第七章:立ち向かう騎士団
椿目線の話ですが、海那メインの話です。
話がそれたように思えますが、繋がっています。事件解決の為に必要な話になっています。それが次の話で分かると思います。こうご期待!
入学式から一週間経って、真理、椎奈、海那、雪の五人で学校に行くのが日常になっていた。
五人とも復讐のことを知っていて、五人とも犯人探しを手伝うと言ってくれた。(雪は傍観者だけど…)
まだ手がかりは見つかっていないが、五人がいるだけですごく心強かった。
ここで問題が一つあった。
真理がいまだに、雪を『女子』と思っていることだ。
あまりに信じこんでいるので、雪も私も本当のことを言えないでいた。
椎奈と海那はこの状況を面白がって、「黙っとこうよ」と言い続けている。
本当にこれでいいのだろうか?
思ってはいるものの、真理が「雪ちゃん」って言って慕っているのをみると、まぁいいかと思えてくる
でも、今日はどこかいつもと違う、変な感じがしていた。
いつもは目立つ位明るく騒ぎながら歩いている感じだが、今日は静かだ。
いつもより、みんな元気ないようなに見えた。(雪はいつも通りだが)
?
そういえば、いつもは一番喋る海那があまり話していない。時折、話に相槌を打っているが、自分から話題を提供することがない。
笑顔もいつもより力なく見えた。
椎奈と真理の二人はそんな海那を見てき気まずそうにしていた。
「海那、どうしたの?元気なさそうだけど…」
「大丈夫大丈夫!私はいつものカナちゃんだよ〜?」いつものふざけた調子で笑った。
「ただ、今日一時間美術だからねぇ」
少し悲しそうに言った。
「美術、嫌いなの?」
「嫌い」
今まで見たことのない怖い表情だった。誰かを憎むような…
真理が思い詰めた表情で言った。
「海那、椿にも話そう。お父さんのこと。椿も話してくれたんだから」
椎奈がいつもの優しい笑顔で言った。
「相談に乗ってもらったら?心が軽くなるかもしれないよ」
「いいよいいよ!たいした話じゃないし!話したところで何が変わるわけでもないし」
変わらずふざけた調子だが、海那の声は少し大きくなって、興奮しているようだった。
椿は言った。
「海那…話して欲しい。私、海那のこと、知りたいの」何か、私にできることがあるかもしれないし…
「本当にいいからっ!」
笑っていたけど、強い調子で言った。
雪が静かに言った。
「知らなくていいことだってあるんだよ。干渉しない方がいいことだってある。誰だって触れられたくない事情があるんだ」
私は何も言い返せなかった。私にもあったし、確かにそうかもしれない。私にできることは何もないのかな…
それからはみんな一言も話さずに、学校に着いた。
一時間目は美術だ。
美術室に入ると、優しげででも頼りなさそうな天パの男性教師がいた。顔つきが誰かと似ているような… でも、誰だろう?
海那は、その教師を避けているようだった。
チャイムが鳴ると、その男性教師は言った。
「新入生のみなさん入学おめでとうございます。はじめまして。僕は、美術を担当する、内藤和樹といいます。よろしくお願いします」
そのあと、一年間の授業内容を説明して、今日の授業の説明に入った。
「今日は友達の似顔絵を書いてもらいます。自由に二人一組になって、向かい合い、それぞれの顔を書いてください。45分授業なので、20分ごとに交代して書いてください」
私は海那とグループになった。
始めの20分間は、私が海那の絵を書く担当だ。
絵はうまくないけど、嫌いじゃない。でも、向かい合って描くと緊張する…
「椿さんファイト!気楽にやろ〜」
恥ずかしそうに書く私を気にして、海那が声をかけてくれる。
「うん、ありがとう」
ふーっ。深呼吸して肩の力を抜いてみる。
海那の目、鼻、口の形や大きさ…
よく観察して丁寧に書こう。
――――20分後―――――
やっと描けた…時間ギリギリだ。私にしては上手くできた方だな、うん。それなりに似てるんじゃないかな。
「見せて」
海那に言われて自分が書いた絵を見せる。
「あはっ、可愛くかけてる。さすが私がモデルなだけあるね」
おどけて笑った。
良かったいつもの海那だ…
「次は私だね」
次は海那の番だ。
美術が嫌いだといっていたけど、絵が苦手なんだろうか?
海那は絵を書き始めた。 無言で、時折私をちらっと見ながら、紙に鉛筆を走らせる。
真剣な表情だ…
海那をずっと見ていると、時々、口角が上がっている。あ、もしかして笑ってる…?
絵を書くの、凄く楽しそうだ。
美術が嫌いだと言い切った海那。でも、本当は…?
――――15分後―――――
海那が「できた」と言った。私より少し早い。
海那の絵を見せてもらった。思わず感嘆の声が出た。「わぁ、綺麗…!」
凄く上手かった。私そっくりに書けている。鉛筆で書いてあるのに、明るい感じがした。私のとは比べ物にならない。
とにかく…
「綺麗…」
思わず、二回いってしまった!
