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そのひゃくご
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『彼』が私の傍に居る。『彼』が私の目の前に居る。死後の世界とはこんなにも都合の良い夢を見せてくれる場所なのかと、一種の感動すら覚えた。
「まだ貴女は死んでいませんよ。此処は常世と現世の間の世界」
『彼』が私にそう言った。
「貴女はまだ、『現世』に戻る事も出来ます。まぁ・・・私としては『常世』に来て頂きたいのですが・・・」
彼の口から紡がれ、甘く響く言葉。その甘言は私の思考を鈍らせる。
「私と共に悠久の刻を過ごしましょう?『今』を逃せばこうして会話する事も儘ならないのです。どうか私の手を取ってください・・・(お嬢様)」
最後に囁かれた言葉は聞き取れなかった。けれど、彼が私と一緒に過ごしたいのだと乞うているのはわかった。差し出された彼の手に、私は。
私は、私の中に残っていた迷いも振り払い、彼の手に私のそれを重ねた。
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