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涙の葬儀、笑顔の旅立ち《???》

最終話です。


 たくさんの黒の列が一つの棺桶へと向かっていく。真っ白な花を持った人たちが悲しげに、寂しげにその棺桶が入っている穴へと花を落としていく。

 

 「今日は急な葬儀となったのにも関わらず、これだけの人が参列してくださり、娘も浮かばれるでしょう。足を運んでくださり、ありがとうございます」

 

 軽く目を伏せ、シャーベルアイル伯爵は自らも胸元に指していた花を棺桶の上へ落としていく。

 

 「リナリア様…ふ、…ぅ」

 

 メイド服ではなく、黒のドレスを着たカルラが泣き崩れ、人々が花を落としていく様を呆然と見つめる。

 どうやらまだ、信じられていないらしい。

 参列者達は彼女を気遣うように、少し目を向けてから、また祈りを捧げる。

 

 

 やがて黒の中に赤が現れた。綺麗に撫でつけられた真っ赤な髪が柔らかな風に少し揺れ、少し隈の目立つ顔は、疲労が見える。

 

 「リナリア…今までありがとう」

 

 愛しげで切なそうなその声に胸が締め付けられるように痛む。ああ、彼は悲しんでいる。悲しんでくれて惜しんでくれている。そう思うだけて胸がいっぱいになる。

 

 「タディオン様」

 白に近い銀髪の少年がそんな彼に声をかけ、少年は寂しそうに口を開いた。

 

 「お姉様のこと、どう思っていたんですか?」

 「…」

 

 赤髪の彼は少し目を伏せて、何かを思い出すように、目を開けた。

 

 「愛しているよ、誰よりも」

 「…死んじゃったのに?」

 「ああ、今も愛している。そしてこれからも彼女の事は忘れないし愛し続ける」

 

 少年はそれを聞くと嬉しそうに笑って、こちらをちらりと見る。ああ、私はきっと変な顔をしているんでしょう。

 それでも、私は何も言いません。少年も何も言わず、赤髪の彼は私に気づくこともない。

 

 葬儀は着々と進み、黒の列が黒の輪となり、火が花の上に落とされる。その火は少し揺らいでいて、けれども、しっかりと、リナリアの生を燃やしていく。

 

 さようならリナリア。

 今までありがとう…そして、ごめんなさい。

 

 赤髪の彼のかつての炎のような優しい日は全てを燃やし尽くし、灰だけが残る。これはきっと赤髪の彼の父親の火だったのだろう。よく似ているから。

 

 お悔やみの言葉をシャーベルアイル伯爵にかけて、参列者達はリナリアを惜しみ、ばらばらと帰っていく。軈て赤髪の彼と少年、シャーベルアイル伯爵にカルラと私だけになった。

 

 周りに誰もいないことを確認すると私はすぐに駆け出した。

 

 しゃらしゃらと私の手首で淡い青の光を放つブレスレットが音を鳴らして、彼は私に気づき、顔を上げる。

 

 黒のベールを脱ぎ捨てて、悲しく疲労した彼の元へ走る。

 

 思えばこんなことをしたことなんて無かった。どれだけ駆け寄りたくても私という生き方がそれを止めていた。けれど。

 

 

 もう、死んでしまったのだ。リナリアは。

 

 死ぬべくして、死んでしまった。

 

 「リナ、リア?」

 

 染め上げた見慣れない私の青い髪は短く風にふわりと踊る。赤髪の彼…タディオン様に抱きついてその熱を確かめるように顔を寄せた。

 そして惜しむように離れ、ドレスの裾をつまみ、挨拶をする。

 「はじめまして(・・・・・・)。私の名前はリア・メルノ…貴方様の名前をお聞かせください」

 

 タディオン様の涙が頬を流れるのを見た。 嬉しそうに訳が分からないと彼は涙を流し、名乗ってくれた。

 

 「…俺は、タディオン。何も持たない、ただのタディオンだ」


 跪き、彼は私の手をとり、指先に口付けを落とす。そしてすぐに私のことを抱きしめてくれて、噛み締めるように私の名を呼んだ。

 

 「リア…リアっ」

 

