第六章:仲間が増えた騎士団
珍しく明るい話になっていると思います。
真理の友達作りの話です。
姫→騎士目線です。
「行ってきます」
入学式の次の日、今日から一日授業だ。
空は快晴。昨日と同じように桜が降っている。
でも、昨日とは違って白い桜の間に青い空が見えている。今日はちゃんと前を向くことができていた。
昨日の出来事があったからだ。
真理と会うのがすごく楽しみだった。
真理といると、楽しいことが起こる気がする。
「椿、おはよう」
後ろから声をかけられた。澄んでいておちついた声。真理ではなさそうだ。
振り向くと、整った顔立ちのショートカットの女の子、のように見える生徒がいた。
「おはよう、雪」
彼は女の子ではなかった。
彼の名前は、如月 雪
私のお祖父さんの弟の孫、という遠い親戚である。
お祖母さんは音原家であるが、お祖父さんは庶民の出なので、雪とは気を遣わず普通に話せる。
駆け落ち事件のことも、雪にとってはどうでもいいはずだし。
雪は、よく女の子と間違えられる。親戚が集まったときにも、叔父さんや叔母さんから「可愛い」とか「女の子らしい」と言われていた。
透き通るような白い肌に、二重瞼でぱっちりした目…
これらが「女の子」と言われる原因らしい。
小柄なのでより女の子らしい。
でも本人は「女の子」と言われることをあまり気にしてはいない。
本人曰く、「言われてる性別は違えど、容姿を褒められるのは嬉しい」らしい。
羨ましくなるほど、プラス思考な性格なのである。
私が振り向くと、雪は私をじっと見つめて
それから言った。
「雰囲気柔らかくなったね、なんかいいことあった?」
「まぁね…ちょっと」
「友達ができたんでしょ。」
そして、恐ろしく勘がいい。
「なんで分かるの!?」
「なんとなく」
「じゃ、友達待ってるから僕は先に行くよ。復讐頑張って」
雪は笑顔でからかうように言って過ぎ去った。
雪は復讐のことを知っている。初めて会ったときから私が復讐したいという感情を見抜いていた。
私が「なんで分かるの!?」と聞くと
「なんとなく。誰かを憎んでいるような目をしてたから」と言った。
よくわからないけど、すごい人だ。
「おはよう。お…つ、椿」今度は女の子の声だ。そしてこのたどたどしい言い方は…!
「真理!おはよう〜」
出会えた嬉しさから、思わず抱きついた。
「わわっ、椿!いきなり何っ!」
慌てる姿がどこか愛らしい。
「朝からラブラブですなぁ〜」
海那がにやにやしながら近づいてきた。
「いつの間にか真理が椿さんとすっごく仲良くなってる!抜け駆けは許さんぞ〜」
続いて椎奈が来た。
「海那、椎奈!二人とも何言ってんの!?それより、助けてっ、苦しい…」
私は手を離して笑った。
「ごめんなさい。真理に会えたのが嬉しくてつい」
真理は顔を赤くしてうつむいた。
「海那、椎奈。おはよう。」私は改めて挨拶をした。
「椿さん、キャラ変わりすぎ!真理と急に仲良くなって…昨日の夜なんかあった?」
海那が驚いた様子で言った。
「うん、ちょっとね…」
真理は何かを促すかのようにそして不安そうにちらって私を見た。
二人にも話した方がいいと思っているのだと悟った。私は頷いた。
「海那、椎奈。二人に聞いて欲しいことあるの」
そして私は、昨日真理のお母さんに話したのと同じように私の経緯を説明した。
一通り説明し終わって言った。
「昨日は偶然真理にも聞かれちゃって…その時にね復讐は無理だけど犯人探しなら手伝うって真理が言ってくれたの」
こんなお願い図々しいかもしれない。
怖くなって俯いた。
けど、私はそのまま続けた。
「犯人探し、私一人の力では無理かもしれない。だから、二人にも協力して欲しいの!こんな、私のことで…迷惑かけることになるかもしれないんだけど…」
おそるおそる顔を上げると二人は笑顔で私を見ていた。
「もちろんオッケーだよ!犯人探しって探偵みたいでかっこいいよね!」
椎奈が言った。
「だよね!犯人探しでも復讐でも何でも来いだよ!カナがとっちめてあげる」
自信満々に海那が続く。
真理が突っ込んだ。
「ノリ軽っ!」
私は驚いて言った。
「本当に?みんな、本当に協力してくれるの?」
三人は声を揃えて言った。
「もちろん!」
嬉しかった。
私は独りじゃないんだ…!「ありがとう!」
「どういたしまして!」
真理が言って、
四人は並んで歩き始めた。
歩いていると
海那が突然言った。
「そういえば真理、友達できた?」
「昨日入学式だったんだよ!?そんな早速できるわけないでしょ」
海那がまた言った。
「私は隣の席の子と仲良くなったよ?自己紹介の時に」
椎奈が煽る。
