そのひゃくなな
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彼女が彼の手を取った同時刻。病院に運ばれ、ベッドへと寝かされていた彼女の身体に異変が起こっていた。
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彼女の枕元に佇む、燕尾服を纏った人影。誰にも視る事の出来ない彼が、彼女に近付こうとするモノを祓っていた。しかし、病室に彼女と彼だけになったとき彼は動きを見せた。
腕を彼女の頬へと伸ばし、彼女の柔らかな頬に指を滑らせる。彼は身を屈め、眠る彼女の顔を覗き込むと、彼女の唇にそっとくちづけを落とした。頬に添えられていた指は緩やかに彼女の喉へと移動し、彼の指先には少しずつ力が込められていく。
『貴女に齎されるモノ凡て、私の手によるものでなければ・・・貴女に訪れる死は私の手によるものでなくては・・・我慢がなりません。貴女を護るのも、貴女を害すのも、私だけで良いのですよ・・・』
その言葉を吐き出すと同時に、彼は彼女の息の根を止めた。彼女と繋がっていた機器がブザーを響かせ、廊下からバタバタと人がやってくる足音が聞こえる。そんな慌ただしい音などには少しも意識を向ける事無く、彼は満足そうに呟いた。
『これで貴女は永遠に私のモノです、お嬢様―――』
彼の口唇は三日月のような弧を描き、そして、姿を消した。
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医師達は残された彼女の身体を調べるも、容体が急変したのだと言わざるを得ない死因に首をひねり、彼女の家族へと彼女の死を伝えた。




