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第四章:姫が掴んだ真理の欠片

次も椿目線の話です。



オリジンを出て、叔母さんの家に入ると、叔母さんのあやめさんといとこのあざみさんの声がした。

リビングにいるようだった。


両親が亡くなってから、結局お母さんの妹で私の叔母さんにあたる菖さんに引き取られた。


菖さんは、夫と離婚していて、娘の薊さんと二人で暮らしていた。


薊さんは大学生で自宅から電車で通っている。


結構遠い大学でいつもなら朝早くに通学して、夜遅くに帰ってくるのだが、今は春休みなので家にいる。


菖さんはあまり目を合わせてくれないし、必要以上に私と会話しない。

薊さんが家にいる時はいつも二人で仲良さそうに話していて、薊さんが学校にいるときは隣に住んでいる菖さんのお母さん(私のお祖母さんにあたる人)の家にいることが多い。


私を避けているようだった。

駆け落ちして出ていった自分の姉(私の母)を憎んでいるのかもしれない。



隣のお祖母さんは飼い犬と二人暮らしで、たまに私の様子を見に来てくれる。


この家の中では、薊さんだけが私に笑顔で話しかけてくれていた。


急に両親を亡くして、親戚間でも居場所の無い私を気遣ってくれているようだった。


気持ちだけは、嬉しかった。


「ただいま帰りました」

リビングを覗いて一言だけ声を掛けた。


「おかえり」薊さんが笑顔で応えて、菖さんは私から顔を背けた。


いつものことだ。


そうして、いつものように二階に用意された自室へ向かう。


二階には三部屋あって、右から私、菖さん、薊さんの部屋だった。


一番右の部屋に入り、ドアを閉めた。


すぐにベッドに倒れこんだ。


オリジンのことを思い出す。


あのハンバーグの味が今でも残っていた。


オリジンのハンバーグは

お母さんが作ってくれたハンバーグと同じ味だった。どういうことだろう?