 シャーベルアイル伯爵…お父様が憎らしげにタディオン様を睨み、それをリベルトとお母様が慰めてカルラは複雑そうな顔をしながらも良かったですねと笑ってくれる。

 

 「リア、そう言えばこの葬儀は何だったんだ?」


 満足したらしいタディオン様が私の顔を見ながら問いかけてくるので、私はタディオン様が立ち去ったあとのことを思い出しながらその問に答えた。

 


 ─────────────

 ──────

 

 リベルトは──悲しそうに。口を開いた。

 

 

 「お姉様は、もう結婚は出来ないよ」

 「…」

 

 私はぐっと、唇を噛み締めてその事実をちゃんと向き合うために頷く。私はその事実から目をそらしてはならない。十歳になったという、私の。聡明な弟は。

 初めて言葉を交わした弟は。

 

 自分勝手な姉のために涙をこらえて笑っているのだから。

 

 「お姉様は、行方不明扱いになってるんだ」

 「…ええ」

 「陛下もその事実を知っているし、他の貴族達も知っているんだよ。…タディオンとの婚約を解消する理由としてそれを挙げたから」


 悲しげに寂しそうに告げるリベルトにただただ申し訳なさが胸を占めた。ごめんなさい。本当に。せっかく会えたのに、話せたのに、生きているのに。

 

 「でも、お姉様はこの屋敷で眠っていて、その容姿は十年前のまま。お姉様はこの屋敷からもう出れないんだよ、じゃなきゃ、お姉様は…」

 「リベルト…」

 「お姉様は本物のバケモノとして見られてしまう、実験のためだけに捕まってしまう。陛下に嘘をついてしまったお父様もお母様も」

 

 分かってはいたのです。お母様とお父様は私の元へ会いに来ていない。それはきっと、私の今後をどうするのかを話し合っているのだと。

 

 「お姉様は…多分、死んだことになる」

 

 目を閉じればこの屋敷で過ごした日々を思い出せる。優しい両親に育てられ、近寄ることも話すことも出来なかったけれど気にしてくれる執事やメイドやコックに庭師…恵まれていたの。分かっている。怖くても気にしてくれる人がいたこと。本心から私を愛してくれる両親がいたこと。

 

 でも私はそれに満足出来ず、タディオン様との愛がある未来を望み、自ら眠りについた。───それは確かに自分を殺す行為だったのです。

 

 この力はきっと許されない力。溶けない氷など、あってはならない。時を止める氷などあってはならない。あってしまったなら、それはきっと、新たな争いの火種となってしまう。

 

 「お姉様は…僕のお姉様は」

 私が死んだことになるということはもう姉でいられないということになる。お父様たちは優しいから私の名をとり、そして代わりに外に家を与えてくれるでしょう。

 

 きっと、そうして私を守ろうとしてくれるでしょう。

 

 

 悲しいほどに優しく深い愛に申し訳なさとかそういうのよりも、感謝が浮かぶから不思議。

 

 「ごめんなさい」

 「僕はっ僕は…お姉様に幸せになって欲しい。タディオンとの未来がお姉様が願う幸せなら…僕はそれを掴んでほしい」

 

 「タディオンに任せて安心はできないけど」とリベルトは吐き捨てるように言ってから私に抱きつく。柔らかな私と同じ銀の髪を撫でてその温かな熱を離したくないと私も抱きしめる。

 そんな中静かに扉が開けられて、お父様とお母様が部屋に入ってくる。二人共悲しそうではあるけれど微笑んでくれていて、涙が思わずこぼれた。

 「お母様…お父様…私…私は」

 

 「リナリア。君は私たちの宝だよ、大切な大切な娘…私はタディオンのことが気に食わないが、それをリナリアが気にする必要はない。君が幸せだと思うことを選んでほしい」

 「不器用な私のリナリア…タディオンの行いに何度も泣いてるのにどこまでも諦められず真っ直ぐなのは…きっと私に似たのね」

 

 全てを受け入れるように二人はリベルトごと私を抱きしめてくれた。

 

 温かなその熱に、優しい言葉に申し訳なくて、でも、嬉しくて泣いた。

 

