰もいないのです。

 

 お姫様は泣きます。毎日毎日泣きます。凍らせてしまって人や、もう会えなくなってしまった王子様を思って泣くけれど。

 

 気づいてしまったのです、この手では王子様に触れれない。王子様に嫌われてしまうと。

 

 心が凍るように部屋も凍っていきます。

 

 「傷つけることしか出来ないのならいっそいないほうがいい」

 

 お姫様は自分が凍っていくのが少しも怖くありませんでした。

 

 

 「きっと私はバケモノなの、お父様とお母様の子供に取って代わってしまったの」

 

 お姫様は凍っていく中、そっと目を閉じました。

 

 

 

 王子様が来たのはそれから一年後の事です。休戦になり、直ぐにお姫様に会いに来ました。

 

 けれどずっと会いたかったお姫様は塔の檻のような部屋で一人氷の中で眠り続けます。

 

 その氷は誰も見た事のない、冷たくなくどうやっても解けない氷でした。

 

 炎の国で一番の力を持つ王子様がその炎で氷をとかそうとしても溶けることはありません。

 

 王子様はとても悲しみました。優しいお姫様の事を思い返して諦めることも出来ず。毎日毎日氷を溶かすため炎を生み出します。

 

 時間がある限り炎を氷へと当て続けました。

 

 三年がたった頃、年頃をすぎた王子様に婚約の話が上がります。王子様の父親が取った処置でした。

 

 王子様はそれでもお姫様のことが忘れられませんでしたが炎の王様は条件を与えました。

 

 「半年後、お前の婚約式を開く、それまでに氷の姫が目覚めるなら氷の姫と、目覚めぬのであれば私の用意した娘と婚約してもらう」

 

 王子様はもう終わりだと一人部屋で泣きます。三年も待ったのだと。三年も魔法をかけ続けた。それでもお姫様は目覚めず、美しいお姫様はそのままに自分だけが歳をとる。その恐怖が確かにあったのです。

 

 案の定お姫様は変わらず眠り続けたまま数ヶ月がすぎ、国に帰らねばならぬ最後の日がやってきました。

 

 王子様は最後だからとありったけの魔力を注いだ炎を出します。けれどやはり溶けることはなくて。

 悲しみにくれながら王子様はお姫様との思い出を振り返ります。

 

 大切だったのです。そばにいて笑ってくれることがとても幸せで、悲しみにくれた顔が花のように微笑む姿が美しいと本当に王子様はすきでした。

 

 「もう、君には会えないのかい」

 

 「もう、君に名を呼んでもらうことは出来ないのかい」

 

 王子様が氷に触れて泣き崩れます。それはお姫様の前で初めて見せた涙でした。

 

 王子様の手にその涙が落ちて氷につたいます、もう魔力もない彼の手が青く燃え上がりました。驚いて手を引っ込めましたが、その火も付いてきます。

 

 熱いと思うことはありませんでした。ただ初めて見る青い炎の美しさはまるでお姫様への自分の気持ちのようにも思えたのです。

 

 王子様はその炎を纏ったまま手を氷に触れさせると、青い炎が氷を溶かしていきます。

 

 涙に濡れた顔が笑顔を浮かべ、美しい氷を美しい炎が溶かすさまを見ながら、一歩、また一歩と部屋の中に入り、お姫様に近づきます。

 

 泣いた顔のまま凍っているお姫様に辿り着き、その冷たい体を王子様はやっと抱きしめると、お姫様はゆっくりと目を開けました。

 

 「王子様…?」

 

 信じられないものを見るようなお姫様に王子様は泣きながら笑って言いました。

 

 「愛しい愛しい人、どうか私の妻となってくださいませんか」

 

 それからはお姫様も王子様も大忙しです。凍らせてしまった人々を溶かして周り、謝罪をし、許してもらうまでにも時間がかかりましたし、婚約式も大変でした。

 

 けれどお姫様は、いつだって笑顔で。その隣にいる王子様もそれに負けないほどの笑顔でした。

 

 お姫様が不安に思っていた人に触れるだけで凍ってしまう力も無くなり、沢山の友達も出来ました。

 

 王子様はいつか王になります。

 お姫様はいつか王妃になります。

 

 でもきっと二人はこれからも幸せなのでしょう。

 

 

 

 

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