第十二章「魔」の正体
雪の白い両手が真理の首へ伸びてくる。
冷たい。呼吸ができない。
真理は雪に首を絞められていた。
後ろから妹の真実の叫び声が聞こえる。
「おねぇちゃん!!」
雪は力を緩めない。
雪の目を見ると冷たく、感情の光を宿していなかった。
雪の背後に古い倉庫のような建物。その中に何人かの人影見えた。
見えている状況を理解すり間もなく、頭の中が真っ白になっていく。視界が歪む。
その時、ウーウーと甲高いサイレンの音がした。
「あの倉庫が火事です!」
聞き慣れた明るい声がした。
不意に呼吸が楽になる。首にあった雪の手が外れた。
雪が逃げていく後ろ姿が見えて真理は力が抜けその場でしゃがみ込んだ。
「待て!」
鋭い声を出して椎奈が雪を追いかける。
椎奈は陸上部員でとても足が速い。あっという間に捕まってしまった。
トン。背中に温かい感触を感じた。振り向くと海那の心配そうな顔。続いて真実ものろのろと走り寄る。その後ろに消防隊員がいた。
「君大丈夫かい?」
一人の隊員が真理に寄り添ってくれて、もう一人が倉庫の中に入っていく。
人影はもうなくなっていた。
「あれ?火事なんかないじゃないか」
「えー、おかしいなぁ。確かに煙りが上がっていくのがこのあたりから見えたんですけど…見間違いだったのかな?」
海那がわざとらしい声を出した。
怖い顔で消防隊員達が詰め寄って来る。そこから説教が始まりそうな雰囲気を察して
「この子具合悪いんで連れて帰らなきゃ!すいませんでした!これで失礼します!」そういって海那は真実と一緒私の肩を支えながら消防隊員から逃げるようにその場を後にした。
「あっ、ちょっと待ちなさい!」
辺りは日が落ちて暗くなっていた。
「ここまで来たら大丈夫でしょ」
椿の家の前まで戻ってきた。後ろを向くと椎奈と雪がついて来ていた。
家の中にいた椿も私達を見つけると心配そうに駆け寄ってきた。
みんなが揃ったところで、
椎奈が口を開いた。
「どうゆうこと?説明してよ」
目線の先に雪がいた。いつもにこにこしている椎奈が普段からは想像できない位怖い顔で雪睨む。。
状況が飲み込めていない椿に海那が小さな声で説明する。
雪は俯いて何も言わなかった。唇を噛み締めて今にも泣きそうだった。
少しの間静かになる。
その空間に真実が空気吸い込む音が響いた。
「あの」
雪以外の皆が真実の方を見る。
その時、頭上から声がした。
「この役立たず」
顔を上げると薊さんが無表情で立っていた。
薊さんはそう言って雪の頭を小突く。雪が青くなっていく。
いつも笑顔の薊さんの無表情は、冷たく怖かった。
真実が大きな声を出す。
「もしかして…あなたが…」
いつも笑顔で優しい薊の顔に感情がない。
「よく気づいたわね」
その声は震えていた。
引き攣った笑顔で言う。
「私が全ての黒幕よ」
だんだん暗い展開になっていますが…もう少しお付き合いください。