「私も。真理、中学生になったんだし人見知り卒業しよ!自力で友達作ってみよーよ」
「もういるじゃん、友達…」ちらっと椿を見た。
「椿さんには、三人で声かけたじゃん!自力で、頑張ってみない?椿さんもほら言ってあげて!」
「頑張って、真理!」
私は拳を握って応援した。
「えぇっ、そんなこと言われても…」
もじもじしている真理に海那が追い討ちをかけるように言った。
「一週間で友達出来なかったら罰ゲームね!三人分のジュース驕ってもらうから」
「う…ん」
真理はがっくりと肩を落とした。
それは、学校に着いて授業開始直前のことだった。
次の授業の準備をしていた真理が、手を止め焦った表情で言った。
「忘れた…!」
「どうしたの?真理」
「数学の教科書忘れた… 一時間目どうしよう」
椎奈と海那が近寄ってきた。
椎奈が言った。「真理が初日から忘れ物なんて珍しいね。なんかあった?寝坊?」
「朝、店の手伝いしてて…急いで準備してたから…」
海那が言った。
「隣のクラスの子に借りたら?持ってる子いるかもよ」
「でも、借りられる人いないよ…」
海那が続ける。
「チャンスじゃん!これを機に友達作ろ!誰かに適当に話しかけてこい!」
逃げ腰で真理が言う。
「誰に?無理だよ。誰も聞いてくれないって」
「じゃあ、忘れ物すんの?数学の先生、フランケンだよ?」
私達を担当する数学教師を頭に思い浮かべる。
大柄で血色が悪いことから《フランケン》呼ばれている。
目つきが鋭くて怖い。
「そんなこと言っても…」真理が泣きそうになっていた。
見てて可愛いけど、可愛そう。
助けてあげたいな。
違うクラスの知り合い。
一人だけ思い当たる人物がいた。
「雪なら持ってるかも」
みんなが私の方を向いた。そのまま続ける。
「3組に私の親戚で、如月雪って子がいるの。真理、その子に聞いてきてみたら?」
真理は怯えた表情をした。
「怖い人じゃないよ。静かな方だし、話しかけやすいと思う。席は廊下側のドアのすぐ近くだからドアの近くで呼べばわかるよ」
真理は緊張した表情のまま頷いた。
「わかった。行ってみる!」
「頑張れ!」
私と真理はハイタッチした。 パンッ!
それを合図に真理は3組へ歩いていった。
真理は教室の前で立ち尽くしていた。
ドア開けるのめちゃくちゃ緊張する!なんて言えばいいんだろう…
如月さんだよね。
ん?男子?女子?
ひとまず下の名前なんだっけ…
ドアに張ってある名簿で確認する。
如月…あった!
『如月雪』
雪か…
女子だな。
―シュミレーション―
「如月さん、いる?」
うん、入りはこれでいいはず。それから…如月さんに会ったら…
「如月雪さんだよね?音原さんから聞いてきたんだけど、私音原さんの友達で…」
ガラッ
突然ドアが開いて、シュミレーションが中断された。
スラックスを履いた髪の短い生徒が出てきて、ぶつかりそうになった。
「ゴメン」
と言って歩いていく。
ドアの近くにいた、3組の生徒がこちらをチラッと見た。
ヤバイ!なんか気まずい…
周りから見て、私、何してんのって感じ?
もう、いくしかないっ!
「き、如月さん、いる?」
後ろから声がした。
「何?」
さっきぶつかりそうになった生徒だった。
男子かと思った…
でもよく見ると顔女子っぽいよね。
スラックス履いてる女子うちのクラスにもいるもんね。
言っちゃえ!
「あの…椿から聞いてきて…私椿の友達で…それで今日数学の教科書忘れちゃって……貸してくれない?」言えた!顔が熱い…
多分私今真っ赤だと思う…
「いいよ、ちょっと待ってて」
如月雪は教室に消えて、すぐ戻ってきた。
教科書を手渡してくれた。「はい」
真理が受けとる。
「ありがとう」
できた!このまま何でもできそうな気がする!
「私と…友達になってください!」
一世一代の告白だった。
なんか恥ずかしい…
愛の告白とかじゃないのに…!
「いいよ」
如月雪は笑って言った。
やった!
「ありがとう、雪ちゃん!」
嬉しくて、思わず抱きついた。
雪ちゃんは唖然とした表情をしていた。
わわっ、困らせちゃった…いきなり何やってんだろ…
「あ、これから雪ちゃんって呼ぶね。またね!」
逃げるようにその場を去った。
良かった…
私にもできた!
真理は教室に戻ると、早速椿達に報告した。
「雪ちゃんと友達になれたよ!」
椎奈と海那は驚いて、その後「すごい」と言って誉めてくれた。
自信に満ちて、最高の気分だった。
しかし、椿だけが怪訝そうに首を傾げていた。
「雪『ちゃん』?」
廊下では、雪が立ち尽くしていた。
「勘違いされた…」
苦笑いして言った。
「僕、『男』なんだけど…」
始業前の誰もいない廊下に虚しく響いた。