目覚め
「ねぇ、起きて。」
・・・誰?
「起きてったら!」
頼むよ。もう少しだけ寝させて・・・・
「早くしないと、間に合わないわ!」
間に合わない?何に?
「それは・・・・」
いつもそこで夢は終わる。
こんな夢がここ最近、続いている。
声の主は誰だかわからない。
でも、凄く懐かしく優しい声だ。
できることならずっと聞いていたい。
しかし夢はあっというまに覚めてしまう。
そして、いつもの日常が始まる。
僕はまだ理解していなかったんだ。
この夢の意味を・・・・。
「う~ん。」
うるさい目覚ましが鳴り、目を覚ます。
上体を起こして、欠伸をし、頭を搔く。
現在の時刻は6:50分。いつも起きる時間だ。
まずは、ベッドから降りて服を着替える。
「今日も寝癖がひどいな。」
ブラシで髪を整えて、カバンを持ち一階に降りる。
「おはよう!」
「おはよう!ゆうちゃん!」
「おはよう。悠一。」
父と母に朝のあいさつをして席に着く。
「今日の朝ごはんは何?」
「今日はサラダとスクラブルエッグにベーコンよ。」
「今日はちゃんと野菜も残さずに食べるんだぞ。いつもお前が残すせいで冷蔵庫の中はサラダで埋め尽くされてる。」
「はぁ、朝はご飯とみそ汁だけでいいのに.....」
「駄目よ!普段から野菜をあまり食べないんだから、朝のサラダくらい食べていきなさい!!」
「分かった、分かったよ!」
「ふふ、母さんに口喧嘩では勝てないな。悠一」
「まったくもってその通りですよ!」
どこの家庭でもやっている会話をしながら食事をする。
テレビのリモコンを取り、テレビをつける。
「今日のニュースです。昨日、再び〇×市で行方不明事件が発生しました。このような事件は今月に入って5件目です。....」
「また、行方不明者が出たか。」
「この近くだから怖いわ。近所でも噂になってる。」
最近、ここ〇×市では行方不明者が続出している。行方不明者は年齢も性別もばらばらで犯行の手口もわからず警察も手を焼いている。
「・・・どうせ、すぐに捕まるよ。これまではただ運が良かっただけだよ。」
「そうだといいが....。」
「ゆうちゃん。あまり夜遅くに帰らず、学校が終わったらすぐに家に帰ってきなさい。いいわね?」
「了解。」
正直、自分がこの行方不明者のリストの中に加わるとは思ってないので、僕は適当に流した。
父はテレビのチャンネルを変え、今日の天気を見始めた。
「そういえば、悠一。明日はどこかへ食べに行くか?」
「なんで?」
「なんでって、明日はお前の誕生日だろ?」
「そうよ!明日はゆうちゃんの誕生日なんだから盛大に祝わないと!」
「そんなことしないでも家で祝えばいいよ。僕はそれで充分。おっとやばいもうこんな時間だ。」
テレビに表示された時刻を見て、急いで学校に行く準備をする。
「おっと、もうこんな時間か。私もそろそろ出なければ。」
「お先!行ってきます!」
「いってらっしゃい!気を付けるのよ!」
家を出て、自転車に乗り学校へ向かう。これが僕のいつもの朝の出来事。
そう、こんな平凡な毎日が続いていくはずだと僕は思っていた....。
これが最後の朝の会話になるなんて思いもしなかったんだ....。
「・・ねぇ、あなた」
「どうした?」
「あの子、もう16歳になるのね。」
「・・・そうだな。あっという間だ。」
「あの子には、これからの人生を生まれてきてよかったと思えるような幸せな日々を送ってほしいわ。」
「ああ、私もそう思っているよ。」
「だけど、時々思うの。あの子にこのまま本当の事を言わないでいていいのかと。」
「沙里、そのことについては話し合っただろう?」
「だけど....」
「真実を伝えることが常に正しいとは限らない。その事実がこれから先ずっと悠一を苦しめることになるかも知れない。」
「....そうね。あなたの言う通りだわ。でも、不安になるのよ。最近はあんな事件が続いているから...。」
「奴らの仕業だとは限らない。だけど....一応彼らに連絡をしておくよ。」
「ありがとう。凌平さん。」
「あまり期待するなよ。彼らが助けてくれるとは限らない。」
「それでも嬉しいわ。」
「どうして?」
「あなたもあの子を愛しているのだと分かったから。」
「ふ、まいったな。そろそろ行くとするよ。」
「ええ、いってらっしゃい!気を付けてね!」