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第五章:孤独な姫とちびっこ騎士

今回は、騎士→姫というように語り手が変化します。

まだ真相は分かりませんがこの章で一段落つきます。

オリジンの二階の自分の部屋にいると、

一階で何か物音が聞こえた。


気になって降りてみると

お母さんと椿が何か話していた。


盗み聞きはいけない、分かってはいたけど二人があまりにも真剣な表情で話していたから、つい最後まで聞いてしまった。


そろそろ戻らないと…

こっそり二階に行こうとした。

が、椅子にぶつかってしまった。


ガタッ。


やってしまった!


そろーり、客席の方を見ると椿と目があった。


お母さんは気づいてたみたいでクスクス笑っていた。

「真理ー!盗み聞きは良くないわよ。残りは直接本人から聞いてね」

お母さんは「青春ね〜」とか、わけの分からないことを言いながら二階に行ってしまった。


「ちょっとお母さんってば、もう…」


椿を見ると、話を聞かれたくなかったのか暗い表情でうつむいていた。


入学式で見た寂しそうな表情と同じだった。


「椿…」


椿は顔をあげて言った。

「気にしないで、私は大丈夫だから」


口調は笑っていたけど目は笑っていなかった。


暗い影をまとった瞳、その奥が輝いていた。

やる気とか信念とか、そんな光じゃなくて

きっと、あれは…


「椿、お母さんとお父さんを殺した人を憎んでるの?」


椿は答えない。


「復讐、したいんでしょう」

椿はバッとすごい勢いで顔を上げた。


「何で分かるの!?でも…そう、私は……私は復讐するの。」

言って机にうつ伏せた。


「そっか…」

言葉が出てこない。こんなとき、なんていえばいいんだろう。


「止めないの?」

椿のか細い声が聞こえた。


「止めて欲しいの?」



「止められてもやるわよ」


「じゃあ私が止めても無駄じゃん」

真理は苦笑した。



うつ伏せて小さくなっている椿を見る。


この子は…両親がいなくなって「孤独」になって… 「復讐」を独りで抱えてるのが辛いんだろうな。

だから、あんな思い詰めたような寂しそうな目をしてたんだ。

私は復讐には賛成できないけど…

何か力になりたいな。

笑った顔が見たいな。

椿の気持ちが完全に分かる訳じゃないし、おせっかいかもだけど。

「あなたは孤独じゃないよ」って分かって欲しい。ここに味方がいるよって気付いて欲しい。


でも、私に何ができるだろう?


ふと厨房が目に入った。 今さっき、お母さんが椿にしてた話を思い出す。


椿のお母さんが、駆け落ちしたときオリジンに来て

食べたハンバーグ。


厨房の冷蔵庫には、明日お店に出す料理の材料が揃っている。


そうだ!いいことを思い付いた!


真理は厨房へ向かった。



椿が顔をあげると、真理がいなくなっていた。


私に失望して帰っちゃったのかな…

私はまた独りになっちゃった…


首を振って自分を否定する。真理は話が終わったから帰っただけだ。それに私は独りでも頑張るって決めたんだ。

叔母さん達が帰ってくる前に、そろそろ帰らないと…

立ち上がろうとしたとき、真理が厨房から出てきた。

「あ、良かった椿まだいた!」


真理、まだ帰ってなかったんだ…

なんで私こんな安心してるんだろう


「椿、良かったらこれ…」真理はテーブルにホットケーキがのったお皿とカップを二つ置いた。


「これ…」


「ホットケーキとココアなんだけど…

今作ってきたの。ちょっと食べてみて」


椿はホットケーキを一口食べた。


「このホットケーキね、私が小さい頃からお母さんがよく作ってくれたんだ。お母さん、椿のお母さんにレシピ教えてたって言ってたから…

このホットケーキ、食べたことない?」


真理は椿を見た。驚いた。椿は号泣していた。


「おいしい…これ、お母さんの味だ…」


「良かった」

真理は心から安堵していた。本当は笑って欲しかったんだけど、ちゃんと泣けて良かった。


椿は おいしい、おいしいと言いながらホットケーキを最後まで食べた。


食べ終わって、ココアを飲みながら、聞いた。


「真理、なんでこれ、作ってくれたの?」


「美味しいもの食べたら、元気になってくれるかなって思って。椿のお母さんもハンバーグ食べて元気出たみたいだから」


「心配かけてゴメンね、ありがとう」

椿は随分優しい顔になっていた。


「椿…あのね…私復讐は手伝えないけど、犯人探しなら手伝うよ。なんか私も真相知りたいもん。椿が犯人が分かって復讐しようとしたら止めるかもしれないけど…それまでなら…それでもいい?」


「うん、ありがとう」

椿は言った。素直にそう言うことができた。ちょっと前なら、助けを拒んでいたかもしれない。

でも、話を聞いてもらって、お母さんの味を思い出して、いっぱい泣いて、なんだかすっきりしていた。

そんな今なら…


「私は独りじゃなかったんだね。」

こう思うことができた。


「椿…そうだよ。独りじゃないよ。明日、学校に行けば椎奈と海那もいるよ。きっと二人とも協力してくれるよ」

真理は涙ぐんでいた。


「もう、なんで真理が泣いてるのよ」

笑って言った椿の目にも涙がたまっていた。


しばらく二人で泣き笑った。











オリジンを出るとき、真理は椿に「また明日!」と行って手を振った。


椿はなんだか嬉しかった。明日があるって、なんかいいなぁ。

あんなに固く決心していた復讐がどうでもよくなっていた。本当は、もう誰も傷つけたくなかったのかもしれない。真相を知りたかっただけなのかもしれない。


ふと、空を見上げた。

真っ黒な夜空に白い星がたくさん輝いていた。


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