そのひゃくさん
「俺達はお前の選んだ路を否定しないよ」
俺は妹の頭を撫でながらそう告げる。お前が幸せならそれで良いんだ、そう、言外に告げる。俺個人としては後ろのヤツに大事な妹を渡したくはないんだけどな。妹がソイツを選ぶなら祝福するよ。だって。お前は大事な家族だから。
『おにい、ちゃん・・・』
泣きそうな表情で、泣きそうな声で、妹は言葉を紡ぐ。
『あのね。私、会社に行く途中だったの。駅に居たの。そしたらいつもの騒めきじゃない声が溢れてきてね、知らない男の人が私に向かってきてて・・・』
途切れ途切れに続く言葉に時折相槌を打ち、先を促す。
『咄嗟の事で動けなくて、でもその時誰かが私の腕を後ろに引っ張ってくれて、その後お腹が痛くなったんだ・・・うん。鋭い痛みと鈍い痛み。それから、そこが熱くなって、目の前が真っ暗になったの。気が付いたら真っ暗な闇の中に居て、でも傍に誰かが居るような温もりがあって。『あの人』が傍に居るみたいな感覚でね、とりあえず真っ直ぐ進んだらお兄ちゃんに会ったの』
おい。途中端折ってないか?まぁ良い。こうして会話しているんだから。
「そうか・・・お前はどうしたいんだ?」
妹が選んだ路を口に出せるように、俺は敢えてそう訊ねた。