仕事で家に帰るのが遅かったお父さん。

一緒にご飯を食べられるのは、休みの日曜日だけだった。


毎週日曜日はハンバーグだった。


二人ともハンバーグが大好きで、私も大好きだった。

「思い出の味なの」

お母さんがいつもそういっていた。


「どんな思い出?」

訪ねても教えてくれなかった。


「大人になったら教えてあげる」

お父さんはそういって笑った。


結局教えてもらえることなく二人は…


目の奥が熱くなった。


真理の家族は仲良しだった。家族の温かい雰囲気に触れて、両親が恋しくなっていた。


もうやめよう。

こんなことを考えるのは。私は強くなるんだ。

復讐のために。


ポケットからメモを取り出す。


ハンバーグの皿に置かれていたメモ。


【お母さんの話が聞きたかったら、20時にもう一度、お店に来てください】


真相を掴むためにいかないと。


菖さん達は両方別々の用事で午後6時から出掛けるはすだ。


菖さんは婦人会、薊さんは大学のサークルの集まりだそうだ。


二人とも遅くなるって言ってたから、早く帰ってくれば怪しまれずに済む。


ベッドの横の時計を見た。

今は3時、あと5時間もある。


私は私服に着替えてから、家から持ってきた、両親の遺品を調べ始めた。


何か手がかりがあるかもしれない。そう思って、毎日調べているが特に気になるものはなかった。


何かないかな…

ふと、段ボールの底に白い物が見えた。

手紙だった。


お母さんと私のお祖母さんとのやりとりの手紙だった。

お母さんが駆け落ちしてから何年後かに私のお祖母さんが心配して送ったらしい。


手紙は私が小学生になった年から6年間続いていた。たくさんあった。


手紙によると、お祖母さんはお母さんの駆け落ちを許していて、強く反対したことを逆に反省していた。 そして、二人は会う約束をしていた。


最後にお母さんが送った手紙には「30日に家族全員で会いに行きます」とあった。

30日は、両親が死んだ日の次の日だった。


こんなことがあるなんて。あと、一日経てば私は両親のことを知ることになったし、お母さんにとって改めて母に家族を紹介できる、特別な一日を迎えられたのに。


私は溜め息をついた。


そしていつの間にか寝ていた。


気がつくと、5時になっていた。

菖さん達は出掛けるし、私は料理が作れないので

お祖母さんの所で夕食を頂くことになっていた。

6時に来てくれと言われていたので、準備をして

玄関を出た。


徒歩1分位、すぐにお祖母さんの家に着いた。


お祖母さんの家は、日本風な作りで大きい。旅館みたいだ。


玄関の前の犬小屋にでん、と居座っているお祖母さんの愛犬ハナ(ゴールデンレトリバー)に挨拶して、チャイムを鳴らす。


すぐドアが開いて、おばあさんが出てきた。

背筋がしゃんとしていて、おばあさんというよりはおばさんという感じだ。

本当は65歳だが50歳位に見える。


「こんばんは」

「椿、いらっしゃい。夕飯できてるよ」


台所に行くとテーブルに美味しそうな料理が並べられていた。


ご飯と味噌汁、野菜の煮物、漬け物、肉じゃが。


どれもすごく美味しい。


お祖母さんが作るご飯はいつも和食だった。


洋食が出たことはないし、もちろんハンバーグもない。


じゃあお母さんは誰に教わって、ハンバーグを作っていたんだろう。


ハンバーグだけではない、以前家で食べた洋食は、一体?


まぁ、レシピ本とか見たら作れるしね。

そういうのを活用していたんだろう。


夕食を終え、片付けをしてお祖母さんの家を出た。


そこから徒歩10分。時刻は7時半、オリジンに着いた。


ドアを開けると昼間私達が座っていた席に、真理のお母さんが座っていた。


「いらっしゃい。来てくれてありがとう。さぁ、座って座って」言って笑った。

私が座ると

おばさんは言った「いきなり呼んでごめんね。びっくりしてるよね。何でお母さんのこと知ってるのって思ってるでしょ」


私はうなずいて言った

「何で母のことを知っているんですか?」


「15年前の今日みたいな春の日、今日と同じ位の時間にあなたの両親が来たんだよ」おばさんは真相を話し始めた。


「二人ともひどく息を切らしてて、深刻そうな顔をで。話を聞くと、駆け落ちしてきたって。驚いたよ。あと、夕食まだだって言うから中にいれてあげて、夕食の残りのハンバーグをだしたんだよ。あなたのお母さん、菫は食べて美味しいっていいながら号泣して。辛かったんだと思う。両親裏切って駆け落ちするのが。すごくいいこだったし。それでもどうしても結婚したかったんだね。二人はすごく仲良かったしね。」


「あ、だから…

あのハンバーグはおばさんのレシピだったんですね」私は納得した。


「そうだよ。菫、ハンバーグすごく気に入って作り方教えてくれって。他にも料理の作り方いろいろ教えたよ」


そうだったんだ。謎が解けた。

「けど、急に二人とも… それを聞いた時はびっくりしたし悲しかった。二人がこの店を出て引っ越した後も手紙でやりとりしてたんだ。手紙の中で、お母さんが謝ってくれて仲直りできそうだって喜んでたのに。音原家に戻ってきて、とも言われてたみたいだよ。そんで、娘にも駆け落ちしたことを話して4人でご飯食べにくるって話してたのになぁ。なんかやるせないよ」


あの手紙のことだ。

そんな良いことが始まる直前に。何で両親は…

もしかして、両親の死は 両親がお祖母さんと仲直りすることに問題があるのか?それに反発する誰かがいたとしたら?

じゃあ、それは誰?そして何故?


私は打ち明けた。

「おばさん、私の両親は事故で死んだんじゃありません。殺されたんです。あの車はわざと両親の車にぶつけたんです。私はそう思っています。」


おばさんは驚いた表情をしていた。


私は続けた。

「だから私は真相を知るために、母のことを調べています。今日の話すごく助かりました。また何か分かることがあったら教えてください」


おばさんは、強い意思を感じ取ったのか

強く頷いて

「うん、教える。真相がわかったら、私にも教えてね」そう言ってくれた。


その時、厨房からガタッという物音が聞こえた。


見ると、暗闇の中に人の姿があった。


それは真理だった。


話を聞いていたらしい。


真理がばつの悪そうな顔でこっちを見ていた。


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