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そのきゅうじゅうきゅう
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痛い
熱い
痛いーーー
痛いのに熱くて、熱いのに寒くて、苦しくて。視界の端に映る緋が、私の身体から流れ出る生命を物語る。
誰かが私の腕を強く引いてくれたおかげで、私は死を免れた。私の後ろに立つそのヒトは、『彼』によく似ていた。ううん。『彼』だった。お礼を言いたくて口を開いたけれど、声が出てこない。視界は霞み、身体の内側から襲ってくる寒さが未だ生命の危機は去っていないのだと告げる。
だめだ。意識が落ち、るーーー
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『あ・・・会社に連絡しなきゃ・・・』
こんな時でも彼女の社畜根性は発揮されていた。しかし、そうは思えど身体が動かないのだから連絡は無理である。
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人ごみをかき分けやってきた救急隊員は、腹部を刺され血を流す女性を担架に乗せる。そして彼女に付き添っていた青年と共に病院へと向かった。
彼女を刺した男は警察に身柄を拘束され、駅は再び日常を取り戻した。
戻らぬは彼女の意識ばかりーーー




