第二章:ちびっこ騎士
次は騎士目線の話です。
教室では、入学式を終えて中学生になったばかりの生徒達が担任の先生の話を聞いていた。
「それでは、今からみんなに自己紹介をしてもらいます。名前と出身と趣味とか特技とか、自由に話してください。出席番号一番の人から…」
教室は、少しざわめいた。様々な声や思いが入り交じっていた。
どんな人がいるのか辺りを見回す生徒、どんな自己紹介をするのか友達と相談する生徒、
そして、自己紹介をする不安と緊張でドキドキしている生徒…
何を言えばいいんだろう。名前と趣味と…
趣味、これでおかしくないかな。
そんな心配は、大きくなったざわめきですぐにかき消されることになる。
「じゃ次、音原さん」
先生に言われ、隣の女生徒が起立した。
その瞬間、皆の目が一斉に[音原さん]に釘付けになった。
「音原椿です。よろしくお願いします」
感情のない声でそれだけ言って、すぐ座った。
すらりとした長身で、ウェーブがかかった色素の薄い茶髪、碧眼の大人びた雰囲気を持つ美少女だった。
周囲の目線が集まっている中、碧い瞳は何も映していないかのようだった。
澄ましたようなその態度は、どこか寂しそうに見えた。
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ホームルームが午前で終わり、帰り支度をしていると後ろから背中を叩かれた。
「真理、帰ろっ!」
振り向くと、小学校からの友達である
神崎椎奈と内藤海那だった。
「中学生になってもちっこいな、真理は。何センチだっけ?」海那はいたずらっぽく言った。
「140センチ。でも、まだ伸びるもん!」
抗議しながらカバンを担いだ。
「お腹空いた!真理ん家のお店でご飯食べよ」
抗議を無視して海那が言って、歩き出した。
「あたし、オムライス食べたい。[オリジン]のオムライス、おいしいんだよねー」のんびりとした調子で椎奈が続いた。
「ちょっと置いていかないでよ」
真理があわてて追いかけた。
真理の両親は小さな喫茶店[オリジン]を経営している。
店は小さく、父が会社に勤めている平日は母が一人で切り盛りしている為、メニューも少ないが、
温かい雰囲気と母が作るおいしい料理が 近所では、評判となっている。
小さい頃から店を手伝っている真理は、[オリジン]が大好きだった。
校門を出ると、目の前に茶色い髪の生徒がいた。
「あっ!音原椿さんだ!」海那が叫んだ。
音原さんは、気づいてないようで私達の前を歩き続けていた。
海那は少し小声になって
「可愛いっ、お人形さんみたい」とはしゃいだ。
「あたしは童話に出てくるお姫様みたいだなって思った」椎奈が言った。
「確かに。姫っぽい。金髪碧眼、に近い感じがなんかそれっぽい。髪ふわふわだし。ねぇねぇ、ハーフかな」
「ちょっと、遠巻きにいろいろ言うの失礼だよ」
真理が小声で言って、前の音原さんを見た。
自己紹介の時と変わらず、無表情で、でもなんか哀しそうだった。
「音原さんもお昼まだかな。」真理がつぶやくと
二人は楽しそうな表情になった。
「誘っちゃう?一緒にご飯食べたいな」椎奈が笑顔で言った。
「賛成。そうしよう」
真理が安心した様子で頷いた。[オリジン]で食事をしたら少しは元気になってもらえるかと思った。おいしい料理を食べたら幸せな気持ちになれる、そう信じていた。
「そうと決まったら行くよ」海那は二人の手を取って走り出した。