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炎王は気付く《タディオン》


 青い火が燃えている。苦しげに悶え、悔しさに泣くノアルの側で。

 

 俺は唖然とその光景を見ていた。俺よりも魔力の少ないノアルが必死にリナリアの弟に食いつく様を。

 「私は…あの人に…謝るんだ…っ! 謝って、許してもらえなくたって! もう独りにはさせないっ」

 

 許してもらえなくっていい? そんなはず無い。謝って、許してもらってまた、隣に。独りにはさせない、させたくない、もう俺なんかじゃ役に立たないかもしれないが。

 

 「そんな理由(・・・・・)で、あの人を見捨てるなんて絶対にしないっ」

 

 見捨てた? 俺は許されないからと…許されるはずがないと…見捨てた…のか?

 

 「ああ…そうか」

 

 簡単だったんだな。全部。この十年で気付けなかったことをノアルは気付いていたんだな。

 手を見てみる。そしてその手を覆う魔力に苦笑いが漏れた。俺の魔力(コイツ)も気付いていたんだろうか。俺が逃げて、リナリアを見捨てたこと。

 

 

 十年前のあの日、ただリナリアへの思いと全てを失った絶望から目を背けたあの日。

 

 俺は持っていたのに、逃げたんだ。リナリアはきっと泣いていた、俺の残酷さに傷ついて、苦しんで、泣いていた。

 

 俺の十年なんて比べ物にならねぇくらい、きっと、泣いてたんだ。

 

  ─「あなたはずっとあの人を見続ければいい。もうそばに私はいれませんが。好きに生きれば良いでしょう」─

 

 好きに生きればいい、苦しかったはずだ、悲しかったはずだ、それこそ胸が張り裂けそうになるほどに。

 

 「そうか」

 

 なのに、リナリアはそう言った。俺を殺せた筈なのに、殺さず。文句を言って、怒鳴ってしまえば良かったのに、そうともせずに。

 

 「お前は」

 

 俺の出した炎を悲しげに見たその顔は全部知ってたからなのか? そう青い火を悲しげに見るリナリアの弟を見て思う。

 

 青い、火。

 俺の出せない、青い、消えない火。

 

 なあ、それってさ、あの溶けない氷みたいじゃないか。俺はどっかで思ってたんだ、きっと。リサ様に向けた愛は叶わない、だから、リナリアと結婚しようと。

 

 リサ様の代わりをリナリアにさせようとした。それが無自覚な残酷さなら、俺がすべきことは一つだったんだ。

 

 

 

 好きだと、一言いえばよかった。

 

 リナリアと結婚したいと言えばよかった。

 

 思えば婚約が決まったからと、俺はリナリアに結婚したいと口にしたことは無かったと思う。

 

 

 「なぁ、リベルト」

 「…なんですか」

 

 「青い炎はどうやって出せる?」

 

 

 繰り返す? 繰り返す事なんてしない。俺は自分の罪を自覚している、自分の愚かさを理解している。許されない事だと分かっている。

 

 

 だが、それをリナリアと会わない理由にするのは…可笑しいだろっ。

 

 何で、今まで気付かなかったんだ。一年がたつ毎にリナリアの家には行っていたというのに、なぜ。

 

 

 頭を下げても、殴られても、殺されても、一言会いたいんだと会わせて欲しいと口にしなかったんだ。


 「…知らないよ、そんなの」

 

 俺の罪がなんだ、リナリアを変えたのは自分だ、? 結局同じじゃないか! リサ様を愛していた時と同じ。

 

 殿下がリサ様を好きだから、身を引こう? リナリアは俺を許さないだろうから会いに行かない?

 

 そんなの、ただの逃げだった。

 

 

 「ノアル」

 「…なん、ですか」

 「青い火はどうやって出した?」

 「どうやって…答えかねます。私はただ、リナリア様を独りにしたくないそう思って──」


 

 逃げるのはやめにしよう。罵られたっていい、憎まれたっていい、最低だと言われていい。ただ、リナリアを目覚めさせよう。

 

 

 それが俺がリナリアに最初にすることだ。他の誰でもなく、眠らせる原因になった俺が、起こすことがきっと必要だ。

 

 「独りに、か」

 「…?」

 

 リナリアは独りだった事なんて無い。俺が初めてリナリアと出会ったパーティーでだって、彼女は一人じゃなかった。

 

 心細そうに強かに立つ、その姿を心配そうに見つめる、執事やメイドがいた。怖い筈だ、自分よりも遥かに多い魔力を持つ存在が。

 

 それでも心配し、見守るほどに、リナリアを思っていた。

 

 リナリアは独りじゃなかったんだ。いつだって、誰かが彼女を按じていた。

 

 「ノアル、手を貸してやる」

 「…え?」

 「リナリアに謝るんだろ、俺もだ。だから、リナリアを目覚めさせる」

 

 驚いた表情のノアルを立ち上がらせ俺らの言動をじっと見ていたリベルトへ目を戻す。

 

 「なぁ、俺も会いたいんだ、リナリアに」

 「…ふーん」

 

 楽しげな瞳が俺を見て、俺はその目に微笑み返す。もう、悩まない。もう、勝手な気持ちを押し付けない。

 

 リナリア。

 

 俺がお前を起こすから。

 

 

 初めましてから──ちゃんとやり直そう。君を傷付けたことは変わらない、許されない、でも。

 

 それでも、いいから。

 許してくれなくてもいいから。ちゃんと起きろ。(リベルト)が待ってる、両親も待っている、ノアルもお前のことを思ってる。


 お前のそばにちゃんといてくれる。思ってくれるだけじゃなく、そばにいてくれる。そんな存在がこの十年で出来たんだ。

 

 リナリア。俺の大好きな人。

 

 裁くなら、好きにしてくれ。起こした後に全てを聞こう。全力で償おう。

 

 だから。

 

 「頼む…会わせてくれ」

 

 会いに行く。十年前のあの部屋へ、全てが終わり、変わって始まったあの部屋で。

 

 また、君の青い目が見たい。

 

 

 

 

 



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