 昔みたいに、子供みたいに。

 

 お父様、お母様。ごめんなさい。ごめんなさい。私はタディオン様が好きです、愛してます、諦められないし…諦めたくないんです。

 

 お父様とお母様とリベルト。優しくて大切な大切な家族。きっとたくさんの人を騙し、傷つけてしまうだろう私は最低だろう。

 

 

 それでも私は彼がいい。

 それでも彼のそばにいたい。

 

 好きなんです。愛してるんです。

 だから…。

 

 「リナリア、私達からプレゼントがある」

 お父様が綺麗な木箱を泣き顔のカルラに持ってこさせその箱を開ける。

 

 白の布に大切に包まれたそれを取り出してお父様は私の左手首に付けてくれる。綺麗な銀のブレスレットはしゃらしゃらと動かすと不思議な音が鳴る。

 

 綺麗に真っ白だった石が青く染まり、私は気づく。

 

 「魔力…が」

 

 「これはね、私とリベルトとで作ったんだ。リベルトがこの石を見つけてきてくれてね、ブレスレットへと調整した。魔力が無くなるわけじゃない、ただ、周りに出てしまう魔力をその石の中に貯めるという単純なものだ。リナリア…」

 

 お父様は嬉しそうに私のほほに手をあててくれる。口を開いては閉じて、感謝だとか色々な感情がぐちゃぐちゃで。

 

 「生まれてきてくれてありがとう…幸せにおなり」

 「…はい」

 そうしてリナリア()は死んだのだ。両親と弟の深い愛の中で。

 

 

 ─────────────

 ────

 

 タディオン様はすぐにお父様へと目を向ける。お父様は不機嫌そうに彼へ視線を返すと、口を開いた。

 

 「リアはしばらく家で預かる、君は国外でリアとの安全な生活をするために先に国外に出なさい」

 「伯爵…」

 「リナリアは最低な男に引っかかって亡くなってしまったけど、リアはそんな目にあって欲しくない。分かっているね?」

 

 タディオンはその言葉に何度も頷いて、何度も何度もお礼を口にし、そして私の事をぎゅっと抱きしめて、優しく囁いた。

 

 「リア、愛してる。俺と結婚してほしい」

 「っはい!」

 

 私はタディオン様を愛している。

 誰よりも。何よりも。

 

 その愛は憎しみへとも変わる、いつか、彼を殺してしまうんじゃないかと思うほどに重いこの愛を、タディオン様は受け入れてくれる。

 

 夢見てたものとは少し違うけど、でもタディオン様さえいれば少ししか違わない。だから。私は幸せなのです。

 















 

 ───────────

 

 炎王と呼ばれたタディオンはその魔力を何故か無くしてしまい、ファイアルの名を取り上げられ。その後は国外で伴侶を得て幸せに暮らしたという。

 彼以上の炎を使う者は未だ現れてはいない。

 

 

 氷姫と呼ばれたリナリア・シャーベルアイルは未婚のまま命を落とす。十年もの間、どこへ行っていたかは不明。

 

 リベルト・シャーベルアイルは姉亡き後シャーベルアイル家の唯一の後継として勉学に励み、家を継ぐ。リナリアとよく似た強い魔力を持ち、国王から強い信頼を得ていた。

 だが、彼が二十三歳の時、遠征先から姿を消し、今も見つかっておらずシャーベルアイル家は遠い親戚から養子をとり、今はその養子の血を継ぐ当主となっている。

 

 

 《炎と氷の魔力》から抜粋。 

 

 

 

 


  

 

 

長らくご愛読いただきまして、ありがとうございます。皆様の期待した結末とは異なることもあるとは思いますが、読み切ってくださり、感謝の言葉しかありません。


リベルトがなぜ失踪したのか、などという疑問を抱くとは思いますが。リベルトの話を書くかは特に決めておりません。

語りたいことは沢山あるのですが、ここで締めさせていただきます。


長い期間が開きながらもお待ちくださっていた読者の方々、並びに感想を下さった方々へもう一度御礼申し上げます。ありがとうございました。


記2018/01/14


【完結記念】として活動報告に少しだけ小話を載せています。よければどうぞ。



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