海那は照れたように笑った「ありがとう。まぁ、モデルがいいからね〜」
絵をかきながら笑っていた海那を思い出す。
「海那、本当は美術も絵も好きでしょ?描いてるときの海那すごく楽しそうだったよ」
私はまっすぐ海那をまっすぐ見つめた。
それから、海那も私の目を何秒か無言で見つめた。
それからすごく小さい声で呟いた。
「嘘、また見抜かれちゃった」
それから普通の調子に戻って言った。
「そうだね…絵を書くのはすごく好きだよ。でも同時な嫌いでもあるんだ。絵は、私達家族からお父さんを奪ったものだから」
「それって、どういう意味?」
「しょうがないな、椿には話すしかないか。椿もはなしてくれたしね。」
一息置いて、潜めた声で言った。
「私のお父さんはそこにいる内藤和樹。」
海那はまっすぐ前を向いていて、目線は内藤先生を見ていた。
「有名な画家で、特に海外で人気があって、ずっと外国で、主にイギリスで絵を書いていたんだ。だから、何年も家には帰ってなかった。でも、1週間に1回位だけど、電話だけはあったんだ。2年前までは…2年前から急に全く連絡がつかなくなった。仕送りだけはあったんだけどね。メールも電話も通じなくて…
でも今年の春、新聞でお父さんの名前を見つけたの。この中学で美術教師として新規採用されてた。
朝はきつい態度取っちゃってゴメンね…お父さんにどういう顔して会えばいいかわかんなくて…動揺しちゃってた。でも、もう大丈夫。」
チャイムが鳴った。
海那が言う。
「ちゃんと話し合う決心がついたよ」
迷いのない目は、しっかり先生を見据えていた。
「絵を提出してください」内藤先生が言った。
海那は一番最後に絵を出しに行った。
そして、すごく小さな声で先生と話した。
「先生、一度話し合いたいです。お時間ください。」
先生は表情を変えずに応えた。
「わかりました。では昼休み美術室にきてください」
海那はそれからなにもなかったかのように、4人でいつも通りたわいのない会話をしながら教室にもどった。
4時間目が終わるチャイムがなると、椎奈と海那が椿と真理の席のまわりに集まってきた。
海那は真剣な表情で言った。
「椎奈、真理。私、椿さんに話したよ。お父さんのこと。」
二人は驚いていたが、海那は構わず続けた。
「お父さんと、話し合う約束もした。だから、今から行ってくる」
そのまま教室を出ていこうとした。
「海那!」
それを椎奈が引き留めた。
「自分の気持ち、全部伝えてきなよ!」
椎奈のいつもの優しい笑顔が海那を見送る。
「行ってらっしゃい!」
海那も笑って言った。
「行ってきます!」
最後に海那は私たちに手を振った。
私たちが手を振り返した。ドアが閉まって、海那が見えなくなった。
「さぁ、ご飯食べよ!」
言って、椎奈は私と真理の机をくっつけ、自分の席の椅子を持ってきた。ご飯体型の完成だ。
それぞれ、お弁当を広げ始める。私も鞄から、朝コンビニで買ったシナモンロールを取り出す。
真理が聞く。
「椿いつもそれだよね。お弁当は?」
「叔母さんに頼むの申し訳ないし…。シナモンロール好きだからいいんだよ」
「椿…
そうだ!今度から椿の分のお弁当持ってきてあげる!お母さんと二人で作ってるし、いつもおかず余ったちゃうから、一人分位、余裕だよ」
「そう?じゃあ…お願いしようかな」
誘惑に負けてしまった。これから、真理のいつも美味しそうなあの弁当が食べられるのか…嬉しいなぁ。
いつも通り、何気ない会話をしてお弁当を食べ終わった。
椎奈が言う。
「やっぱり海那がいないと静かだね」
真理が答える。
「そうだね。海那、遅いね…大丈夫かな…」
しばらくみんな黙った。
うぅ、海那が気になる…
他人の事情に深く関わるのはよくないって言われたけど、でもやっぱり…
「ちょっと様子見に行こう!海那を迎えにいこうよ!」
私が急に立ち上がって、言ったから、二人ともびっくりしていた。
真理もすぐに立ち上がった。「どっちなの?そうだね…迎えに行くだけなら…」
椎奈も立ち上がって、歩き出した。「賛成!レッツゴー、美術室!」
みんな…!
よかった…!
三人で揃って教室をでた。
そして、美術室への階段を登りはじめた。
おせっかいかもしれない、でも…
何か力になりたい。
海那…どうしてるんだろ…
もし話し合いが上手くいかなくて、落ち込んでたら…その時は…どうしよう?
顔をあげると二人の笑顔があった。
そうだ、大丈夫。
海那が落ち込んでたら、私たちがそばにいてあげよう。そしてまた、みんなで笑おう。
それだけでも、きっと意味はあるはずだ。