第九章:明かされてゆく秘密
椿目線の話で、椿の両親についての情報がまた一つわかるようになっています。
6時貫目、最後の授業が終わるチャイムが鳴った。
と同時に
「椿、美術室行こ!」
カバンを持って、真理と海那が来た。
早っ!いつの間に準備したんだろう…
放課後、椿のお父さんの情報を持つという海那のお父さんを訪ねる予定だった。
「ちょっと待って」
私は急いで帰り支度を始めた。
「そういえば椎奈は?」
「陸上部!今日から本入部するんだってさー。これから帰り寂しくなるね」
全く寂しそうじゃない口調で海那が言った
今週は仮入部期間だった。
でも、入部届けを出せば
仮入部期間でも入部できる。
真理が言う。
「椎奈、中学入る前から陸上部入りたいっていってたからね。ウチの陸上部強いらしいし、椎奈としては嬉しいみたい」
「椎奈、足早いもんね。体育の時びっくりした。…よし、準備できた。行こ!」
三人で同時に教室を出て、美術室に向かった。
「失礼します」
言って美術室に入った。
美術室には内藤先生が一人椅子に座っていた。
今日、授業で私たちが書いた絵を整理していたみたいだった。
海那が書いた、私の絵があった。写真のような…とは言い過ぎかもしれないが、私の特徴をよく捉えている。
「カナ、絵上手くなったな」
先生が感心したように言った。
海那はちょっと照れたようにはにかんだ。
あ、海那のこんな反応珍しい。いつもだったら自慢するのに…
「ところで…」
先生が真理と海那を一瞥して言った。
「僕が呼んだのは音原さんだけなんですけど… 悪いけど話の間、二人は席を外してくださいませんか?」
「お父さん!仲間外れは酷くな…」
「はいはい、行こ。…勢いでついて来ちゃったけど、よく考えたら椿の家庭事情にこれ以上首を突っ込むのは駄目だよね」
「そんなぁ〜」
嫌がる海那を真理が引っ張って行った。
海那、可哀想に…
あとで慰めてあげよう、うん。
内藤先生が閉められたドアをちらっと見る。
辺りに誰もいないことを確認してから口を開いた。
「さて、何を話そうかな…」困ったように頭をかいて、私を見て懐かしむように目を細めた。
「ギースに、よく似ていますね」
『ギース』とは、私のお父さんの名前だった。
お父さんは私と同じ茶髪で目は碧かった。
内藤先生は黙って私を見つめた。
そのまま沈黙。
1…2…3……
「あの。お父さんのことで何か私に話したいことがあるのでは…?」
気まずくなって聞いてみた。
「あぁ、確かに僕、そう言いましたね。特に決まった話があるわけではないです」
えっ、ないの!?
「ただギースがよく話していた娘さんと、一回ちゃんと話してみたかったんです。結局、何話していいか分かりませんけど…」
申し訳なさそうにして、また頭を掻いた。そしてポツリと言った。
「それにギースとの約束ですから」
「約束?」
「はい。ギースとは私がイギリスにいるときに出合ったって言いましたよね?展覧会で度々ご一緒することがあって…話も合ったのでそのうち、手紙でやり取りすることになりました。」
手紙、というキーワードに引っ掛かった。そういえば、叔母さんの家にも手紙があったな。お母さんが書いた手紙が…
先生が続ける。
「日本で結婚して、子供が生まれたと聞いたときはすごい偶然だと思いました。そのギースの子供が生まれるちょっと前にカナも生まれましたから。椿さんが生まれたときは、僕がイギリスにいたので、日本に帰ってきたら、子供と一緒に会おうって。約束したんです。ギースはもういませんけど、偶然叶っちゃいましたね。
ギース、二人が楽しそうにしてるのにここにいれなくて悔しがってるかな…」
お父さんと内藤先生の間にそんな夢があったなんて…
入学式の日海那が話しかけてくれて…仲良くなった。それは、奇跡みたいな偶然なんだな…
そのまま沈黙…
1…2…
あ、そうだ
内藤先生にも話しておこう。お父さんの死の事。先生はきっと事故だと思ってる。でも、あれは事故じゃない。
「先生!」
「お父さんが死んだ原因の事故のことで先生に話したいことがあります」
そうして、お父さんの死が事故ではなく、他殺であることを説明した。
内藤先生はすごく驚いていたが、冷静な口調で言った。
「ギースの友達である僕としては、ぜひ犯人を探して復讐して仇をとってもらいたいのですが…あなた方の先生としては復讐を賛成することはできませんね。犯人探しも手伝えません。一生徒を贔屓するわけにはいきませんから。ですが…先生として、生徒を守る義務があります。あなたが危険な目にあったら助けますよ。でももしあなたが行き過ぎた行為をしたときには、注意しますけどね」
「はい、ありがとうございます!」
なんか内藤先生らしい返事をもらえて嬉しかった。
大丈夫、私には守ってくれる大人もいるみたいだ。
ここで、気になることが一つだけあった。
内藤先生の話に出てきた、手紙、という単語で思い出した。叔母さんの家にあったお母さんの手紙。そこに書いてあった、両親と祖母の和解。あれは、本当なのだろうか?
話も終わりドアを開けるとドアのすぐ近くに真理と海那がいた。
海那はふてくされた様子で「遅い、二人とも!」
真理は少し疲れた様子で
「海那ずっと文句いってたんだよ」
とぼやいた。
海那をずっとなだめていたみたいだ。
真理、ごめん!お疲れ様…
内藤先生が言った。
「少し時間がかかってしまって、すいません。まだ下校時間まで一時間ほどありますし、部活見学、してきたらどうですか?」
私たちはまだ部活見学をしたことがなかった。
それに、この中学では部活は強制なので入る部活を選ばなければいけないのだった。
まだふてくされていた海那を真理がなだめる。
「部活見学だって、海那。椎奈が部活で活躍してるとこみたいっていってたでしょ?行ってみようよ」
「しょうがないなぁ。行ってみるか!」
と海那。
口調はまだふてくされてるが、なんだか楽しそうだ。少し機嫌がなおったみたいだった。
「いろいろ見てみたいなぁ」
部活見学は私もはじめてで楽しみだった。
「そうと決まったら行くよっ、みんな!」
言って、海那は二人の手を引っ張って走り出した。